第438話 ◆セレネ不法入国罪で捕まる

◆セレネ不法入国罪で捕まる


隣りの国にヴァカンスの地を求めて山越えをしたあたしは、その国土の広大さに驚愕していた。


と同時に腹ペコだった。


何しろ飛び続けること5時間。 周りの景色には全く変化がない。


ガクン


そして突然高度が落ち始める。  というかこれはもう墜落に近い。


これはハンガーノックだ。 もう肉体がエネルギーを失って力が出せないのだ。 簡単に言えばHPが空になってしまった状態だ。


ヒューーー


自由落下を続けて、残りの30mで最後の力を振り絞る。


トサッ


なんとか草むらに軟着陸できてほっとする。


あーーー  ひもじいよー  やっぱり相棒を連れてくれば良かったーー!  (なぜ、こうなったかすっかり忘れている)


でもここまで来ては、もうアフターカーニバルである。  ←後の祭り(死語?)



せめて出がけの際に、おにぎりとか持ってくれば良かったのだけれど、お城のみんなは冷たかった。


見送りに来たのはニーナとサリエルだけ。 その二人も早く行っちまえよコノヤローみたいな雰囲気だった。 ←これはセレネの思い込み


普通だったらお見送りのとき、お餞別に何か用意してくれるハズだよね!  せめて、おにぎりに玉子焼きとか。


エグッ グスッ


お腹が減るとすごく弱気になるものなんだ。  そういえばこっちの世界に来たばかりのころもお腹が空いてたなあと思い出す。



しばらく草むらに大の字に寝転がっていると、不意に顔の上に二つの黒い影が長く伸びて来た。


もしかして人?


頭をそのままに視線だけ移してその影の方を見てみれば、銃を持った二人の男が立っているではないか。


あたしは男たちを刺激しないように、両手をゆっくり挙げながら起き上がった。



そのまま大人しくしていろ。 おまえを不法入国罪で逮捕する!


へっ?  不法入国?  この世界で今まで旅をして来た国々は、出入り自由だったじゃないの。 ここだけNGなの?


あたしはひさしぶりにパニクった。



男たちは、あたしに木でできた手枷を嵌め、馬車の荷台に乗るようにと命令した。


あちゃー  どうしよう、このまま逃げてしまおうか?   いまの自分ならそれは容易いことだ。


しかし、あたしは気づいた。  馬車の荷台に背筋が凍り付くような気を発している、頭から毛布のようなものを被った何かがいるのを。

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