第182話

 己の欲望、快楽の為にカネという怪しい果実を誰よりも多く収穫する為に、偽りの魂をすり減らし「愛」の言葉、行為で溝を埋める……。


 その「愛」は「愛」なのか……。


 しかし、人間はその為になら、自分以外の命の営みさえも容易く消し去る……相手が「愛する」人であろうとも……。


 ならば……


「愛」という言葉で、この世界の人間達に贈り物を贈ろう……。


「死」なる贈り物を……。


 贈った側の礼子さんや「飽きた」成功者達……そして、私も死んでゆく。


 愛人形達に抱かれて死を迎える……私はそれでいい……。


 それ故の歩んできた道であり、それ故の「塩おむすび」なのだ……贅沢な食べ物など、いらない。


 私達は「無」となるべく命を終え、土ヘ、海ヘ、宇宙へと還ってゆく……。


 人間は存在を失う……。


 嘆き、悲しむ「者」はいないだろう。


 歓ぶかどうかもわからない。


「考えるだけ……無駄ね……」


 月ではなく、星達が煌めきを増して私に説く……。


「そうなのよね……」


 わかっている……答えが得られない事も、無駄な事も……。


 が、愛人形達はこれからも存在し続ける……かつて人間という生物がこの地球上を「支配」していたと身勝手に思考し、生きていた頃の面影としての「墓標」であり、人間の愚かさと儚さの「象徴」でもある彼女達は、人間のいない「新たな世界」でなにをしてゆくのだろう……。


 私達人間の様に、愛人形達の文化、文明を築き、私達よりも巧みに賢く繁栄を極め尽くしてゆくのだろうか……。


 それもいいのかもしれない……。


 愛人形達が、独自の世界を創ろうとも争い、消滅したとしても、もう「人間」には関係のない景色。


 地球環境を守る……。


 動植物を管理する……。


 子供達の未来を創る……。


 私達はなんとおこがましいのだろう……。


「別に、影響なんてないけれど……」


「寧ろ、好都合……」


 地球、動植物らはそう想っているのかもしれない。


 では、自ら死を施行する事を「彼ら」は待っているのか……。


 かつて高度な文明を築いた先人達も、未来を描けず絶望し、飽きて自らの世界を終わらせたのか。


 いや……こう考えるだけ無意味かつ、あたかも高尚に論じる行為こそ……罪……。


 終わった後の事は、愛人形達に任せればいい。




 感謝……。


 笑顔……。


 勇気……。


 夢は叶う……。


 もう、偽りの善意の押しつけはいらない……。




「さようなら……人間……」


 これが、私の導き出した「愛」……。




 声援が増す……既に「わたあめ」は歌い終え、アンコールを求める声が鳴り響く……。


「ありがとう……!」


 詩織が弾ける……。

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