第165話
「だ、騙したな……」
「私は騙してなんかいないわ……あなたが法廷で演じた茶番を再現したまでの事。だいたい、そんな事であなたの命が救われるとでも本気で思っているのかしら」
「くっ……お前ぇ……」
「そんな恨めしそうな顔で私を見上げても、もうどうにもならないわ……死ぬのだから……」
「うっ……ちくしょう……」
そう呻き、男は激しく血を吐いた。その「汚物」が、私のパンプスに付着する……。
私の感情が、熱く加速する……。
「あなたに命乞いをする権利なんてない。あなたに穢され、命を奪われた少女達だって僅かな希望に縋り、命乞いをした筈……なのにお前はいたぶり、犯し、弄び、殺した。死刑判決も当然でしょう。それが、自分は助かろうなんて都合が良すぎる話だわ。だからもう、ここで死になさい……もう、無罪を主張するとか、弁護団の恥ずかしい策略に同調しなくてもいい……遅かれ早かれ、私達は全て死ぬのだから。その為の、来たるべき日の為のお前は礎なのよ……お前の血、お前のやるせなさが次へと繋がってゆく。だからもう、ここで死になさい……後悔と私達の想いを叶える為の実験体に選ばれた喜びを感じながら……そしてあの世でお前が殺した少女達に蔑まれ、いたぶられ、永遠に死の苦痛を味わうといいわ……」
「こ、この……やろう……」
その後なにかぶつぶつと呟いていた男……救いを求めているのか、私に恨み言を言っているのか、自身の罪を認め、謝罪の言葉を紡いでいるのか……血を吐きながら不正確な男の言葉が続いた。
「うっ……こ、ぐげっ……!」
それはもう、言葉ではなかった。大量に血を吐き、呻き、男の手は救いを求める様に、離れた私に伸びる。
決して「届かない」希望を……。
「なんで、なんでだよ……ちくしょう……ちくしょう……死にたくないよ……死にたくない……」
「……おかあさん……お母さん……お、か……」
世間を騒がせた少女連続誘拐監禁強姦殺人者は、弱々しくも、最後の力を振り絞り言い「惨めな」死を晒した。
「あなたに安楽な死なんて許されない……5回死のうが、10回死のうが、その罪が消え、その欲望の行為が許される筈もないのよ……」
私は吐き棄てた……。
「あら、死んでしまったのね……」
計ったかの様に礼子さんが戻り、あっけらかんと言い、続けた。
「世の中にはね、生きていてもなんの価値もない人間がいるのよ……」
「…………」
「産まれながらに悪い人間はいない……嘘もこの領域に達すると笑ってしまうわね」
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