第140話
「シフォンさんと、ふたりで話がしたいの……」
私の魂が、心を揺さぶり、意思を伝える。
彼女を……終わらせる為に……。
「はい……」
彼は静かに言い、疲れ果てた躰と魂をシフォンに向け、一礼した……。
「けっ……」
最後まで自身を支えた彼をもシフォンは棄て、その存在を抹殺した。
「どうか、お願いします……」
憔悴した彼が、私に囁きスタジオを出てゆく……シフォンを支え、愛した人間に彼女は応えなかった。
人間という後ろ楯を失ったシフォンは、ただ不貞腐れ、破損を免れた鏡に映る己を眺めている……。
出入口の分厚く重たいドアが、音もなく閉じられた。
私は座っているシフォンの背後に移動し、同じ鏡を見た……。
互いの姿が鏡に映る……。
そこに顕になった「本性」と「本性」の戦いが始まる……。
「殺してやる……なんて、随分と乱暴なのね……」
「うるせぇ、お前らムカつくんだよっ……私の上に立ちやがって」
「どうして、そこまで私達に拘るのかしら……」
「お前ら邪魔なんだよっ……!私、シフォンは常に1番でなければならないんだよっ。頂点に君臨する事が私の全てなんだよっ……!」
「悲しいわね……」
「けっ、テメェに何がわかるんだよっ……頂点を極める為にどれだけバカどもに気を遣って、擦り寄って頭下げたと思ってんだよっ……下らねぇ」
鏡の中のシフォンが、私を刺す……普通にしていれば美しく、端正で、私から見ても羨ましい程の美貌な筈なのに、その要素さえも鏡の中に棲まうシフォンは歪め、不気味さが覆う……。
「あなたの苦労、わかるわ……さっきマネージャーさんに少し聞いたから……でも、だからって彼やあなたのスタッフ達、他のアーティストやアイドルを標的に苛立ちをぶつけるのは……」
「るっせぇなっ……!女王の私にバカアイドルのマネージャーのテメェが偉そうに指図してんじゃねぇよっ……!」
「指図なんてしていないわ……人として、シフォンさんのあるべき姿が間違っているのでは……と、私は思うの……」
「関係ねぇんだよっ……ったく、この私がせっかくテメェらにいい感じの曲創って歌ってんのに、無能なバカ連中がちゃんとプロモーションしねぇから、ヴィーラヴなんてつまんねぇバカアイドルの歌に負けるんだよっ……だから、無能なヤツらも、私の曲を買わねぇヤツらも、お前らも死んじまえよっ……バカがっ……!」
独自の「自論」展開し、言い散らかした醜い形相のシフォンは、目の前に転がっていた口紅を手に取りつまみを回し、口紅の先端を出し入れする動作を繰り返す……。
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