第125話

 スタッフ達は愛人形達を疑いもなく人間と認識し、接している。


 愛人形とスタッフ達の交わりが微笑ましく映る。


 人間と人間の関係は、こうあるべきなのだ。


 これでいい……。


 彼らは素直な心でメイクを施し、衣装を纏わせ、記録に残す……愛人形達と苦しみ、喜びを分かち合いながら生きてゆく……「その時」が訪れるまで。


 故にスタッフ達には今を精一杯に生きて欲しい……愛人形の愛を受けて……。




「さぁ、上の階の宿泊施設に移動するわよ……」


 エントランスホールで談笑している皆に、私の声は込み上げる嬉しさを自動抑制した……「私は他の用事があるから……」と色気のある声で言った礼子さんは、別の施設棟に消え、ここにはいない……。


 詩織とキャロルアンを先頭に、女性スタッフ達とエレベーターに乗り込む愛人形達……。


『枕投げっ、枕投げっ……』


 第2陣としてエレベーターを待つモカとモコが扉の前でシンクロし、アリスと雪が同調する。


「いゃへほいっっと……」


 快の気持ちが頂点に達したアリスが、扉が開いた瞬間に訳のわからない奇声を発し、モカ、モコ、雪とスタッフ達を道連れにエレベーター内へとなだれ込む……。




「…………」


 ただひとり、まだ私とは距離があるエレベーターとの間で、何も言わず恥ずかしそうにもじもじと躰を揺らす万希子さんがいる……。


「どうしたの……」


「あ、あのう舞さん……そ、その……枕投げ……楽しみですね……」


 桃色の顔で、人生最大の決心を込めたかの様に言い、私に放たれた可愛く至高の万希子さんの笑顔。


「はぁぁっ……」


 耐えきれず、エレベーター内に駆け込む万希子さん……「余韻を楽しんで……」アリスがたおやかな笑みと強かな瞳で私の心に語り、扉を閉める。




 今……死んでもいい……そう思った。


 万希子さんの仕草と笑顔に……。


 誰もいない静かなエントランスホール……ぽつんと私ひとり……。


 吹抜けのガラスから射し込む月灯り……。




「んもぅ……万希子さん……そんな事、言わないでよ……可愛い過ぎるわ……」


「狡い……狡いわよ……」


 躰が火照り、堪えていた涙が溢れた。


 私の愛人形……その完璧な人間としての振る舞い。


「アリスったら……」


 その「粋な」想いに甘え、私は涙を流し続け、微笑み、自慰とは異なる快楽を愉しみ、月灯りを浴びて私は私の愛人形達の余韻に浸った……。

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