第102話

「舞さんっ……ロボットではないわ!そんな呼び方はやめて頂戴……」


 怒りの眼差しで私を睨み、激しく声を荒げた礼子さん。


 今まで一度も見せた事もない表情に私は驚き、背中が冷えた……。




「大きな声を出して、ごめんなさい……」


 感情を顕にして、声を荒げた自分を反省する様に額に手をやり、ゆっくりと首を振り自らをいさめる礼子さん……。


「今のは、私が冷静さを失っていたわ……恥ずかしい姿ね……」


「私の方こそ、ロボットだなんて思わず……すみません……」


 少し俯き加減に話す礼子さんが可愛く見え、つられて謝る私……。


 単に、面白可笑しくカネを稼ぎ、世の中を欺き、楽な暮らしをする為にヴィーラヴが創られたのではない事は、ロボットという名称を否定する礼子さんの剣幕で示された。


「彼女達の存在を理解して欲しいの……」


「でも、何と言えば……」


「…………」


 意味深な笑みを浮かべ、礼子さんは明言を避ける。


 一定周期で低く唸り続ける振動音は、今も鳴り止まない……まるで彼女達の鼓動の様に……。




「何故、彼女達が創られたか……そんな話だったかしら……」


「はい……」




「いなくなるのよ……」


「えっ……」


「いなくなるのよ……私達が……」


「礼子さん、何を言っているのかわかりません」


「ふふふっ……何って舞さん、死ぬのよ……私達人間は……」


「からかうのはやめて下さい……」


「からかってなんかいないわ……だって、近い未来に本当に起こる事だもの」


 礼子さんの言葉に迷いはない……寧ろ、事が早く現実になって欲しい……そんな狂気を含む眼差しで私を見た後、ヴィーラヴを愛おしく眺める……。




「私達が皆死ぬなんて……言っている事が理解できません……」


「それはどうかしら……だって私達人間は脈々と続けているじゃない……死なせ合いを……」


「戦争……って意味ですか」


「それは大袈裟ね……死というのは、私達の身近にある現象……」


「…………」


「あら、意外ねぇ……舞さんなら私の言った事を感じてくれると思っていたのに……」


「私には、わかりません……」


「そのままの意味よ……」


「礼子さん言葉遊びはやめて、本質を語って下さい」


「ちゃんと本質を突いているわよ……最初から。近く、私達人間は全て死ぬの……戦争なんて下品な行為ではなく、遥かに高尚な行いによって……」




「礼子さんが、実行するというんですか……」


「私と想いを共にする者達……と言った方がいいかしら。ここも表向きは政府と民間企業の財団法人だけれど、一方で私達の想いを遂げる為の施設でもある……もう、わかるわね。彼女達、ヴィーラヴはここで産まれたのよ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る