第100話

「万希子の件の時にも言った筈よ……あなた方の間には愛があるって。万希子、アリス、流花と葵……他人や私に頼っても良かったのに、舞さんはたったひとりで現象に向き合い、解決した……確かに辛かったかもしれない、嫌だったかもしれない……それでも舞さんは立ち向かい、関係を深めた……それを愛と言わずして何と言うのかしら……」


「…………」


「見て……彼女達を……」


 包んでいた手を解き、ガラスの壁へ礼子さんは歩み寄る……透明で特殊な液体に充たされたシリンダーケースの中で「人間」になろうとしているヴィーラヴを腕を組み、見つめる……。


 キャロルアンのケースが移動して停止、固定される。頭髪や体毛はない……。


 しかし何故、私は「あれ」を見てキャロルアンと認識したのだろう……。


 私の考えを遮断する、けたたましい警告音の後に高周波音が続く……ケース内部が青白い閃光を放つ。


「どろり……」


 筋肉繊維や合金が透けて見える程に、薄く纏っていた半透明な「肌」が液体と化学反応を起こし、剥がれ落ちてゆく……足元から濁った液体が排出され、上部から新たな透明な液体が充填される。


 再び警告音が鳴る……。


 すると足元から白い膜がシリンダー内のガイドレールに沿って、CTスキャンの行程の様にキャロルアンの足、腰、胸、肩、頭をゆっくりと貫き、通り過ぎてゆく……。


 通過したキャロルアンに、まだ薄く透き通っているものの、新しい肌が「装備」された……。


 詳しい技術などわからない……知って、理解できるとも思えない。


 液体のなくなったキャロルアンのケースが再び移動し、詩織の隣に寄り添った。


 均一に並ぶ9個のシリンダーケース……キャロルアン、詩織、万希子さん、モカ、モコ、雪、アリス、流花、葵……。


 薄い衣を纏った、ヴィーラヴ……。


「ここまで8割といったところかしら……これから彼女達は本物の肌を纏い、人格をプログラムされ、それを自己診断して適正化を行い、私達を、舞さんを認識し、再びヴィーラヴとして輝きを放つのよ」


 礼子さんは彼女達に見惚れながら、誇り高く言った。


 葵が移動する……先程よりも厳重にケースが固定される。


 じわりと粘度のある乳白色の液体が充填され、葵を覆い尽くす……。


「そうか……」


 どうして彼女達とわかるのか……それは、ヴィーラヴと歩んだ過去の記憶の蓄積と、筋肉繊維そのままの「異様」な姿ながらも読み解ける個々の躰つきや、放たれる「気」。そして私を見ているかの様な各々の眼球から個々を特定し、認識しているのだ……。

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