3「不可思議の国のアリス」
第40話
アリスが私を見る……。
まだ、14歳の無邪気で幼い眼が私を見る……。
何処かこの世界の出来事を哀れみ、蔑んでいるかの如く、悲しくも見える瞳……。
注文したチョコレートパフェがアリスの前に置かれる……スプーンを器用に回し、紙ナプキンを上手に剥ぎ取ると、待ってましたとばかりに生クリームを舐める。
私の前には、ホットココアが置かれた……甘い物なんて滅多に口にしないのに、何故オーダーしてしまったのか……。
わかっている……数時間前に起きた出来事を考えれば、心が、躰が、本能的に甘みを要求するのも無理はない。
あのままマンションに送る気になれなかった私は「甘い物でも食べない」と口実を作り、目についたファミリーレストランに車を向けた……店内は、片手で数えられる程度の客が、ぽつりぽつりと散らばって座っている。
圧倒的存在感故か、客達の囁き声が聞こえる。自分がその対象でもないのに私は俯き、店員の後に続く。アリスは、気づかれて当然……とばかりに堂々と歩く……アリスの全身から放たれるオーラが、閑散とした店を覆ってゆく……。
他の客達から適度に離れた窓際の席に案内される。アリスは両肘をテーブルに突いて、ちょこんと手のひらに顔を乗せ、人差し指で頬を弾き、外を見る。
私は、差し出されたメニューを眺め、どう話を切り出そうかと考えあぐねていた。
ヴィーラヴによる愛の贈り物、ファーストアルバム「セラフィム」のセールス、配信は好調だ……発売初日でダブルミリオンを達成し、ダウンロード数も加速度的に伸び、勢いは止まらない。
次元が違う……。
4枚目のシングル曲の打ち合わせ、取材や撮影等、メンバーそれぞれの仕事をこなし、珍しく夕方には全てのスケジュールが終了したその日、いつもの様に彼女達をマンションへ送る。私の車にアリス、葵、流花、雪が乗り、他のメンバーは詩織が運転する車に乗る……。
プライベートな時間はともかく、仕事上の移動の場合は本来なら運転手をつけるのが「常識」だが、詩織は「私達がイメージキャラクターを務めている車を移動時とはいえ、自ら運転せずに宣伝しているのは卑怯っぽい」と言い、運転手をつける事を強く拒んだ。
「詩織は事故なんか起こさないわ……絶対に」
社長が宣言し許可するまでは、ちょっとした騒動になった。
結果、詩織の行為はヴィーラヴのイメージを更に向上させ、けっして安くはないプレミアムブランドの高級ミニヴァンの販売台数も増えているという。
帰路……やはり渋滞に巻き込まれる。彼女達を送り届けてから2時間弱が過ぎていた……。
街はヴィーラヴで彩られている。
彼女達は、人々の生活の奥深く潜り込み、人生を喰い尽くしてゆくのか……。
「何を言ってるのよ……私は……」
スマートフォンが鳴った……非通知だったが、路肩に車を寄せ電話に出た。
「もしもし、高樹さんですか……わたくしステラ、グリーンビレッジ店の店長、
「は、はい……どの様なご用件でしょうか」
「実は、楽杏 アリスさんという方が、当店の商品を精算せずに店外に持ち出し、巡回保安員に確保されまして……」
「えっ……」
「はぁ……つまり、万引きしたって事ですよ」
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