第31話
「私に構わず、レコーディングを続けて下さい」
自分のせいで、予定が遅れる事を懸念し、詫びる。
「気にしないで……スケジュールはどうとでもするわ。それより、どうして辞めるなんて言ったの」
「私……お荷物だから」
震え、悔しさも滲ませた声で呟いた。
「ヴィーラヴに入った時から思っていたんです。舞さんも私を観てきてわかったでしょう……歌も踊りも上手じゃないし……いいえ寧ろ下手だと思います。地味で人気もない……詩織みたいに強くないですし……本当に私なんかがヴィーラヴで……皆と一緒にいてもいいのかなって……」
「万希子さん……」
「もっと、私よりも才能のある人が入るべきだったんです。それが、私が入ったばっかりに……」
水晶の涙を流しながら、自分の存在を否定し続ける。私は万希子さんを抱き寄せた。
「何言ってるの……万希子さんは皆に頼られているじゃない。万希子さんは誰からも好かれ、愛されているのよ」
「私が……」
「そうよ……だから自信を持って。私も過去に色々あって悩み、苦しんだ時期があったの。でも、社長と出逢い必要とされて今、こうして万希子さん達と仕事をしている」
「…………」
「皆、万希子さんが好きなの……だから、辞めるなんて言わないで」
空は、既に淡いオレンジ色に染まりつつあり、時の経過を知らせている。
ほんわりと温まった空気の膜をしなやかに裂き、万希子さんは想いを紡ぐ。
「夢だったんです……」
心の中の大切な引き出しの鍵を開け、自らの源を打ち明ける。
「私には、双子の姉がいました。だから、モカちゃんやモコちゃんを見ていると思い出すんです……でも段々、悲しくなって……悟られたくないから我慢するんですけど、同時にふたりに励まされたりもするんです。それが、余計に可愛くて辛くて」
双子の姉……資料にはなかった事実。
「こう見えて小さい頃、私は明るくて姉より活発でした。よくアイドルの真似事をして姉さんを笑わせたりする内に、一緒に歌ったり踊ったりしていたんです」
遠い過去の楽しい記憶を懐かしみ、万希子さんの表情が僅かに和らぐ。
「アイドルになりたいって、内気な姉が言ったんです……それから毎日、歌や踊りを繰り返し練習しては私に披露するまでに積極的になって……私、嬉しくて羨ましかった。目標に向かって努力する姉の姿が」
「でもね舞さん……姉の夢が叶う事はありませんでした」
表情を曇らせて、ぼんやりとした視線を外の風景に向け、悲話の核心部へと話を進める。
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