一章 一話 朝一番の妄想
俺は柊咲夜。高校二年生だ。成績、容姿ともに一流に見劣りするレベルで、趣味といえるほど熱中しているものは無い、男子高校生の基本のような人間である。
・・まあ、少し特殊な育ちではあるのだがそれについてはおいおい。
さて、季節は春。高校生活も二年目に突入した。進級から一週間。新しいクラスにも、真新しい制服を着て登校していく後輩の姿にも慣れてきた。
「行ってきます」
のんびりとしたペースで登校を開始する。
うちの学校は自転車通学をする生徒が多い。けど、高校に近い俺は徒歩での通学。今の高校を選んだ最大の理由だしな。
それにしても春はいいねー。ポカポカしているので気持ちよく寝ていられる。
・・・・パトロールがなければだがな。
終わるのが夜遅いせいで、ここ最近はすっかり寝不足だ。今日も睡眠学習で決定だな。
「・・おっす・・咲夜」
立ったまま寝ているのではないかと勘違いしそうになる顔をした男が、これまた眠そうな声で俺を呼ぶ。
だがスマートフォンを両手でしっかりと持ち、高速で動く指に躊躇いはない。
「おはよう灰。今日はまた一段と眠そうだな」
こいつは橘灰。小学生の頃からの昔馴染みで今もよくつるんでいる。
身長は平均的で少し無愛想なのだが・・・・イケメンなんだよ。
おまけに何でもそつなくこなす秀才君なもんだから好意を持つ女子も少なくない。
しかし、こいつに浮いた話は全くない。なぜなら・・
「ああ・・イベントが始まったからな。今日は寝てない」
「・・またソシャゲか」
欠伸をし、俺と会話しながらも指を忙しなく動かす灰を見て嘆息する。
・・そう、こいつはゲームオタなのである。
本人曰く「趣味ではない。生命活動に必要なことなんだ」とのこと・・誰か良い病院を紹介してくれませんかね?
「そんなことでパトロールは大丈夫なんだろうな?」
「ん?まあ、俺は咲夜の後ろにいるだけでいいから大丈夫だろ。それに今は咲夜の命よりもランキング上位維持の方が大事だ」
「・・お前にとっての幼馴染の位置づけ、低くない?」
「何言ってる。俺の人生の五番目くらいには大事だぞ」
「でもどうやっても一番には勝てないんだろう?」
「当たり前だ」
「・・・・」
非難の目を向ける。やっぱり死者(俺)が出る前に精神病院に連れて行くべきだ。
「冗談だ。適度に睡眠も取るさ」
「・・・・頼むぞ、本当」
まあ、一応(?)は問題なく友好関係を育んでいる。
「そういえば・・今日は転校生が来るんだったか?」
歩くこと数分。思い出したように話題を振ってくる灰。
「あー、そんな話があったような・・なかったような」
昨日、担任がそんな話をしていた気がするが・・詳しくは覚えてない。
「と言うかよく灰が覚えていたな」
ゲーム一辺倒で、あまり他人に興味を示さないのに。
「覚えていたというか、このキャラ見て思い出したんだ」
そう言って外国人顔をのキャラクターを見せてくる灰。
「先生が言うには美人な外国人だそうだ」
「なに⁉美人でグラマラスでバニーガール姿が似合う外国人だと⁉」
「・・誰もそんなこと言ってないぞ」
「その情報本当なんだろうな⁉担任が胸だけしか見ていなくて、顔をよく見ていなかったとかじゃないよな⁉」
「落ち着け。だいぶ失礼なことを言っているし、大部分がお前の妄想だ」
興奮するなという方が無理だろう。外国人で美女だぞ⁉そんなのバニーガールになるために生まれてきたようなものじゃないか!
「しかし、なんでこの時期なんだろうな?」
まだ見ぬ転校生について想像していると灰が疑問を投げかけてくる。
「そういや、なんで?」
もう学校が始まって一週間。転校を考えていたなら、新学期が始まる1週間前に来たほうが馴染みやすいだろうに。
「それを俺が聞いたんだがな・・」
「悪い悪い。まあ、美人のクラスメイトが増えるのなら良いじゃん」
「・・そうだな。なんかしらの事情があるんだろ」
「そうそう、分からないことよりも今ある現実を俺は見つめるぜ」
「・・大半はお前の妄想だけどな」
海外の事情なんて想像もつかない。考えるだけ無駄だということだ。
「そもそもバニーガールの起源は今から六十年ほど前のプレイボールクラブからだな」
それから、灰にバニーガールの歴史を話しながら登校したのだが、あっという間に着いてしまった・・まだ話足りないんだがな。
ともあれ、今は転校生だ。楽しみだなー。
「そういえば、今日テストもあったな」
・・・・タノシミダナー
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