第41話防衛戦Ⅲ
オーガジェネラル。オーガの上位種と言われているモンスターである。オーガは成人男性ほどの身長に三十㎝近くの腕周りを持つ角の生えた赤鬼である。だが、上位種はそれよりも一回り大きく頑強な肉体を誇る。
一方クロック・シルバーは160㎝を少し上回る程度の身長でありオーガと比べるとかなり細く映ってしまう。それは狂獣化をしても変わることはないだろう。狂獣化とは獣人だけが持つとされるに肉体を獣に近づかせ人間以上の動き、力などを実現させるスキルである。
全身の黒毛が逆立ち始め、身体の周りに赤いオーラのようなものが出現する。それと同時に目の色が黒から赤に変わり虹彩の部分が獣のような縦割れの三白眼に、とても同一人物とは思えない見た目に変化を遂げていた。
(魔力がどんどん減っていくにゃ~)
狂獣化の欠点とも言える所を思い、早期決着の為に動き出す。先程までとは違い速度が上昇したことで回避、攻撃ともに余裕が出来攻撃の手数が増え始める。
ジェネラルはクロックの速度が上がったことで反応が間に合わず傷を増やしていくがスキル"硬化"等により重傷を負うことをギリギリのレベルで避けられていた。
「グオォォォォ」
ジェネラルは叫び声をあげクロックを威嚇する。スキル"咆哮"によりジェネラルの周囲にいた者は敵味方構わず少しの間硬直状態陥ってしまう事になる。
「そんなもん効かないにゃー」
纏衣、狂獣化の二重の強化されたクロックにはオーガジェネラルの咆哮は意味をなさずそのまま反撃に転ずる。レイピアによる刺突で、クロックから見てジェネラルの右腕を貫きそのまま剣を上へと切り上げ連続で突きを繰り出し穴を大量に開けていく。
本来レイピアと言う武器は刺突専門であり切り上げ攻撃などは出来ないのだが、そこはやはり魔法があってこそ出来る芸当だろう。
体内の魔力を剣身に付加し、剣の形に形成する事で刺突だけではなく斬撃も繰り出せるのである。そしてその攻撃により刺突した瞬間に魔法戦士の職業専用スキル"付加攻撃"を使い魔道具でないにも関わらず魔法が発動しジェネラルの体内で爆発が起こる。それにより体内から爆ぜ肉片をまき散らしジェネラルは息絶えた。
幾重もの死体の前に立ち剣についた血を払い狂獣化を解き纏衣だけの強化に戻す。
(んにゃ、このオーガ強いと言うより硬かったにゃ~。と言うか、今回のモンスターは全体的に通常のランクより強いにゃ)
クロックは攻撃力があまり高くない為強化の二重掛けをし勝利をつかんだ。だがそれは魔力の多大なる消費を犠牲にしなくてはならない為使いたくはなかったのだ。だが今更そんなことを気にしても仕方ないと割り切りポーションを飲み街への侵攻を防ぐべくモンスターを倒しに走り周り始めるのだった。
一方その頃のキーラも苦戦を強いられていた。
前線に出てきたのはいいが、定められたランクよりも上の相手を複数同時に相手しなければならない状況になった事、そして何より数の多さが問題だった。ゴブリン程度が相手ならそれが例えランクが上がっていても問題ないのだが、様々な種類の混成集団である現在はほぼ常に暴風翼(テンペスト)を発動しながらでないと戦えない状況だった。そしてそれは危機的状況を作るには十分だった…
今キーラの前にはナーガと呼ばれるBランクのモンスターが立ちふさがっていた。ナーガなどの蛇系統のモンスターの大半はそこまでステータスが高いわけではないのだが強力な毒を持つと言う意味でBランクに指定されている。
だが、今目の前に存在するナーガはAランクに匹敵する強さを秘めていた。ステータス面では現状でもB程度のものだがそれでも通常よりも強いというのは変わらない。
「はぁ はぁ なにしてんのよ、さっさと逃げなさいよ…」
少し前のキーラならば絶対と言えるほどあり得ない行動をとっていた。キーラの背にはモンスターとの戦闘により傷を負っている冒険者が一人いるのだ。その冒険者を護りながらナーガを含むモンスターの攻撃をぎりぎりの段階で防いでいた。防戦一方な状態だ。
(このままじゃジリ貧よ、ポーションも数ないし、どうにかしないと…)
ナーガが口から毒を吐きキーラがそれを魔法で押し流し防ぐ、すると魔法が途切れた瞬間にナーガが配下と思われる小型の毒蛇に指示を出し、無理矢理に突っ込ませ隙を作りだそうとする。そしてそれを何とか防ぐというのがさっきから繰り返しだ。自らは決してリスクを冒さずに戦うかなり卑怯なやり方だと言えるがそれも一つのやり方なのだから認めるしかない。だがそれは現状でだけ通用するやり方だ。
ナーガ達の横数m地点から地面が急に盛り上がりドリルのような突起が複数出現する。徐々に迫りくる土の刺山とでも言うような物体はいとも容易く蛇共を貫いた。身体中を岩により穴空きにされグラリと傾いだ。
「キシャァァァーーー」
甲高い叫び声をあげながら息絶えていく蛇たちを見て、急に地面が盛り上がった方へと視線を移すキーラ。
「やれやれ、厄介な奴が多い事この上ないねぇ~」
そういいながら地面が隆起した所から現れたのは無精髭を生やした長髪の四十代の男だった。
「二人とも大丈夫かい?」
優しいと言うか気の良いおじさんみたいな声で話しかけながら近寄ってくる。道中モンスターが襲い掛かってくるのだが地面が隆起し壁が生成されたし、先程と同じく刺山を作り出し攻撃をしていく。
「あんた誰よ?」
「あなたは…」
助けてもらったにもかかわらずこの態度はどうかと思うがこれがキーラのキーラたる所以か…それに引き替え背後にいた男の冒険者は丁寧な口調だ。
「あはは、まぁその反応は当たり前か…でも今はそれよりもモンスターをどうにかする方が先でしょ」
照れ笑いを浮かべながら「自己紹介は後でするから」と言いキーラの背後にいた冒険者を抱え上げると戦場から離脱する無精髭を生やした気のいいおっさん。
「何なのよ」とぼやきながらもポーションで魔力を回復させると戦闘に再び加わる。そして数十分後、今回の防衛戦でもっともな難敵が出現し戦線が乱れることになるのだった。…
防衛戦が始まり一時間程が経過したときに戦況に変化が現れた。後衛職の働きもあり戦況は若干押され味だがまだ崩れるような事はしていなかった。が、Aランクモンスターがいきなり複数出現した事により戦線は一気に乱れ始め状況が変わる。
そんな状況の中でただ一人ーーセリムだけがこの状況を楽しんでいるかのように口元に笑みをたたえていた。…
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