第39話防衛戦Ⅰ

ソマルとそのパーティーメンバーからもたらされた都市アルスへモンスター侵攻の話は直ぐに警備兵を含め都市に広まった。それはこの街に住まう貴族街の連中の耳にも同様の事が伝わったと言う事である。


貴族街でも一際大きな屋敷。そこは都市アルス領主サキュレータ家の屋敷である。屋敷の周りは180㎝位の塀に囲まれ、門には警備の者と思われる人物が二人立っている。


門の中へと入ると塀より少し小さめの生垣がきれいに立ち並んでおり、貴族の屋敷としては普通なのか、庭に噴水がある。日に照らされ輝く水が上から下へと重力にしたがい落ちていた。そんな屋敷の一部屋にて現領主であるヴラド・サキュレータは老執事からの話を聞いていた。



「そうか、まぁモンスターは冒険者ギルドの人たちに任せるとして、僕たちはもし都市アルスが陥落してしまった場合に備えて食料や武器などの貯蔵の確認と避難してくる人がいれば受け入れの準備をしようか」



街の為に色々と手を回すように指示した男は都市アルス領主ヴラド・サキュレータである。温厚そうな顔つきにオールバックにした髪の三十代後半の男である。


部屋には最低限とでも呼べるような調度品しか置いておらず、ここが本当に領主の屋敷かと疑ってしまうほど殺風景な内装だ。


壺が一つに絵画が一つ。あとは多少値の張るテーブルセットに仕事をするデスク位しかない。代わりと言ってはなんだが、本などが多くあり読書家と言う一面をうかがわせる。



「では、そのように屋敷の者には伝えます故」



「私はこれにて失礼いたします」と丁寧にお辞儀をし部屋を退出していく老執事。老執事が去った後ヴラドは紅茶を啜りながらポツリと一人事を漏らす。



「父さんがいれば真っ先に飛び出していっただろうな…」



ははは…と苦笑をし自身も念の為に支度を整え始めた。





都市アルスにモンスターの大群が侵攻してきているという報せが入ってから数十分後、全ての準備を終えクロックという猫獣人の指示のもと馬車にて移動を開始したセリム達。


既に先に行って現状の確認、戦力の分析等の事が行われ着々と戦闘がもうすぐであることを教えてくれる。



「一つ聞いときたかった事があんだけどさ」


「なんにゃ?」



現在はモンスターの集団の目撃情報があった場所に向かって進んでいる。何台もの馬車が一方向に向かって進んでいる様は異様に映る事だろう。そしてその中の一つにセリム、キーラ、クロックが一緒に乗っていた。



(何か、語尾がにゃだとふざけてるようにしか聞こえないな…)



クロックの言葉は語尾に"にゃ"と言う猫の獣人の特徴と思わしきものが付いている。その語尾により真面目な話がふざけた感じに聞こえてしまうのが気がかりなセリム。



「モンスターと戦うとして場所はどうすんだ?」


「それなら問題ないにゃ、情報を持ってきた男の言っていることが本当なら草原を通ることになるはずにゃ。そこで叩く作戦にゃ」


「ちょ、くっつかないでよ!」



侵攻に関しては偶にあるとギルドの誰かが言っていたのである程度作戦は立てられているようだ。だが、ここで問題が一つ。クロックは猫の特性なのかやたらと人にくっつきたがる。現に今も真面目な話だと言うのにキーラにくっつきスリスリしているのだ。語尾だけでもシリアスになるには苦労するのにくっつかれたら余計に苦労が増えるのでやめてほしいと思うセリムであった。



そんなこれからモンスターの大群と戦うと言うのに緊張感など全く感じられない感じのする車内ではあったが、恐怖により動けないでいるよりはマシだろうと割り切り馬車に揺られながら戦場となる草原へと向かった。


そうして着いた先ではーー



「うわっ、キモ。多すぎよ」



戦場につくなりキーラが発した第一声が先の発言だった。アルスから出立した冒険者一同は現在草原を見渡せる小高い丘の上へと来ていた。丘を一気に下れば草原までの最短コースとなっている為、状況の確認、共有などを済ませる。



「来て早々その発言はどうなんだよ」


「う、うるさいわね。キモいんだからしょうがないでしょ」



「へいへい、そうですね」と適当に返事をし、モンスターの大群へと目を向けるセリム。そこには草原を一目散に疾駆するモンスターの群れがあった。1000近くいるのではと思わせる程だ。

確かにこれだけのモンスターが一同に会する機会などそうし見ることもないだろう。


都市アルスでは偶にではあるがモンスターの大群が攻め入ってくる事があるらしい。だがそれは種類がゴブリンならゴブリンだけと言った限定されたものだけなのだそうだ。だが、今回のは色々な種族が入り乱れて一定方向へと向かっている。これを一言でいうなら異常である。一種類のモンスターだけなら問題はないのだが複数ともなると自然に出来上がったものとは考え難いのだ。



「さて、ここから先はもう戦いにゃ、今回は多少勝手が違うっぽいにゃ。数の多さランクの高さがネックになってくるにゃ。まずは、数を減らすにゃ」



ギルドを出る着前に鍛冶屋のバロックが訪ねてきて試作品と言う事でセリム考案の魔法衣などが無償で配布された。着たり嵌めていたりしてそ、れにより皆やる気が上がっているようだった。そのお陰なのかは分からないがクロックの呼びかけに気合の入った声で答える面々。



丘の上には支援系の術者や後衛職を残し前衛職は草原へと向かい降りていく。森に姿を隠し気配を消す一行。先制攻撃として魔法による奇襲をしかけ数を減らしそれと同時に一気に攻める作戦だ。



「お前は、丘の上に居なくてよかったのかよ?」



聞くだけ無駄だろうなとは思いつつもキーラに対し質問をするセリム。



「問題ないわ、暴風翼テンペストもあるし」


「さいで…」



本来なら魔法戦力として丘の上にいるのがキーラの役目だと思うのだが、と思いながら魔法の攻撃に備え身を隠す。そうして間もなく先制の魔法攻撃が放たれ、都市防衛戦が開戦するのであった。



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