第27話付与とダンジョン

その日キーラは久しぶりに外に出て気分のリフレッシュに浸っていた。と言うのもセリムに負けてから部屋にこもっていたのだ。まぁ一日程度なのだが…


それはさて置き、前日アーサーからセリムも一緒に行動することになったとの旨を伝えられた。内心複雑ではあったが、自身の目的のためにも力は必須でそして何よりセリムはそれを持っていた。


悔しいがセリムは無詠唱で魔法を発動すると言う事をしていたし何よりも魔力量が桁違いに感じられた。感情を理性で何とか制御し、セリムにその強さの秘密について教えてもらおうとしたのだ。早く教わった方が良いと思ったキーラは行動に移した。それは今彼女が外出している理由である。



そのチャンスは案外早く訪れた。ギルドに行ってセリムが来ていないと情報を得たキーラは、とりあえず都市の中を探すことにしたのだ。


当てなどは無かったが…そうして偶々見つけることに成功し後をこっそり付けたのある。が途中見失い再度見つけた時には…


セリムの周りに人と思われる三人の死体が転がっていたのだ。



(面倒なところに来てくれたもんだな。どう言い逃れるか…)



この場を丸く収める言い訳を考えるセリム。特に言い訳はする必要などないのだが、正当防衛とか言っておけば何とかなりそうな気がしないでもないが別に隠す気はなかったのでこの場の事実を告げることにした。



「何か聞きたいのだろうが、生憎見たまんまだ、というより何故ここに?」


「…」



キーラはこの質問に応えられ無かった。気が動転したとまではいかないまでも緊張していた。


冒険者なんてやっていれば戦争やら仕事で人を殺すことだってある。かくいうキーラの目的もどうしても復讐したい奴がいたがために力を求めていたのだから。


だが、実際に自身よりの幼い人物が人が死んだもしくは殺した現場で平然としているのが恐ろしく感じられた。その為緊張により喉が乾き、答えが出せなかった。


キーラが何も答えられずにいる中、セリムは死体の処理をし、処理を終えるとキーラの横を通りすぎていった。キーラはそれをただ黙って見過ごすことしかできなかった。






その日から三日が経過した。

明日からはアーサー、キーラと一緒に行動をする予定の日だ。なので集団で行動となるまえに色々と済ませて置きたい。今日は、ドワーフの鍛冶師バロックの所に行く予定だ。


何となく今日は朝風呂に入ることにした。明日の事を考えた所為で気が滅入ってたのをリラックスしてどうにかしたかったのかもしれない。


風呂に入り気持ちを落ち着けとあの日のことが思い出される、あの日、キーラに目撃された一見は特に広まっていたりなどはしなかった。広まっていたら、多少不便はあったが、街を出ればいいと考えていたので別段気にしてはいなかった。


そしてセリムは次の日からもこれまで通りの日常を送った。モンスターを倒し、スキルを習得。そして魔法の練習。金稼ぎ。お陰で金には結構余裕が出来てきた。



風呂から上がり己の身体を見る。以前にみた時よりも確実に大きくなってきている心臓のちょうど真上にある黒い模様みたいなシミ。


日に日に大きくなっているというよりは魂を喰らった度に少しずつではあるが大きくなっているような気がする。そしてこのシミが大きくなるにつれて己の人間性とでも表現すべきものが少しづつ欠如してしまっている気がする。その証拠に、人を殺してもなんとも思わなかったのだ。



「このシミに飲まれて俺が消えるのが先か、世界を変えるのが先か…」



そんな将来の話をしながら着替えを済ませる。おばちゃんに朝食を頼みぼけーとしながら待っていると程なくして出てくる。作ってくれた人には申し訳ないが適当にかっ込み済ませると、とりあえず宿の利用の延長を言いつけておく。



「そういえばあんたDランクに上がったんだって?」


「知ってたんですか」


「ここはギルドが経営してるからね。ちなみにここは初心者の為の宿だからCランクになると出て行ってもらうことになってるよ」



さも当たり前のようにいってくるが、セリムはその話が初耳だった。とは言え、宿の名前から想像はできたのだが。



「それと仮に家賃を払ってあった場合の期間に昇格しても返却はないさね」



そう言いおばちゃんは去っていった。





今、数日前に依頼した仕事について確認するために鍛冶屋に来ている。相変わらず人のいない店に入る。この見せは儲かっているのだろうか?



「すいません、セリムですけど。依頼した件できました」


「おう、来たか」



そう言いながら現れたのは、鍛冶屋の店主。ドワーフのバロックだ。如何にも頑固そうな顔をしたバロックは職人という言葉が似合っている人物だ。



「出来たんですか?」


「まぁ、何とか作ってはみたが初めてってこともあり性能はそこまでよくねーな」


「そこはいろんな人に使ってもらって改良点を上げてもらえば何とかなるでしょ」


「そうだな。っとこれが一応完成品だ」



そう言ってカウンターの上に乗せたのはセリムがバロックに依頼した物だ。何を依頼したかと言うと服などの着る物だ。



「ったく、鍛冶屋に服の依頼がくるとは思ってもみなかったが、中々おもしろかったぞ」


「それは何よりです」



軽く会話をしながらもカウンターに乗せられたものを手に取ってみていく。


セリムが依頼したのは、数日前に服飾屋で見たアクセサリーに類似したステータスを上げる効果もった道具を使い捨て同然でも構わないから一時的にでも肉体を強化できるものをお願いしたのだ。


アイテムリングやピアス、ネックレスに鎧や剣と言う魔法が付与された物がある中、何故普通の服には何もも付与された物がないのかと思った。軽装職などは必然的に防御が薄くなるのでそれを補えないか、補えたとすればそれは自身の強化に繋がる。そしてそれを実行するためにバロックに依頼をしたのだ。一番は自分が強くなるためなのだが。


そしてセリムの手元には今、シャツ・ズボン・ロング丈の上着)ー軍服などの者に近いーー・白手袋・ブーツ。この五点がある。



「これ、どれに何が付与してあるんです?」


「シャツとズボンには硬化系の魔方陣を、上着には気配を察知されにくくなる魔方陣を、手袋には筋力強化の魔方陣だな。つっても付与できる魔法自体がステータス強化系の魔法以外には殆どねえから、武器みたいに何かしら魔法を発動するって訳にもいかねぇ。それに分かっていると思うがあくまでも服に魔石を混ぜた塗料で魔方陣を内部に刻んでいるだけだからそれが斬られたりでもしたら使えなくなる」



まぁ、試行錯誤して今はこれが限界だなと付け加えた。アイディア事態はセリムに出してもらっていたでバロックは付与したスキルの効果時間のアップと出力の強化に努めていた。が、やはり完成はできかった。まだ試作品に近い段階だ。しかしそれでも戦闘に少しは役立つだろう。あとは今後の改良次第だが…


お礼を言い代金を渡す。金貨を五枚も取られたのは痛かったが今後の投資と思い自身を納得させた。バロック曰く、失敗を繰り返した所為で魔石を異常に沢山に使った為にそれくらいじゃないと釣り合わないんだそうだ。今後使ってもらって性能を上げる為にも、もっと良心的な価格で提供できるように工夫がいるだろう。


そして今日も日課になりりつつある魔法の練習と金稼ぎをし、夕方宿に買える。明日から集団で行動する事への不満を呟きながら本日二度目の風呂に入り寝たのだった。




翌。


今日からはアーサー達と一緒に行動することになっている。バロックに作ってもらった服を着て、準備万端だ。今回行くのはアルスを東の森の外れにあるダンジョンだそうだ。今日から数日かけてそこに行くらしい。


ダンジョンとは、いくつもの階層があり、一つの階層ごとに違う環境だったり種類のモンスターだったりが湧く力試しにはもってこいの場所だ。もちろんボスと呼ばれるモンスターもいる。力試しとは言え命を落とす危険を常に孕んでいるため油断は禁物だ。


そんなこかま書かれているギルドに置いてあったのだ本を読みながら待ち合わせの二人を待っているセリム。、ギルドで待ち合わせと言う事で一人大人しく酒場で待っていると周囲の視線に晒されていることに集中が切れる。



(ったく、いちいち見んでもらいたい)



そこでようやく目的の人物が現れた。先程まで、お互いに牽制しつつ誰が行くの奴はいないのかを探る眼をした奴らはセリムに話しかけてきた人物の登場によって諦めモードへと移行させられてしまう。どうやら、まだパーティー勧誘を考えているらしい。



「よう、セリム」


「ふんっ」



最初に話しかけてきたのがアーサー、顔を逸らしたのがキーラだ。



「んで、今すぐ出発すんのか?」



ついて早々出発の事について尋ねるセリム。自覚しているかどうかは分からないが、力を求めることに焦りを覚えているのかもしれない。



「そうだな、ちょっとあと少し必要な物を買ってからかな」


「そうか」



ならさっさと買ってこいいよと投げやりな回答をするセリムだった。


そうして買い物を終えた一行はアルスの東にあるダンジョンへと向かったのだった。


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