第17話 魔法適正

 勇者の崖を後にした私たちはブレインガーディアンの騎士団本部の会議室に来ていた。


 ここにはトリシアさんを始めとした騎士団の隊長達と異世界の勇者であるオクムラタダシが集まっている。



「改めて勇者には私たちの事を知ってもらいたく集まってもらった。先ほども紹介したが私がこのブレインガーディアンの騎士団長を務めるトリシア=カスタールだ。」



 キリッとした顔で話すトリシアさんはあごでくいっと次はお前たちの番だとうながした。



「初めましてオクムラタダシさん、私は第1部隊隊長を務めるアリア=シュタインです。君とは他の部隊の人達とともにこれから一緒に訓練をしていくことになるからよろしく頼むよ!」



 複雑な心境だが今は気持ちを切り替えなくてはならない。



「えーと僕は第2部隊隊長を務めるストライフ=バーンというものだよ。わからないことがあったら色々聞いてくれ、これでも年長者なんだよ。」



 にっこりとストライフさんは話しかけた。



「第3部隊隊長のカルマンだ!ギガントを見るのは初めてだと思うが、この街には俺ぐらいの身長はゴロゴロいる早く慣れておくんだな!」



 フンと腕組みをしてカルマンさんは答える。



「第4部隊隊長のトロンだ…よろしく。」



 まだ気持ちの整理がついていないのだろうトロンは一言だけ話すと黙り込んでしまった。



「第5部隊隊長アルフレアだよ!アンタが勇者だなんて意外だねえもっと屈強な男が来るのかと思ったよ!ウチ等が鍛えてやるからこれから覚悟しときな!」



 アルフレアはいつもと変わらぬ態度で話す。



「第6部隊隊長カナリア=ファンネルですわ。私はいつもどうりにやるだけですわ。」



 カナリアはなんともつまらなそうに勇者を見据える。




「第7部隊隊長、キールだ。うちの部下たちに下手な真似をしたら勇者であろうと容赦しねぇからな」



 キールさんは警戒を込めてやや強めの口調で言う。



「こ…こら、キールあまり勇者を怖がらせるんじゃないよ。キールがすまなかったねこれでもいいやつなんだよ。みんな私の大事な家族同然の者達なんだ。」



 トリシアさんが勇者に柔らかな声で話しかける。



「だ大丈夫ですよ。よ…よろしくお願いします!皆背おっきいですね…さすがファンタジーの世界だ…」



 勇者であるオクムラタダシは身長は160㎝といったところだろう。ギガント種みたいに大きい人をみるのは初めてなのだろう目を丸くしている。



「この世界グランディアには多種多様な人種がいる。今君がいるこの大陸はガルド大陸と言ってね、大陸は大きく分けて3つあるんだ。東にあるアルテア大陸、西にあるリーゼア大陸、そのちょうど真ん中にあるのがガルド大陸なんだ。今はその大陸をめぐっての戦争が各地で行われているんだ。」


「貴方たちは騎士?なんですよね?前線には行ってないんですか?」



 トリシアさんが軽い説明をしているとオクムラがおずおずと答えた。



「ああもちろん別部隊が騎士団にはあってね私たちは防衛が主な仕事なんだよ。今は均衡状態が続いていてね警戒はおこたっていないから安心してくれたまえ、今日が終わり次第何人かの隊は前線の防衛に戻ってもらうことになっている。」



 いままで前線の方で進行して敵の大陸に乗り込んで戦うのがガルディアンナイトの騎士団であり、私たちの大陸で防衛していたのがストライフさん、キールさん、アルフレアさんの部隊であった。

 防衛部隊にはより多くの隊員が派遣されていていまはなんとか均衡を保ってる状態だ。

 その守っている間に私たち残ってる隊長達で新たな隊長になれる可能性のあるやつらの指導などを行っている。



「そしてもうひとつ重大な事を言っていなかったね、この世界グランディアには魔法というものが存在する。多分だが君もここに召喚されたということは魔法が使えるのだろう、それも多分強力な魔法であるはずだ。今日はその魔法の訓練をしてもらうことにするよ。」


「魔法!!すっごいゲームとかで憧れてたんで!すごい楽しみですよ!」



 急にテンションが上がったオクムラは隈のできた目を輝かせながら言う。



「!!あまりうかれんでくれよ。大きな力には危険がともなうんだ、ちゃんとコントロールするすべを知らなければ身を滅ぼすだけでしかない。しばらくは君に適性がある魔法がどれなのかと武器の扱い方とかを覚えてもらおうかと思う。」


「わかりました!」


「とりあえず今日は各隊長がいることだし、訓練場でちょっと軽くやってみようか?」


「お願いします」


 ーーーーー

 ーーー

 ーー



 訓練場に移動した私たちは1階にトリシアさんとオクムラを残し2階席にきていた。トリシアさんはオクムラにプロテクターを付け、軽く魔法の説明をした。魔法は主にイメージ力と魔力を掛け合わせたようなもので概念を知っていて、魔力があって初めて魔法となる。

 まぁ極まれに私のような魔力が0の者もいるから魔法が使えなくても問題は…



「ファイアー」



 オクムラの掲げた手の平から少し大きめの火炎放射が出る。



「おおお!!すごい!ほんとにでた!」



 言ってるそばから魔法できちゃったね、なんか少し悔しい気分になる。



「うん、火炎魔法はある程度適性があるとみていいね」



 トリシアさんがファイルにメモしながら言う。



「でも本当にアルタナ測定器はいらないのかい?魔力がどれくらい減ってるとかが体感でわかるようになるアイテムなんだが…」


「あー大丈夫です。自分それ見えてるんでまあでもまだレベル低いんで自分の大雑把なものしか見えないんですけどね」



 鑑定持ちというやつだろうか、異世界人はよく持っている能力の一つだ、なんでもレベルというものを上げると敵の情報までわかるらしいが、アルタナ測定器は自分の体力と魔力しかわからない。いわば鑑定の劣化版なので必要ないのだろう。

 だが仮にも信用してるからといってこの鑑定持ちという情報を軽く話すのはどうかと思うが。



「じゃあ魔力が底を尽きないくらいに色々試してみようか」


「これはテンションあがるなー!」



 はしゃぐオクムラに冷ややかな視線を向けるカナリアは私の横に移動してきてボソッと話す。



「あなたは魔法が使えないからいまいちわからないでしょうけど、あの勇者もセレスや私には劣りますけどかなりの魔法適正者ですわよ」


「そうなのか」



 再びオクムラに目を向けると5つ目の魔法適性をしているようだった。たしかに並みの人たちよりも魔力があるようだ。

 カナリアがジト目で見てくる。



「羨ましいって顔してますわよ」


「なっ!?違う!魔法がなくても私はちゃんと戦えてる。」


「そう、…あなたは魔法がなくてもちゃんと強いんだから自信を持ちなさいな」



 それだけを言いスタスタと自分の部署に戻ろうとする。



「カナリアは見ていかなくていいのか?」


「ええ、最初のでだいたいわかりましたので仕事もありますし戻りますわ」



 しばらくするとその場にはもうすでに私とトロンしか残ってはおらず、皆は仕事に戻っているようだった。



「王女はこれでよかったのかな」


「王女も国の為を思って行動したんだ、私たちも王女の意思をついでこの国を守っていかないとな」



 トロンはじっと上からオクムラのことを眺めていた。

 王女は昔国王のスピーチに一度だけ参加したことがあった。




「サーシャちゃんはこの国をどういう風にしていきたいですか?」



 とある記者だったろうかインタビューをされた時の事だった。



「みんなが笑っていられる世界をつくりたいです。平和な世の中にしたい」



 王女は緊張しながらもはっきりとした口調で言っていたのを覚えている。



「早くこの戦争も終わらせないとな!」


「ああ!」



 トロンは再び前を向いて決意ある表情で答えた。

 下ではまだトリシアさんとオクムラが魔法適正をやっていたので私たちも自分の部署に戻ることとなった。

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