第14話 sideナグル=ウル=ガルディア

 私はこのガルド大陸の首都であるガルディアの国王 ナグル=ウル=ガルディア である。



 この世界グランディアには大陸が3つあり、その一つであるガルド大陸を昔から統率とうそつしてきた王家であるウル家に私は生まれた。

 物心つく前から教育をほどこされ、次期国王として英才教育を受けた私だったが周囲とうまくなじめず、周りの大人には出世しようと私に媚びをうるものや、私の命を狙うものが多くいて人を信用できなくなっていた。


 そんな王宮が嫌になり、人目を盗んで王宮から脱走した私は初めて街に出た。


 白い王宮とは違い街には色が溢れていた。

 こんなにも外の世界は違うのかと、14歳になって初めて感情が生まれたのが分かった。

 私は今まで親の言いなりで育てられ、王宮から出ることを許されず、ただ言われた命令をこなすだけの機械であった。


 あてもなく彷徨さまよい、歩き疲れた私は座る場所を探していた。


 その時に路地のほうからとてつもなくいい匂いがしていた。お腹が空いていた私はすがるような思いでその匂いのする方向へ向かっていた。



 そこには小さな料理屋があった。いやこういった表現は間違いだな…料理屋と呼べるものではなく、一人の女の子が自分の作った料理を売っていた。その少女は金色の髪を肩まで伸ばし髪にカチューシャをつけていた。服装は薄汚れているがしっかりとした青いワンピースであった。



「あなたも食べる?」



 私に気づくとその少女は可憐な笑顔でそう答えた。



「え…いいの? あっ!今お金を持ってきてなかった…ゴメン」



 人目を盗んで逃げだしてきたためお金などもってるわけがなかった。



「大丈夫よ!今日はわたしのおごり!」



 その笑顔に私は初めて恋をした。一目惚れというやつだ。



「あなた見ない顔と服装だけど…どこから来たの?」



 暖かそうなスープを私に渡しながら答える少女。



「え!?ああえっと…遠い所かな!」



 思わず嘘をついてしまう、だが正直に答えてしまっても少女を困らせてしまうだけだ。



「ふーん…遠いところかぁ…いいなぁ私この街から出たことないの」



 そう言って私の隣に座り悲しそうな顔をする。



「そうなんだ…あ!君の名前を聞いてもいいかな?」


「いいわよ、私の名前はユリアよ。あなたの名前は?」


「僕はナグル、スープすごく美味しいね!君が作っているのかい?」



 そのスープは王宮で出されるどんな料理よりも優しく美味しく感じた。



「そうよ お母さんが病気で動けないから私が料理を売って生活してるの」


「そうなのか…」



 ユリアの状況を改めて聞くとなんとかしてあげたい気持ちになる。



「そんなことよりも、外の世界ってどんな感じなの?」



 ユリアが顔を近づけて聞いてくるため思わず顔をそらしてしまった。耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかる。



「あ!ごごめんね?言いたくなかった?」


「そんなことないよ! 外の世界はね……」



 今まで王宮で読んだ外の世界の本の知識がこんな所で役に立つとは思わなかった。



「すごい!そんな不思議な植物とかもあるんだ!」



 ユリアは大喜びで話に夢中になってくれている。だが騙して話をしているぶん僕の心は痛かった。

 そんな会話をしていると路地のはずれのほうから憲兵が慌ただしく動いているのが見えた。

 僕が脱走したのがもうバレてしまっているのか、そろそろ戻らないとユリアにも迷惑をかけてしまうな…



「続きはまた今度!今度はお金持って買いに来るよ。」


「うん。またお話聞かせてね」


「もちろん!」



 すくっと立ち上がり、元来た道に戻る、ちらっと振り返るとユリアは手を振ってくれていた。

 手を振り返し、顔が赤くなるのをこらえながら見つからないように王宮に戻った。


 その日から王宮の脱走は増え、毎回見つからない為、ユリアと会う回数は増えてていった。


 いろんな話をして、笑いの絶えない日々を送った。


 その生活が2年続いたある日、ユリアの母親が亡くなった。


 その日もいつもどうり脱走した僕は、路地に来ていた。

 そこにはいつもいるユリアの姿は無く、手紙だけが残されていた。

 手紙には母親も亡くなり頼るものがなくなった私は身売りしないといけなくなったともう会えないと書かれていた。

 血の気が引いた僕は街を走り回り必死でユリアを探した。



「どこだ! どこにいるユリア!」



 騎士団に見つかり身柄を拘束されそうになりながらも振り切り、ユリアを探し続けた。

 息も絶え絶えになり、見つかるあてもない、だが諦めたくなかった。



 離れたくなかった。



 失いたくなかった。



 まだあの嘘の事を話せていない。



 身分を偽っていたこと。



 外の世界を知っているなんて嘘をついたこと。



 謝りたい。



 そして



 こんなにも君を好きだということを伝えたい。



 その為なら…



 ふと立ち止まり後ろから追いかけてくる騎士たちが追いつく。



「ようやく捕まえましたよ」



 息を切らしてきた騎士が肩を掴む。

 これは僕が一番やりたくなかった方法、そしてこれから我がやっていく方法だ。



「無礼であろう!我を誰だと思っておる!26代次期国王であるナグル=ウル=ガルディアであるぞ!」



 声を張り上げ宣言する。



「ひっ!もももうしわけありません!!」



 肩を掴んだ騎士はすぐに手を引っ込めると路上にひれ伏した。



「よい、無礼を許そう、して貴様ここらで奴隷商なるところはあるか?」


「はっはい!近くにあるのを知っています」


「連れていけ!」


「で…ですが」


「連れて行けと言ったのが聞こえんかったのか!!」



 怒気を含んだ声でおどす。こんな言葉遣いはいままでしたことがなかった。だがもう手段は選んでいられない使えるものはなんでも使う。



「はははい!すぐに案内します!」



 奴隷商に到着すると下卑げびた笑顔をした痩せぎすの男が出てきた。



「これはこれは今日はいかがなさいました旦那様」


「奴隷を見せろ」


「旦那様は実に運がいい今日はとびきりいい上玉がてにはいったんですよ~」



 奥から首輪をつけたボロボロの服を着た女が出てくる。

 見間違えようもなくユリアであった。

 握っていた拳から血が滲んでくる。ユリアは殴られたような跡があり、血が滲んでいた。



「ちょーっとわがままだったんでね、しつけをしていたのですよ」



 そのしつけという言葉に奴隷商に殴りかかろうかとも思ったが怒りを飲み込み極めて冷静な声で言う。



「この娘を売ってくれ」


「旦那様失礼ですが所持金のほうはいかほどお持ちでしょうか?この状態ですと3000万はくだらないかと…」


「私を誰だと思ってる次期国王であるぞ、帰ったら小切手をくれてやる」


「そうでありましたか~どうりでお召し物も気品溢れる…」


「御託はいい、さっさと用意しろ」


「はいはいかしこまりました~毎度ありがとうございま~す」



 首輪を外し、ユリアを開放する。涙を浮かべるユリアを連れ奴隷商を後にする。

 外で待機していた騎士に馬車を手配し、王宮までユリアを乗せて進んでいく。



「なんで一言相談してくれなかった!」


「あなたに迷惑をかけたくはなかったのよ」



 泣きながら答えるユリア。



「でも、あなたなら来てくれるんじゃないかと思ったの。あなたは私にとって王子様みたいな人ですから、でもまさか本当に王様だったなんて驚いたわ」



 はにかむ笑顔はあの頃と変わらず少し成長したユリアはあの当時よりも格段に綺麗になっていた。



「うっ!今まで嘘をついていて済まなかった…」


「知っていました。あなたが嘘をつく時にする癖があるんですよ。2年も一緒に話していたらわかりますよ。バレてないとでも思ってました?」



 フフッといたずらっぽく笑うユリア



「でも、全部私を楽しませるためについてくれた嘘なんでしょう?」


「ああ、ただユリアと話がしたかったんだ。」


「ありがとう、ナグル私を助けてくれて、もう十分すぎるくらいあなたからはもらったわ。これ以上迷惑はかけられない、私は身寄りがないし奴隷にまで落ちたの王族のあなたとこれ以上一緒には…」


「そんなのは関係ない!!身分なんて気にするな!周りが何と言おうとすべてこの私が従わせる!この私を誰だと思ってる!ナグル=ウル=ガルディア次期国王であるぞ!ただお前は私のとなりで美味しいスープを作ってくれればいいんだ!」



 ユリアは一瞬キョトンとした顔になった後大粒の涙を目に浮かべて



「なんて…横暴な愛の告白なんですか…そんなの…私以外で…喜ぶひとなんていません…よ」



 泣き笑いながらユリアはナグルの肩に頭を乗せ微笑む。



「ちゃんと幸せにしてくださいね」


「ああ もちろんだ」



 それから周囲の反対を押し切り無理矢理結婚したナグルとユリアに一人の女の子が生まれた。



「かわいいな!ユリア!全体的にユリアに似てるな!私に似なくてよかった!」


「あなた…はしゃぎすぎですよ」


「ああ すまんつい…嬉しくてな」


「名前はどうしますか?」


「うーん…バルサミコス…ミケランジェロ…」


「却下です!なんですかその変な名前は」


「へ…変じゃないぞ!これはこの前会った異世界人が…」


「サーシャ」


「へっ?」


「サーシャにしましょう!今これしかないと思いました!」


「そうか…サーシャか…いい名前だな」


「ええ あなたは今日からサーシャ=ウル=ガルディアですよ」



 まだ赤ん坊の小さな指をさわりながらユリアは優しく言う。



 それから月日は流れ、サーシャが3歳になった頃だった。


 ユリアは唐突に急病で亡くなった。死因はユリアの母親と同じ病気であった。

 灰になった妻を見ながら涙は枯れ果て、サーシャの手だけは放すまいと強く握っていた。



「いたいよーぱぱー」


「ああ ごめんなぁ痛かったかぁ」



 サーシャの手を撫でて優しく包む。



「もういたくないよっ でもぱぱはなんでそんなになきそうなの?いたいの?」


「ああ とてもいたいよ とても…痛いんだ…」



 もうでないと思っていた涙はまた両目から流れる。

 おろおろするサーシャを抱きしめ



「大丈夫だ パパはサーシャがいるから頑張れるよ」


「ほんとーうれしー」



 抱きつく我が子の頭を撫で、ふと気づく、サーシャの目の色が赤くなっていることに…


 すぐに王宮の医師に精密検査を受け症状が判明する。


 サーシャは巫女であった。


 巫女特有の赤い目は突然変異で発症する。急に突然発症するもので体には悪影響はない。

 だが巫女は古来から勇者召喚の生贄として王族以下一部のものにしか知られていない。

 体内に流れる血がそもそも魔力になっていてもはや人とは違う存在になる。

 巫女はある年月をかけて体内で魔力を生成しある年齢で器が魔力で満たされると勇者召喚の為の魔力となる。

 現在大陸戦争が始まって3年がたち、早めに終止符をつかないとまずいことになるのはナグルもわかっていた。



「私から唯一の希望まで奪うのか… ユリア…私はどうしたら…」



 王宮の自室でうなだれているとこんこんと弱弱しいノックの音がする。



「ぱぱー けんさってもうおわりー?」


「ああもう終わりだよ、よく頑張ったね!」


「えらいー?」


「偉いよサーシャはよく頑張ったね」


「んーん がんばったのはぱぱだよ」


「えっ」


「なきむしなぱぱがないてないんだもん ぱぱはがんばった」


 よしよしとわたしの真似をしてるのだろうか頭を撫でてくる。

 きっとサーシャはまだなにもわかってはいないが表情をよくみてる子だ、つらそうにしていたり悲しそうにしてたりすると心配してくれる娘に気を使ってもらってはいい父親とは言えないな…

 泣きそうになるのをこらえあの懐かしいセリフを言う。



「はっはっは!頑張っただろう?なんせパパこそがナグル=ウル=ガルディア国王だからな!」


「ぱぱすごいー」



 今はこの笑顔を守っていくことだけを考えよう…

 今はこの子の親であり、国王なのだ、弱いところだけみせるわけにはいかん。



 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー

 ー


 

 王宮では緊急の会議が行われていた。

 この会議には多くの重鎮が出席し、国王も参加していた。



「急にお呼びしたこと誠に申し訳ない! 急ゆえに挨拶は省略させてもらう! 我が諜報部の両名が持ち帰った情報によると、アルティア大陸首都アルタとリーゼア大陸首都ゼアルが共に勇者召還を行うという情報が入りました!!」


「なに!?勇者召喚だと」「馬鹿な!?」「あちらにも巫女が…」



 各々至るとこからざわめきの声が上がる。



「静まれ!その情報はたしかか?」


「我が部隊の諜報部は優秀です。そしてすでに勇者召喚は行われている可能性が高い」


「なぜ貴様が答える」



 答えたのは急いで入ってきた諜報員ではなく、その騎士団諜報部の管理及び騎士団元隊長であるアルバラン=シュタインであった。



「私の元に最初に情報が入ってきたのでこれは早急に知らせねばと思い今回このような場を提供したのですよ」



 そう今回のこの緊急の会議はアルバランからの発案であった。







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