第12話 セーブザガーディアン

 ガルディア都市の西区にあるセーブザガーディアン本部の前にアリアは来ていた。


 ここは商業を中心とした団体をサポートする騎士団の派閥なのだが、ここを訪れるのは主に騎士ではなく商人やこれから事業を起こそうと考えてる人たちが訪れる場所である。

 大きな扉を潜り抜け、一歩中に入るといくつもの視線が集まる。ここに騎士が来ることはほとんどない。 皆がなにかあったのかと見てくるが構わず受付へと向かう。

 施設の中は静かな雰囲気で資料やファイルがたくさん並んでいるのだろう、大きな棚がいくつもあり、各々個室の受付になっている。防音設備もしっかりしていて、部屋に入ると隣の音は全く聞こえない。



「!?ブレインガーディアン第一部隊隊長のアリア様、今日はいったいどうしました?」



 受付のヒューマンの女性がおっかなびっくりに聞いてくる。



「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。今日はいくつかの資料をもらいにととある商業組合の視察申請に来たまでですから」


「なるほど…… ではどの商業組合でしょうか?」


「えーと……」



 ファイルに閉じられてあった商業組合のリストを眺めていると奥から一人の男性が出てきた。



「これはアリア隊長じゃありませんか…… 皆がざわついていたので何事かと思いましたよ」



 奥から出てきた男性は茶色の長い髪にシルバーの眼鏡をかけ、セーブザガーディアンの制服である緑色のフード付きのケープを着ている。 彼はここの受付担当である女性を下がらせると私の前にある椅子に腰を掛ける。



「お初にお目見えします。わたくしここのセーブザガーディアンの商業担当統括のドルイド=アンダーソンと申します」



 ドルイド=アンダーソンと名乗った人物は優しそうな笑顔を貼り付けこちらを眺める。その細い目からの笑みは私に警戒の色を残した。



「失礼、突然やってきて驚かせてしまいましたね、その様子だとご存じだとは思いますが、私はブレインガーディアン第一部隊隊長アリア=シュタインと申します」


「さきほどの話を聞くとなんでもとある商業組合の資料と視察申請書が欲しいと?」



ドルイドさんはスッと組合が乗っているファイルを二冊ほど私の前に移動させる。 



「ええ、少しこのファイルから探してみてもいいですか?」


「かまいませんよ。ちなみにどういった場所にあった商会ですか?」


「南区の貧民街にある商会ですね」



 ドルイドさんの笑みが変わることもなくニコニコと資料を探してくれていた。



「えーとそれでしたら…… ありました。これですね」


「助かります。 トムニ商会ですか……」



 その貧民街にある商会の名前はトムニ商会というらしい。 ドルイドさんにこの資料をもらい、視察申請書しさつしんせいしょもなんなくもらえることができた。



「ほかにお手伝いできることはありませんか?」


「いえ、大丈夫です。ありがとうございました。」



 ドルイドは深々と頭を下げ、「今後ともセーブザガーディアンをよろしくお願いします。」と変わらぬ笑顔で言った

 。

 まさかセーブザガーディアンの商業組合統括が出てくるとは……

 セーブザガーディアンの商業組合統括、つまりここを管理しているトップだ。

 何故、そんな上の人物がわざわざ私の為に探してくれたりしたのだろうか……



 セーブザガーディアンの本部を後にするとやはりどこかからかの視線を感じる。

 さらには私が行く先々に視線は至る所から感じる。 これは…… つけられているな。

 


 人込みの少ない所に歩いて行き、たどり着いたのは路地裏。 

 その路地裏で立ち止まり周囲の反応を目を閉じ感覚を研ぎ澄ませる。……五人いや、六人にどうやら囲まれているらしい、逃げるなって事かな……


 そこに一人の女が路地裏の前から現れる。


 女は黒い全身を覆うコートに身を隠し、表情は窺えない。



「アリア=シュタインだな? すまないが死んでくれ」



 女は低い体勢からナイフを両手に構え3回投げると左右に移動し迫る。

 ナイフは剣で全て叩き落し、足元から魔力が込められているのを察知し移動する。



「バインド!!なにっ!?」



 魔法で拘束できなかったのが驚いたのだろう仲間であるもう一人の黒いコートの男が驚きの声を上げる。

 剣で左から迫る女を弾く。音と火花を散らし、女と交差する。



「貴様らが何者かは倒してから考えるとするか」


「クッ…… 舐めるなよ……」



 援護射撃なのか弓矢が放たれるそれを空中で掴み、回転し遠心力を加え狙った黒いコートの男に投げる。



「これは返すぞ」


「!!ぐぅうう」



 鈍い音とともに黒いコートの男の肩に突き刺さり男は地面に倒れこむ。



「…… 化け物か……」


ひるむな馬鹿が!」



 黒コートの女が叫ぶ。女は投げナイフをさらに四発投げてくる。 私は翻し剣で全て撃ち落としていく。

 女の攻撃は素早い、だが、仲間の位置が悪いのか

 しばらくの間女と攻防を繰り広げていた……



「死ねや!おらぁああ!」



 大斧を振りかぶりギガントらしき男が振りかぶってくる。さっきまでいた位置に大斧が振り下ろされた。

 半身で避け、少し飛び上がる。 剣を持っていない方の手を男の顔に持ってきてそのまま頭を片手で掴み男の後ろの地面に叩きつけた。ド凄まじい衝撃と陥没した地面がその威力をものがたる、男はすでに意識を失っていた。



「まだやるのか…」


「クッ!おのれ…」



 それからも女の攻撃は続き、アリアも攻めようと進むのだが距離を保たれていて一向に向かって来ようとしない女。

 右から来る剣を持った男を蹴り飛ばし、後ろの魔法を詠唱していた女に当てる。



「がっ!!」


「ぐぅあ!!」



 念のため動かれては困るから蹴り飛ばした後すぐ弓を放ち肩と足を射貫いぬく。

 ドヒュっという風切り音と共に男の肩と女の足に命中させる。



「ぎィヤアア!!」


「ヒィイイイあ…… 足がァアアア!!」


「使えん奴らだ…… お前らはもういらん、アリア次に会う時はお前の最後だ」



 そう言い残した女は地面に潜るように溶けて消えた。

 すると背後でバンッ!バンッ!とはじける音がして慌てて振り向くとそこにはさっきまで苦しんでいた女や男、ギガントが一人残らず爆死していた。



「くっ!なんてむごい殺し方をする……」



 返り血を浴びて鎧は真っ赤になっていた。これではここから離れるわけにはいかなくなり足止めを食らったということになる。 今路地裏から出れば混乱を招くのは目に見えている。


 すぐにシーレスで部隊の皆に連絡を取る。



『聞こえるか? セーブザガーディアンの周辺で黒いコートの集団と戦闘。 返り血を浴びていてこれ以上追うことができなくなった。 近くにいる者は周辺の人達にここには来れないよう手配してくれないか? それと遺体の回収と周辺の管理も頼む』


『なっ! 大丈夫っすか隊長!!』


『兄様すぐ参ります!!』


『了解ですたいちょー!! カナリアさんにも連絡しておきます』


『周辺の管理はまかせてください!!』


『ああ よろしく頼む!』



 ほどなくして破壊された路地裏にセレスとカナリアがやってきた。



「これは…… いったい……」


「ずいぶん派手にやったのですわねアリア。 説明してくれますわよね」


「ああ、だがまずはここをなんとかしてからだ」



 カナリアは慣れた手つきで無残に爆破された遺体を一か所にまとめる魔法「スマーリア」を唱え、一か所にまとめたものを「エンドワープ」で騎士団の遺体保管置き場に転送した。


 セレスは「クリーン」を使って周辺に飛び散った大量の血と私についてしまった返り血などを綺麗にしてくれている。

 こういう時ばかりは魔法の力がすごく羨ましく感じる。魔法を全く使えない私はただその光景を眺めていることしかできないからな……

 辺りは先ほどの戦闘がまるでなかったのではないかと思うくらいに元通りになった。 ちょうど午後の隊との交代の時間にもなっていたので一度皆を集めブレインガーディアンの本部に戻るこにした。



■ ■ ■ ■ ■



 騎士団の午後の巡回任務の隊と入れ替わるように私達はブレインガーディアンの本部へと戻ってきていた。

 詳しい話は後ですると第一部隊の皆に言い、私とカナリアは騎士団長の部屋を訪れる。



「ではなにがあったか説明してもらおうかアリア」



 騎士団長トリシア=カスタールさんが眼鏡をかけなおし、疲れた顔で答える。



「巡回任務中にセーブザガーディアンの所で商会の資料と視察申請書をもらい、そこを出た矢先何者かにつけられ路地裏におびき出した所戦闘となりました」


「ほぅ」



 カナリアも気になっていたのだろう顎に手をあてて考え込んでいた。



「なるほどな…… トロンの言っていたことはこれの事かもな。 さきほど届いた遺体も損傷が激しすぎて身元を特定することはできなかった。 いわゆる暗殺部隊なのだろう、情報の漏洩ろうえいが徹底されている所をみるとかなり厄介なところかもしれないな、襲われたのが隊員ではなくアリアでよかったよ」


「それはどういう意味ですか」


「ああ ゴメンゴメン、君にはとても期待しているんだよ」


「さすがシュタイン家ですわね」



 ククッと笑うカナリアは小悪魔じみていた。



「周りからのプレッシャーが毎回凄まじいよ…」


「仕方ないですわ…… あの元騎士団長の息子なんですもの」



 私の父 アルバラン=シュタインは歴代に類を見ない強さと統率力を誇っていた。引退した今もその力は衰えることを知らず、現在は貴族として、国王の右腕として君臨している。



「それにそもそも私は父様とまともに話したことなんてないのですから」



 家族らしいことは今まで何一つなかった。唯一のつながりといえばこの同じ血が流れていることくらいだろう。



「まあまあ元騎士団長の話はこの辺にして、このトムニ商会は近いうちに視察の隊を出していくことにするよ」


 私が持ってきた資料を眺めながらトリシアさんは緑の髪をかき上げ答える。



「ここの所事件が立て続けに起こってるから二人も気を付けるように、それと悪いんだが明日に勇者召喚の儀が早まった」


「「なっ!?」」


「昨日聞いた三日後じゃなくて明日になったのは理由がありますの?」


「騎士団の隊長格のメンバーが集結したのもあるが、これは上からの指示だ。 すまんな……」



 郊外に出ていた隊長格の人達は今日の時点で全員戻ってきていらしい。



「上の指示というとまた内容は教えてはもらえないのですね…」


「ああ、すまないな。 もう他の隊長達には伝えてあるから、明日午前に王宮で行われる。各々おのおの隊長格は参加だ。 くれぐれも助け出そうだなんて思わないでくれよ…… 特にアリア! 君は正義感が強いから王女をなんとかして助け出そうとして考えてるだろうが、あの場には私達も含め君の父親であるアルバラン=シュタインも参加する。その意味がわかるな…… 命は大事にしろ」


「っつ!? はい…… わかりました」


「なにやらあまり雲行きがいいとはいえませんわね……」


「ああ、それでもだ。 私たちにできることはない。 話は以上だ明日はよろしく頼むぞ」


「「はい!」」


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