第9話 不安感
ボロボロのジャスティンを担いで第一部隊の部屋に戻っている途中、ジャスティンは「できればセレス回復魔法を……」とぶつぶつ言っていたがセレスに気づいてはもらえていなかった。
セレスはさっきから何か考えているようでうーんとうなっている。
カナンがしょうがなく回復魔法をかけてやると「カナンだけが優しいっすよー」といい、抱き着こうとしていたジャスティンだが「うっとうしい!早く歩け!」とカナンに怒られていた。
なんだか不憫だなジャスティン……
これからはもう少し優しくしてやるか……
部屋に戻るとすでに時刻は夜になっていて辺りも暗くなってきていた。
軽く動いて汗をかいているので、一旦騎士団のシャワー室でシャワーを浴び着替えてから合流することが決まった。
パトラはセレスに抱き着きながら。
「洗いっこしよっかーセーレースー」
「なっ!? 何を言ってるんですか! パトラ!! みみみんなの前で!!」
セレスが顔を赤くして答える。 たしかにその話はこんなとこでする話じゃないな。 ジャスティンもカナンもそわそわしているぞ。
気になるよな男だもんな。 だけどここはビシッと言わなければな。
「お前らはこっちだ! 男用のシャワー室にいくぞ!」
「「!!は!はぃ!」」
二人を引き連れシャワー室に向かう、シャワーで汚れた体を洗い、清潔な着替えに着替える。鎧は外しておりラフなシャツと黒いゆったりめなズボンをはく。
この世界の衣服も五十年前から飛躍的に進歩し、着心地のいい服が多く出回っている。
異世界人の影響はそれほどまでに大きかったことが伺える。
シャワー中ジャスティンが「めっちゃ痛いお湯がしみるっす!」と騒がしかったが二人とも楽しそうであったな。
金髪の濡れた髪を乾かし、後ろに一つに束ねていると後ろから声がかけられた。
「隊長普段鎧を着てるから華奢に見えますけどかなり筋肉ついてるみたいですね。今もシャツの肩まわりすごいですよ。」
「そうかな?」
「ええ、模擬戦でも思いましたけどジャスティンの鎧を片手で掴んで投げるなんて芸当普通できませんからね」
カナンは私の筋肉に興味津々のようだが…… いくらなんでも見すぎじゃないだろうか?
しばらくするとカナンは濡れた紫のロングの髪をガシガシとタオルでふき、温風アイテムで乾かしていた。
「あれはほんとにビビったっすよ、強化してるはずの俺がなぜか吹っ飛ぶし、なんか投げられるしで散々だったっす」
がっくり肩を落として、ジャスティンは灰色の自分の髪の上にタオルを乗せてこちらに来た。
「すまないな、まああれぐらい耐えられるようにジャスティンも頑張るんだな」
「はいっすー」
三人とも髪を乾かし終え、鎧を部屋に置いてきて、今は待ち合わせとなっている騎士団入り口のラウンジにむかった。
すると先に戻っていたのかほんのり髪が濡れて顔は血色がよく、かわいらしい青いワンピースを着たセレスが待っていた。
「セレス早いな パトラはどうした?」
近づくとセレスの銀色の少し濡れた髪からシャンプーのフローラルな香りが漂う。
「パトラはまだ髪を乾かしていると思いますよ。まったく……」
少しむくれているセレスを見ると何かしらあったのだとわかるが、二人ともじゃれあって楽しそうにしていたのだろう。
あまり待つことなくパトラも茶色の髪を完全に乾かしたみたいで走って来た。
恰好は動きやすいハーフパンツにちょっと大きめの服であった。
「お待たせしました~ではでは! たいちょーのおごりでご飯にいきましょう!」
「あまり高くないとこにしてくれよ?」
「大丈夫ですよぅ、美味しいお店があるので案内しますね!」
ガルディア都市の夜は街頭の明かりで照らされ、大理石が光を反射してキラキラと輝いていた。
行き交う住人もまだこの時間は多く、それでも夕飯どきだからなのか各家からは煙突からモクモクと煙がでてたり、おいしそうな匂いが辺りに広がっていた。
パトラの道案内を受け少し歩いた先に目的のお店が見えてきた。
「アーサーツインベルというお店ですか……」
「おしゃれなお店っすね! いい匂いもするっす!」
「そうそうここ! ここの料理はすっごい美味しいんだから」
外観は少し小さめな木造のアンティークな建物で、ランプの明かりで今日のおすすめメニューだろうか、看板が明るく照らされている。
「じゃあ入ろっか!」
パトラがウキウキな気分で中に入っていく。私達もそのあとを追って店内に入っていく。
カランカランとドアに着けられた二つのベルが鳴りキシっという木造の建物特有の床が鳴る。
「いらっしゃいませー五名様ですね。お好きな席にどうぞ」
店内は落ち着いた雰囲気でランプの明かりが温かさを演出し、店内で流れているBGMも落ち着いた曲だ。 不思議とここだけ時間の流れがゆるやかな感じのする店内である。
とりあえず奥にあるテーブルに腰かけメニューを見ていく。
「たまにはこういったお店もいいものだな……」
「ノイトラさんの料理も美味しいですけど、ここのは兄様も気にいってもらえますよ」
普段は屋敷の方で夕食はとってきていたため、このように外食をするのは久しぶりの事だった。
「何にしようか迷うっすね」
「カナンあんたが食べたがっていたロコモコってのがここにはあるわよ! それを三人分で頼めばいいんじゃない?」
「なにっ!? 俺は是非それにしよう!!」
ガタリと立ち上がり動揺を見せるカナン。
いつになくテンションの高いカナンはロコモコと呼ばれるものが前々からずっと食べたかったらしい。
「私と兄様はこれにしましょう!」
セレスが食べたがったのは数種類のキノコのグラタンと呼ばれるものであった。
「これは私が兄様に絶対におススメしようとしていたものです!」
「セレスが嬉しそうにするなら喜んでこれにするよ」
メニューを指さしていたセレスの指がわたわたと右往左往に動く。
「っっっ!? ここの料理はほんとに美味しくてですね……」
顔を赤くしてはにかむセレスをみながら店員さんを呼ぶ。
「お決まりですかー?」
メニュー表を持った店員さんにロコモコを三つと、グラタンを二つ注文してしばらく待つ。
カナンは待ちきれないのだろうずっとそわそわしていて、ちらちらと厨房のほうを見たりしている。
そんなカナンを見てみんなで笑いあいながら時間を潰すこと数分。
「お待たせしました~」
と運ばれてくるロコモコとグラタン。
ロコモコは大きめのお肉をこんがりと焼いて特製のソースだろうか、ツヤのある香ばしいソースと目玉焼きがふわっと乗っていて、半熟の黄身を割ると中からトロッとした黄身がソースに絡み合う。
見ているだけでも美味しそうなことがわかる。
そしてグラタンはグツグツとホワイトソースが焼きたてを
スプーンですくうと中のチーズがツーっと伸びる。
「すごく美味しい!」
「やばいっす!止まらないっす」
カナンは泣きながら食べていて、ジャスティンは器ごと食べてしまうんじゃないかというぐらいに食べていた。カナンそんなにロコモコに対する思いが熱かったのか……
「ふぅー、ふぅー」
横でグラタンを冷ましながらセレスは少しずつ食べる。
「あ…… あのそんなに見られると食べづらいんですが」
「ああ!ゴメン!なんか新鮮でね、つい見入ってしまったよ」
あまり見られると照れてしまうのだろう、思春期だもんな気を付けなければ
冷ましたグラタンを口に運び、味を噛みしめる。
「……もぅ」
「セレスのも美味しそうだね!ちょっともらっていい?私の少しあげるからさ」
「はい熱いから気を付けて…… ありがとう」
お互い交換して食べる二人、パトラはあちちと笑いながら、セレスは苦笑いだが実に楽しそうに食事をしていく。
こんな楽しい食事がまともにとれるのはあと何回くらいあるのだろか……
ふと今日の昼に聞いた話を思い出す。
勇者召喚が行われるという事は敵の国も本格的にこれから戦火を広げていくことだろう。
また多くの血が流れるのだな……
思い起こすのは前線付近へと救護班として参加した二年前。
「兄様ボーっとしてどうしました?」
セレスに声をかけられハッと我に返る。
「あまりにも美味しくてね、何を使ってるのか考えてしまったよ!」
「美味しいですものね!みんな食べ終わりましたし、そろそろ帰りましょうか」
「ああ、会計をすませてくるから外で待っていてくれないか?」
「わかりました。御馳走さまです兄様」
「「隊長ありがとうございます!!」」
「たいちょーありがとね!」
四人はさっきの料理の話をしながら、店の外へ出ていく。 私もお会計を済ませすぐに店の外に出た。
「明日は巡回任務と少し私の行きつけの武器屋に皆を連れていこうと思ってる。装備もそろそろ新しいのにした方がいいだろう」
「「「「はい!」」」」
「では今日は解散! 明日は起きれるかなパトラは?」
「セレス!頼むよ!」
「嫌よ!」
「お願いだよー」
半べそをかいているパトラにセレスはやれやれと続ける。
「しょうがないな、私がきたらすぐに起きてね!」
「まっかせて!」
「「いや!ちゃんと起きろし!」っす!」
そしてそれぞれの家に戻るのであった。
屋敷につきセレスの部屋の扉の前で
「じゃあおやすみセレス」
「……兄様、あまりかかえこもうとしないでくださいね」
「!! どうした急に」
「いえ……なんでもないです。 おやすみなさい兄様」
意味深な言葉を残してセレスとわかれたのであった。
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