嵐
そこらにはすでにまともな建物はなかった、家は飛ばされ、川は溢れ、雲は黒く、先は鼻の先さえも土砂降りで見えない。延々と続く雨と風とが吹き荒び、生き物の息吹はどこにもない。木々は倒れ、雨水に浸り、草は水を飲みすぎ色を悪くしている。
そんな竜巻の中、真ん中にぽっかりと空間が空いている。
そこでは緑は青々としており、その中心に一軒の小さな家が建っている。
その前の椅子にやせ細った青年が力なく空を見上げていた。
青い円となっている空と、その周りの黒い雲をどちらともなく見ていた。
肌はカラカラで、目は落ち窪んでいる。周りの山々に降っている雨の音がここまで聞こえてくるが、青年の周りには風ひとつ吹かず、穏やかな緑の草原があった。
青年以外のみんなはあの嵐の中に向かっていき、帰ってこない。
涙も枯れた青年はただ空ばかり見ている。
一羽のカラスが青い円から降りてきて、青年に言った。
「どうして君はここから出ないんだい?」
「出れないんだ」
青年は朦朧とした意識の中で答えた。
「台風に目をつけられている」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます