そこらにはすでにまともな建物はなかった、家は飛ばされ、川は溢れ、雲は黒く、先は鼻の先さえも土砂降りで見えない。延々と続く雨と風とが吹き荒び、生き物の息吹はどこにもない。木々は倒れ、雨水に浸り、草は水を飲みすぎ色を悪くしている。

そんな竜巻の中、真ん中にぽっかりと空間が空いている。

そこでは緑は青々としており、その中心に一軒の小さな家が建っている。

その前の椅子にやせ細った青年が力なく空を見上げていた。

青い円となっている空と、その周りの黒い雲をどちらともなく見ていた。

肌はカラカラで、目は落ち窪んでいる。周りの山々に降っている雨の音がここまで聞こえてくるが、青年の周りには風ひとつ吹かず、穏やかな緑の草原があった。

青年以外のみんなはあの嵐の中に向かっていき、帰ってこない。

涙も枯れた青年はただ空ばかり見ている。

一羽のカラスが青い円から降りてきて、青年に言った。

「どうして君はここから出ないんだい?」

「出れないんだ」

青年は朦朧とした意識の中で答えた。

「台風に目をつけられている」

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