三部 22話 コンティニュー

 久々のノイズだ。

 それにしても、なんという無残な姿だ。


「魔王を倒すまで戻るつもりはなかったのだが、こうも痛々しく変わり果てた姿になるとはなあ」


 あの大きなビル郡は徹底して破壊され、ファンタジー世界に不釣りあいだった近代的な町並みは完全な廃墟へとなった。

 世はまさに世紀末……。いつ物陰からモヒカンが現れてもおかしくは無い。


「目に映るのは焼け野原ばかり。コンクリートや鉄くずは沢山ありますが、使えそうなものは何も見当たりませんね」


 レイがキョロキョロと周りを確認して言う。


「なあ、マサキ殿。やはりあの難民が全てで、他の生き残りはいないのでは?」


 残念そうな顔でダグネス嬢が聞いてくるが。


「そんな筈がない。ノイズの上層部は腰抜けばかりだ。軍事は俺が来る前は傭兵に頼りきりのな。あいつらが国民を守る盾になるはずがない。我先に逃げ出すだろう。難民の中にいなければ別の所に隠れている」


 ノイズのお偉いさん方の実情を知っている俺は、きっぱりと断言した。

 それからしばらく壊された街の中を進み、ある地点で立ち止まった。


「ここだ。ここに秘密のシェルターがあったはずだ」


 皆を止めて、瓦礫の中に埋もれた地下への入り口を発見する。


『炸裂魔法』


 レイに瓦礫をどかさせ、砂を掻き分けて、入り口の横にある、ゲームコントローラーの様なタッチパネルを発見した。

 横に日本語で『立ちスクリュー』と書かれている。

 うん、こんなアホなセキュリティを考え付くのはアホ博士だけだろう。

 コントローラーを操作して軽々とロックを解除し、中へと入った。




「貴様ら何者だ! どうやってここに!」

「魔王の手先か!? 動くんじゃねえ!」


 しばらく進んでいると、SFチックなスーツを着込み、同じくSFチックな銃を持つものに止められるが。


「俺だ。サトー隊長が帰ったと、周りに伝えろ」


 俺の顔を見るやいなや、安心した様子ですぐに武器を収めた。


「これはサトー隊長、ご無事でしたか!?」

「でもどうやってあの扉を解除したのです? あの謎かけは、ここにいるもの以外には知られていないはず!?」

「おい、サトー隊長はノイズの英雄だぞ? どんな謎も通用しないに決まってる」


 驚いた声で聞く近衛兵たち。

 というかアレはダメだろ。ゲーム好きの日本人が一人いればすぐ突破されるぞ。 


「発明に頼りすぎるのも危険だぞ。どんなセキュリティも破られる可能性がある。せめて二重にしとくべきだったな。それはそうとお客さんだ。ベルゼルグからの使者を連れて来たと上に言って来い」


 警告したあと、自分が来た理由を告げた。


「はい、すぐに。でも隊長がいてくれて心強いですよ」

「ええ、我々はこのよくわからない新武器を持たされたものの、どうやって使うのかイマイチわからなくて」

「そもそも実戦経験がないからな。訓練はしたけど」


 案の定頼りにならないノイズの近衛兵たち。やっぱダメだなこいつら。

 彼らに案内されながら地下道を進んでいくと。



「おのれ私から所長の座を奪ったばかりか、ノイズを崩壊させるとは! あの男許すまじ! 必ず報いを受けさせてやる! 完成を急げ!」


 シェルター内部には開けた空間があり、そこで一人の白衣の女性が指揮をとり、巨大なアンテナを必死で建造中だった。

 確か元所長で、博士の同僚だった研究者だ。


「あ、あの元所長? サトー隊長が参りましたが? それとベルゼルグからの使者も」


 近衛兵の報告を聞くと、女研究者はイラつき。


「元所長って言うな! あの男の裏切りのせいで、今や所長の座に戻った!」

「いまさら所長の座にしがみ付いてもしょうがないだろう? ノイズはもう無いぞ?」


 元所長に冷ややかにいってやった。


「!? これはサトー隊長。生きていたとは思わなかったよ。てっきり魔王軍にやられてしまったのかと。ノイズの民が機動要塞によって滅ぼされた今、あなただけが頼りです」


 ハッとした顔で俺を見て、リフトから降りて挨拶する元所長。

  

「情報が古すぎるわ。そもそもノイズの民は無事に避難できていたぞ!? ちゃんと地上の様子を探ったらどうだ? なんで情報を集めようとしない?」

「だって! だって、地上怖いし……。まだ機動要塞がいるかもしれないし……」


 俺の質問に、狼狽えながらモジモジして答えた。


「そうだ、そうだな。お前ら外に行って来い!」

「嫌ですよ怖いし!」

「外は危険だ! この中なら安全!」

「食料も十分あるし……無くなってから出ればいいじゃん」


 近衛兵に命令するが、反発される元所長。ダメ過ぎるぞこいつら。俺は今までこんなもやしっ子集団のために戦ってきたのかと思ったら情けなくなる。


「私達はベルゼルグ王国から来ました! 何があったのか詳しく教えて欲しい」

「あ、私が使者のサナーです。彼女は護衛のダスティネス卿。あなたがここのトップですか? 是非王にお取次ぎをお願いします」

 

 ダグネス嬢に出遅れて、自己紹介するサナーに。


「え、ええっと。私は研究開発部の元所長で……、所長が裏切ったから繰り上げで所長の代役をしたけど、正式な辞令は得てないからまだ研究員のままかなあ。だってこの状況でまともに手続きが出来なくてさー! ベルゼルグとの交渉は……私の仕事じゃないし」

「なるほど。では我らは誰と話せばいいのです?」

「そ、そうね。ノイズの政治家たちはあそこの部屋にいるね。使者の方々はあちらに向かってくれると助かりますね」


 元所長が示した先では、お偉いさん方がみんなで集まってピンボールやパチンコやダーツをやっていた。


「おい! お前少し変われよ!」

「嫌だね! もう俺達はおしまいなんだ! 最後の日まで楽しむつもりだ!」

「ひゃっほう! それにしても、エルロードへ売る予定の玩具があってよかったぜ!」

「コレがあれば退屈しないですむ。今頃地上は機動要塞で滅びただろうし、地下だけが安全だ!」


 ダメだこいつら。

 国が滅びてもう色々と諦めてやがる。


「私はダスティネス卿だ。ノイズの代表と話がしたい!」

「お、いい姉ちゃん。あんたもやるか? この台は面白いぜ?」

「待ってよ! せっかく久々に新顔に会えたのよ! 私と勝負しない? ダーツで」

「そっちのお姉ちゃんも、どうだ? 一杯飲まねえか? まだ高級ワイン残ってただろ? 出せだせ!」

「え? いいんですか? ではお言葉に甘えて。死を覚悟してきた任務で、こんな幸運にありつけるなんて!」

「サナー殿! なに流されてるんです! 我らの使命を思いだしてください!」 


 ダメだこいつら。ダメすぎる。

 かつてはノイズで偉そうにしていた政治家たちは、今や酒を飲みながら目の前の娯楽に溺れ、現実逃避している。

 最新技術のみに頼った国の末路がコレか。やはり力が無くては国を支配する事はできん。

 どうやら完全にノイズは滅んだようだ。



「あいつらは当てにならんな。で、元所長。ん? いや博士はどうした? あんたじゃなく、本物の所長だよ。裏切ったとかどういう意味だ?」


 あまりに情報量が多すぎて少し混乱していたが、整理していると不穏なワードがあったので尋ねると。


「今頃なにを言っているの!? ああ、サトー隊長は知らなくて当然か。あの男は! ノイズを裏切ったのよ! 国家予算をかけた対魔王軍用の機動要塞プロジェクトを任されたあいつは。設計図を作り、コロナタイトを持ってくるように言った。そこまではよかった。ゴーレムとしては斬新な蜘蛛の設計図に、コロナタイトを動力源に使うことで半永久的にエネルギーを供給させる。さすがね。私を差し置いて所長になっただけの事はあるな」


 元所長はウンウンと頷きながら、関心した様子で言った。


「こうしてあの男は機動要塞が作られていくのを、口も出さずにただ見ていた。でもそれが奴の狙いだったのよ。今まで感心が無い振りをして私達を騙したの。そしてあの悪夢の機動実験の前日! 自分一人になったところを見計らい、完成した機動要塞を乗っ取って工場を脱走したの!」


 すると今度は憤りながら説明を続けた。


「マジかよ? あいつはそんなことをするタイプには思えなかったけどなあ。そもそも蜘蛛きらいとか言ってたような?」

「あの男の野望はそれだけでは終わらなかったわ! 機動要塞を製造した工場を破壊しただけでは留まらず、私たちの故郷のノイズにまで! 最初はシールドで防いでたけど、向こうはコロナタイトからの無限の供給がある。エネルギー切れを起こして、こうして魔道技術国、ノイズは滅ぼされたのよ。ぐすん」


 泣きながら机を叩き、悔しがる元所長。

 博士。そんな怖い奴だったなんて知らなかったよ。国を滅ぼしたいのだったら相談してくれればよかったのに。

 こんなのではなくもっとスマートなやり方で合法的に……。


 いや待て。

 博士はなにがしたいんだ?

 ノイズを破壊してどうなる?

 しかも紅魔の里まで襲うとは。あそこには博士の大好きなおもちゃやゲーム機があるのに。もう飽きたのか?

 そもそも紅魔族はレイとひゅーこの二人を除けば、全員博士のことをマスターと呼んで慕っていた。

 クーデターを起こすなら紅魔族と共謀した方が手っ取り早い。

 でも、そうなれば俺のブラックネス・スクワッドが立ち塞がることになって、クーデターは失敗……。

 だから一人で機動要塞を乗っ取り、ノイズを滅ぼしたのか?


 ……ううん、なにか引っかかる。

 それはおかしい。俺の部隊が紅魔族を制圧するために作ったというのは、総督と俺と彼らと極一部の者にしか知られてないはず。

 当然紅魔族の生みの親である博士には、決して漏らさないようになっている。

 いや、情報がどこから漏れるかはわからない。あのゲームと玩具しか興味ないようなおっさんが、気付いていたのか? 

 だから紅魔族には頼らず機動要塞を乗っ取ったのか?

 博士はなにを企んでいる? この先になにがある?

 ノイズを破壊して、紅魔の里を破壊して、これからもどんどん破壊していっても、結局は降りたところを狙われれば終わりだろう。

 ずっと機動要塞の上で過ごすつもりか?

 

「くっ」

「サトー隊長、あなたも悔しいですか? 当然だよな。あの男に裏切られたのだから!」


 元所長の言葉に。


「違う! そうじゃない。博士がなにをしたいのか全くわからないんだ!」


 機動要塞の上で次々と町を、国を破壊し、それからどうするんだ?

 機動要塞の力で世界を支配する? いやあの兵器がいくら強くても、支配するには降りなければならない。そうすれば負ける。

 支配ではなく破壊なのか? 世界を破壊したいだけ? あいつにそんな破壊衝動なんかあったっけ?


「待てよ……。紅魔の里での戦いのデータを思い出せ」


 紅魔の里での戦い。あの時はカタパルトには目もくれずに突撃してきた。まぁカタパルトは偽物だったが。いくら魔法の通用しない結界があるとはいえ、もし岩が要塞に直撃すれば、当たり所が悪ければ操る博士が怪我をするかも?

 どんな些細な事でも、人が動かすのなら止めに来るはずだ。

 そうだ、だからあの時は人の手によって動いて無いと結論付けたんだ。

 機動要塞はただ暴走してるだけだと。 

 でも博士が中にいるってことは……? 中にいながらなんであんな直線的な動きを?

 まさか……。

 

「わかったぞ! 博士は多分、機動要塞を直接動かしていない。実験日の前日に過って起動スイッチを押して、そのまま止まらなくなったのかも!? 止められないから降りてこない! それなら全ての行動に納得がいく!」


 推理した結論を発表した。

  

「そ、そんなわけ! あなたはあの男の友人だったから、彼を庇うつもりだ!? そうね!?」

「もし人が操ってるなら、もっと人為的な動きをするはずだ。仮に博士の野望が本物だとすれば、自動運転にしているのかどっちかだ。なんにせよ、意思もなく動いている。証明する方法は機動要塞を止める以外無いがな」


 元所長に説明した。


「ふむ。で、仮に機動要塞が暴走状態にあるとして、どう違うのだよ? 結局は危険なだけじゃないの!?」

「大きな違いだぞ、元所長。人がいれば、もし機動要塞を脅かすものが現れた際、逃げるか、真っ先に破壊に向かうだろう? だが自動ならばその心配はない。いつも通り突っ込んでくるだけだろう。隠れる必要がなくなる」

「ふむふむ。なるほど。戦いについては専門外だからわからなかったけど、そういうのがあるのね。軍人の意見は中々参考になるね」

 

 納得する元所長。


「それでだ。ここにきたのは機動要塞を破壊する兵器がないかを確かめるためだ。機動要塞の最も恐ろしい所は三つある。一つはあの巨体。二つ目は魔術結界。そして最後にスピードだ。どれか一つでも排除できれば、勝てる可能性はある」

「それならいい兵器があるわ! いいじゃない! 今丁度組み立てている最中! アレよ!」


 俺は倒すために必要な三つを述べると、笑顔で巨大アンテナを指差す元主任。


「アレは魔法結界を破壊できるの! 元々は魔王城の結界を破るために作ってたんだけど、機動要塞にも効くはずよ! だって魔王城のも要塞のも原理は一緒だもんね。これで勝てるわ! 見てなさいあの男! 引きずり降ろして処刑してやるからね!」

「本当か? もし結界が解除できるなら、あとは紅魔族に集中砲火させればいい。いくらあの巨体でも連続で食らえばいつかは止まる」

 

 勝機が見えてきたぞ。ここで機動要塞を止めることができれば、俺はもう一度英雄へと返り咲くことが出来る。

 そうなれば賞金首も取り消されるだろう。悪事は全てバレてしまったが、またやり直すチャンスはある。


「ええ、1分以上照射することで、あの憎き機動要塞に張られた結界は粉々にはじけ散るでしょう!」


 そんな俺の希望を撃ち砕くように、元主任はドヤ顔でそんな事を言ってきた。


「1分以上だと!? あの機動要塞の速度と破壊力を見ただろう? 紅魔族ですらどうしようもないアレの前で! 1分とか舐めてんのか! 持ちこたえられるわけねえだろ! 一瞬で剥がせるのはないのか!」

「そんな女神のような真似が出来るわけないでしょうが! これでも最新の兵器だからね? ……ああ、そういえばサトー隊長、前にも巨大なゴーレム兵器を建造してましたね。機動要塞ほどではないですけど! アレにこのアンテナを載せれば――」

「追いつけるわけねえだろ! アレ単なる輸送用だぞ! 足も遅いしどうしろっていうんだ」


 名案が浮かんだという顔の元主任につっこむ。


「あの四本足の兵器は『機動要塞』を作る際に、色々参考にさせてもらったなあ。四本足では困難だったスピードの問題や、山岳地帯での不安定さも、二倍の八本脚にすることで解決したしね!」

「なに勝手な事してんだよう。マジで俺が作ったみたいじゃん。はぁーマジ勘弁してくれ」

 

 自慢げに語る彼女にため息をつく。



 紅魔族用歩行型トランスポーター。

 紅魔族を安全に戦場の最前線に送るために作った輸送器。でも紅魔族にかっこ悪いと言われて計画は破棄。

 変わりに俺の個人的な旗艦として再利用したんだが。相手を威圧する以外あまり意味はないけど。


「たしかアレは、全部で四機作ったところで製造が中止されて……。記憶ではそれぞれ――


 一番艦<サトーズ・フィスト>は魔王城から撤退するときに大破。

 二番艦<グレートアクア>は完成したが倉庫に入れてて。

 三番艦<レッドフォース・ゼロ>は動力源を入れる前に放置。

 四番艦<ブラッディ・ダッチェス>は組み立てる前に終わった。


 ――二番艦、<グレートアクア>はどうなった!? アレは動けたはずだが?」

「<グレートアクア>は、機動要塞の暴走の際に勇敢に立ち向かったのですが……無残に押しつぶされました」


 そうだろうなあ。だってアレろくな武装ないし。


「でも<グレートアクア>がひきつけているおかげで! シェルターへの避難は無事に完了しました!」


 さすがはマリンにちなんでつけただけの事はある。本人同様勇敢だったな。


「そりゃそうなるだろうな。で、残った二つは?」

「<レッドフォース・ゼロ>なら現在、残存するマナタイトを設置、間も無く完成するでしょう。さらに<ブラッディ・ダッチェス>の部品を使い、最大限の改造をしています。スピードは3割り増しになると思います」


 別の工場の様子がモニターで表示される。そこには着々と魔改造されていく<レッドフォース・ゼロ>の姿が。

 強化され脚が少しマッチョになった四本足の大型ゴーレムは、一見頼もしそうだが。


「で、3割り増しになったスピードで、機動要塞の前で、1分以上逃げ回れることは出来るのか?」

「待ってください。今計算してます。……ふむ、ほうほうそうですね、98%の確率で破壊されるでしょう。でもサトー隊長が言うとおり、本当に人が動かしていないのなら、おお凄い! 85%まで確率が落ちましたね!」

「ダメじゃねえか! 全然安心できねえよ! 15%の確率とか絶対に無理!」

「いや待ってください。いくら自動運転といえども、結界の解除を始めようとすれば流石に防衛システムが感知するでしょうから……そうなった場合は、95%の確率で破壊されます」


 無理だな。

 これは諦めるしかないか。3%しか変わってねえよ。

 動きの遅い<レッドフォース・ゼロ>で、機動要塞の結界を解除するのは不可能だ。


「ではサトー隊長。5%の確率に賭けてください」

「やれるか! アホか! ノイズの奴らは頭のいいバカばっかりだ! なんならお前がやってみろよ!」

「戦いは軍人の専門だろ!? 我々研究者の仕事はそれをサポートすることだから」

「ふざけんな! だからテメーは所長の座を追われたんだよ!」

「くっ!」


 キレて元所長と言い争う。

 うん無理。

 結界の解除に1分もかかるなら、<レッドフォース・ゼロ>で機動要塞を食い止めるのは無理だ。

 むしろ別の何かに機動要塞が手こずっている間に、こっそりと忍び寄って結界を破壊できれば。

 だがそんなものはない。機動要塞を1分、動きを止めることなど。紅魔族でも、あいつらに作らせたゴーレムでもほぼ一瞬で破壊された。

 この世界に機動要塞に対抗できるものなど存在するわけが……。

 …………待てよ?


「……いや1つだけあったぞ。機動要塞を1分以上足止めできる場所が」


 このとき、俺の頭の中に最悪の考えが浮かんだ。





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 元所長に二つの兵器の完成を急がせ、俺は俺で新たにやることが決まった。

 最後の戦いのための、部隊の再編成だ。

 まずマリン、レイ、アルタリアと俺の4人で集まる。


「これから行う作戦は、常識をかなり逸脱することになる。混乱が起きないよう、俺の指揮権を明確にし、一致団結する必要がある」

「今までとどう違うんだ? マサキは昔からやりたい放題やってきたじゃねえか」


 アルタリアが突っ込んでくるが。


「今まで以上にだよ! とにかく、ヤベー戦いになる。誰も見たことも聞いたこともない作戦だ。俺の今まで培ってきた力、武力、魔法、知略、交渉術、嘘、詐術。全てを継ぎ込む必要がある。それでもなお勝てる可能性は低い」

「マサキ! 本当に!? 本当に機動要塞を止めることができるのですか? 私の使命を果たすことが?」


 次は何度も聞き返すマリンに。


「言っただろ! 可能性は低いと。約束は出来ない。だが絶対に勝てる戦いなど存在しない。だがこれが最後のチャンスだ。これを逃せば、機動要塞を止める事は永遠にできない! やるだけやってみるぞ」

「それにしてもさっきの女! 長い事マサキ様といちゃいちゃと許せませんね。この戦いが終わったら、消し炭にしていいですか?」


 相変わらずのレイだが。 

 

「フン、だがレイ。お前はあの元所長に魔法を浴びせるような真似はしなかった。お前もわかっているんだろう? 野望には妥協が必要だと。そうとも、あいつはこの作戦に不可欠だ。成長して嬉しい。じゃあこれからノイズの王の元に向かうぞ!」


 笑って言い返し、シェルターの最深部にある、王専用の特別室に向かった。


「ここは通せません! 王は今、絶対安静なんです!」

「誰であろうとも通ることは出来ません! 面会は謝絶です! これは王命です!」


 近衛兵が立ち塞がるが。


「どけ」


 睨み付けて告げる。


「いけません! 王は病気なんです」

「王に逆らうなら、国家反逆罪で処刑しますよ」


 何が国家反逆罪だ。

 国なんかとっくにないというのに。


「どけ! これは要望ではなく命令だ。『バインド』」


 近衛兵を縛りつけ、王の部屋の扉を蹴り飛ばして開けた。


「これはこれは総督、お見舞いに参りました」

『シュー……コー……』 


 どうやら病気というのは嘘ではなかったようだ。明らかに弱りきった様子の総督を見て、軽く頭を下げる。


「無礼者! 誰が通していいと! うぐっ」


 無粋な秘書官にはバインドで締め上げて口を塞いだ。


「総督、あなたの忠実なる僕、サトー隊長です。ノイズのための最後の戦いの指揮を取りたく、君命を受けに参りました」

『ま、まさ……か、こんな事に……なる……とは。無念……シュー』


 総督はノイズの崩壊で持病のあらゆる病気が悪化したようで、完全に弱りきっている。シェルター内では医療設備も限られるだろう。


『誰か……我がノイズが……何故こんな……ゴホッゴホッ』


 どうしてかって? どうしてこんな目にあったのか?

 単純だ。貴様ごときに魔道技術兵器は過ぎた玩具だ。

 自分の器以上の物を手にした報いが来た、それだけだ。


「では総督。私に君命を与えてください。機動要塞を破壊する! そう命じてください。全身全霊を持って尽くします」

『我が……ノイズが…………コーホー、世界を手に』


 俺の言葉が聞こえないのか、未だに過去にしがみ付く総督。


『……早く武器を……魔王を倒す……兵器』

「わかりました! この私サトー・マサキが、最後の命令を承りました。機動要塞のことはお任せください」


 もう無視して頷いた。


『魔王の……首を……ガハッ! ゴホッ! ゴシュー……』

「なんですって!? この俺にノイズの全指揮を預けると? 私を将軍に!? 光栄です総督!」


 勝手に話を進めてやるか。


「会話が噛み合ってませんわよ?」

「マサキ様、強引に君命を受け取る気ですか」

「ハッハッハ! あいつらしいな」


 俺の外道さに、もうすっかり慣れっこになった3人が行った。


『魔王を……倒し……もの…………なんでも……願いシューー、コーシュー』

「ええお任せください。ノイズの民もこの私がなんとかしますから。機動要塞を破壊し、亡国の民を導く。偉大で慈愛に満ちた王よ、あなたの命は、決して無駄にはしませんとも!」


 総督の耳元で最後に適当に頷いた後、立ち上がった。


「よし、もうこいつに用はない。では俺が将軍になった証として何かないか? ノイズの象徴のようなものは!?」


 無駄に豪華な病室の中で物色していると、アニメやラノベではよく見る、まさに象徴的なものを見つけた。

 その武器の名は日本刀。ジャパニーズカタナだ。


「これはいい。将軍に相応しい武器だ」

 

 ノイズは内政チートが集まりできた国。

 その内政チート持ちは日本人。きっととある日本人の一人が、自分の故郷の武器に憧れて独自に作り上げたのだろう。

 

「まさしく本物の刀だ。この世界でよくここまで再現したものだ」


 神器と呼ばれる、この世界に来たものが持ち込めるチートアイテムとは違い、その刀はあくまでただの武器だった。それでもなおこの武器の魅力は損なわれることはない。鞘から出して眺めると、綺麗に湾曲した刀身には、木目のような模様が浮かび上がる。


「ま、待て! その武器は! 刀はノイズの国宝といっても過言ではない。多くの鍛冶師が再現しようとしたが、ついに同じものは出来なかった。世界に二つとない宝を!」


 バインドを何とか口から外し、秘書官が叫ぶが。


「武器は戦うために作られたものだ。飾っておくものではない。戦場になければただの飾りだ。民のいない……、この王と同じだな。今からこの俺が、真の刀にしてやろう」

「ついに言ったな! サトー隊長! いやサトー・マサキ! お前など不敬罪で!」


 俺の言葉を聞き激怒する秘書官に。


「そういえばまだ試し切りをしていないな。丁度いい。将軍に逆らった小娘を直々に成敗する!」

「なっ! よせ! ここで私を殺せばお前は! 本当に! その目、本気だな!? わかった!! お前が将軍だと認めるから!」


 縛られた秘書が必死で許しを請う。


「フン、『バインド』! それでいい。俺は戦いに向かう。ノイズの後片付けにな。総督もお前らも、あとは好きにしろ」

「はぁ、はぁ、はぁ」


 彼女に拘束スキルを再度放った後、刀を納めて部屋から出た。

 

「ごめんなさいねー! でも世界の危機なんですわ。許してくださいませ」


 マリンは拘束された近衛兵たちに、一応謝りながら俺に続いた。




「サトー殿!? 一体どこに行ってたんです?」


 没落したノイズの政治家たちの娯楽に無理やりつき合わされ、ウンザリした顔でヘトヘトになったダグネス嬢がやってきた。


「なんて様だ。国民を守る義務を放棄している! 貴族階級の振る舞いとは思えん! 彼らの態度には憤りを感じる!」

「あれが国を失った権力者達の成れの果てだ。これはノイズだけではない。全ての国の定めだ。ベルゼルグの貴族も自国が滅びてしまえば同じ運命をたどるだろう。ダグネス嬢よ、国家の崩壊は人の立場を変える。こうならないようにあなたは全力で祖国を守れよ」


 特権階級といえど、国が無ければ貧民と同じだ。

 哀れな元貴族共を見て冷ややかに警告する。

 まぁあいつらには最後の仕事をやってもらわないといけないからな。

 この俺がノイズのトップになった事をはっきりと認めさせなければ。


「ノイズの貴族よ!! 聞け! 王より君命を受けた! 俺に従え!」


 娯楽施設で遊んでいる貴族に大声で怒鳴りつけた。


「なんだとサトー隊長?」

「いくらノイズの英雄でも、我々に命令する権利などない」

「そうだ、お前は単なる部隊の隊長にすぎない! 調子に乗るなよ?」


 強気でギャーギャー言い返す元貴族共に。


「隊長ではない。俺は将軍だ! 全員! サトー将軍と呼べ!!」


 日本刀を振り上げて再度怒鳴りつけた。


「あ、あれは。ノイズの国宝のカタナ!?」

「なぜあいつが持っている? おい!」

「王がアレを手放すなど考えられん。まさか本当に将軍に任命されたのか?」


 元貴族共のなかでどよめきが走った。


「その通り! 王は死の間際に、この俺を後継者へと選んだ。この俺はノイズの将軍にして! この国のニューリーダーだ!」


 刀を高く掲げたまま、はっきりと宣言した。


「なに勝手に殺してるんですか?」


 ボソっとマリンが小声で呟く。


「嘘だ! 病床の王からマサキが奪い取ったに違いない!」

「これはマサキによるクーデターだ!」

「認めないわ! 誰がお前なんかに!」


 元貴族共は予想通りの反応を示す。俺は一度刀を納めて、次の話を進める。


「フン、いいか元貴族共。もうノイズは滅んだ! 完全に! まずはそこから認めることだ。この俺も、今になってはこんな国など欲しくは無い! 俺の目的は機動要塞を止めることだ。欲しいのは止めるための兵器だけ。元貴族のお前らに要求することは何も無い。はっきり言って邪魔だ。大人しくしているなら、このシェルターの中にある、隠し財産はそのままにしておいてやろう!」


 隠し財産の事を指摘され、顔色が明らかに悪くなる元貴族共。


「隠し財産? ナンノコトカナ?」

「ノイズが攻撃を受けたとき、全部ナクナッチャッタヨ?」


 明らかにキョドった口調で反論されるが。


「わかった。そういう態度を取るのか。よしレイ。あの上に光る出っ張りがあるだろ? あそこを破壊したら扉が――」


 そこまで言いかけたところで。


「これはこれはサトー将軍!」

「私はあなたに従いますとも!」

「英雄サトー・マサキ殿! 将軍への就任おめでとうございます」

「ノイズを救うのはあなたしかいない!」


 ふんぞり返っていた元貴族は椅子から飛び降り、みんな大慌てて俺に跪いた。

 俺は悪党だ。ノイズの隊長をしながらも裏取引も行っていた。

 自然とノイズの闇の情報にも詳しくなる。

 なにせこいつらは俺の組織だとはつゆも思わずに、利用してせっせと金を溜めていたのだ。

 バレバレなんだよバカ共。


「よし、全員異論は無いな!? 俺は今から将軍だな! ブラック・ワンよ。お前も今日から副隊長じゃない! 隊長に昇格だ! よかったな!」

「は、はぁ」


 この流れでついでに黒の部隊の副隊長も出世させた。


「よし、これで俺の邪魔をするものはいなくなった。俺の指揮の下、残りの兵器をかき集め、最後の作戦に出る」


 こうしてノイズの残党は全て俺の元に屈服した。まぁ滅びた国の力なんて無いも等しいが。

 だが少なくともノイズ最後の戦いだけは自由に出来る。その後は知らん。

 あと不安要素は……。

 チラっと仲間の姿を見て。


「それにしてもだ! 俺の命令をちゃんと聞いたのがアルタリアだけとはな! レイもマリンも勝手に特攻するし! 仲間だからといって上官舐めんな! 今まで一番のバカはアルタリアかと思ったが違ったみたいだな! 聞いてるのか馬鹿女二人!」


 前回独自の行動をした、マリンとレイを正座させて説教した。

 アルタリアだけが腕を組んで偉そうにふんぞり返っている。

 そんな彼女に質問する。


「ではアルタリア先生。どうして突撃しなかったんですか?」

「ああ? そりゃあんなでかいのに勝てるわけねえだろ。常識考えろよ?」


 アルタリアの至極真っ当な答えに納得し。


「だそうだ。お前らよく聞けよ! 先生の言葉をよ! このバカ! バカ! カス共!」


 さらに激しく二人を攻め立てた。


「私にアクア様の声が聞こえる理由。それはこれを止めるため、使命だから仕方なく!」

「結局無意味だったくせに! 役立たず! 無駄死にだったぞマリン!」


 マリンに怒って。


「私は直前で引き返しましたからセーフです」

「アウトだ! よりたちが悪いわ! 俺がどれだけ心を乱したか! 作戦が台無しになる寸前だったぞ! 結局失敗したけどな!」


 レイにも怒った。


「次は無いと思えよ。っていうか次しか無いけどな。マリン、本当に機動要塞を止めたいのなら、俺の命令には絶対服従しろ。レイ、今度勝手な真似をしたらお前との婚約は解消する。いいな!?」

「はい」

「婚約解消されても、私には関係ありませ……いやすいませんでした」


 素直に謝るバカ二人。


「そこでだ、今度の戦いの要となるのはアルタリアだ。作戦が成功するかどうかはお前にかかっている」

「マジか? 勝ち目があるなら何だってやるぜ! ワクワクするぜ!」


 アルタリアに期待をこめていった。


「なんでアルタリアが!? いやすいませんでした!」

 

 嫉妬するレイだが、俺の目線を感じてすぐに謝った。


「アルタリアと、結界を破壊できる兵器。この二つが要だ。元所長! 完成はまだか!?」


 女研究員に聞くと。


「元所長って言うな! ああ、マサキ隊長……いや将軍が部品を優先させてくれたおかげで、もうすぐ完成します。ああ、なあ、将軍になったなら、私も所長にしてくれません?」

「いいぞ。お前は今から所長だ! 将軍が命ずる!」

「やったー! よっしゃ! これで私も正式に所長ね!」


 地位が滅茶苦茶軽くなっているのだが、嬉しそうだし突っ込まないでおくか。


「将軍! 結界解除波動送信機が完成すれば、あの憎き機動要塞を破壊できるんですね?」

「スーパー結界キラー」

「は?」


 俺の言葉に聞き返す女所長。


「結界解除波動送信機が……」

「スーパー結界キラー!」

「……」

「……」


 少し沈黙が流れた後。


「……スーパー結界キラーが完成すれば、機動要塞を?」

「ああ、その通りだ。このサトー将軍に任せろ」


 女所長は折れて頷いた。

 なんだよ。俺のネーミングセンスに文句あるのかよ。

 あとは紅魔族やブラックネス・スクワッドに作戦を伝えるか。ついでにアクシズ教徒にも。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 スーパー結界キラーが完成。

 <レッドフォース・ゼロ>の改造も終了。

 さらに残存する全ての魔道ゴーレムをノイズの跡地に集結させた。

 後は人間の軍隊だ。


「紅魔族、この戦いが終わったらカラコンはくれてやる! アクシズ教徒! お前らには世界を滅ぼしかねない兵器を数個! これでどうだ!?」


 紅魔族、アクシズ教徒へそれぞれ聞くと。

  

「あの神器を!? 神器を超えた伝説過ぎるアイテムをくれるのなら! 命も惜しくは無い!」

「いいぜマサキ。あんたは話が早いから助かるぜ。これでゼクシスに一泡拭かせてやる。そうなればこの俺様がアクシズ教のニューリーダーだ!」


 リーダー格であるいっくんもストックも快く同意してくれた。


「だが命令には絶対だぞ? 従わない奴はこのサトー将軍が処罰してやる! 贈呈の品も破壊する。わかってるよな!?」


 念押しに迫った。

 俺の処罰はともかく、アイテムが壊される事を恐れた二人は渋々ながらも納得した。

 次はダスティネス卿だ。


「俺達が責任を持って、あの兵器を破壊する。その時は俺の懸賞金を取り消してくれよな」

「ああ、ダスティネス家の名において、約束しよう」


 頷くダグネス嬢。

 サナーは役に立たないと思い、シェルター内においてきた。


「だが私も手伝おう! もはやこれはノイズだけの問題ではない!」

「ダグネス嬢、いやダスティネス卿。あんたは見届け人になってくれ。この俺があの機動要塞を破壊する様を見て、俺の事を判断しろ。正義か悪か決めるといい」


 ベルゼルグ王国との交渉も終わった。

 これで全ての戦闘準備が完了した。内部からの障害は無くなった。

 あとは戦うのみだ。



「これよりプランD! デストロイヤー計画を始める! 最後のクエストだ! 全員覚悟を決めろ!」

「おおー!!」

「やってやる!!」

「はい将軍!」

「いくぞ!」

「見てろよゼクシズ!!」

「邪眼のため!」


 抜いた刀を大げさに持ち上げ、出陣の合図を告げた。

 ブラックネス・スクワッド。

 紅魔族。

 アクシズ教徒。

 ゴーレムたちが俺の刀に答え、それぞれの武器を持ち上げて答えた。


「なにがあっても、マサキ様に付いて行きます! 運命の人ですから!」

「お前と出会えて楽しかったぜ! 多くのモンスターを血祭りに上げてきた! 私らは最高の仲間だ」

「マサキは勇者ではなかったのかもしれません。でもあなたと、いいえあなた達と過ごした時間は消えません。マサキの外道っぷりにはいつも手を焼かされましたが、今はいい思い出です」

「やめろよお前ら。まるでこれで最終回みたいじゃんか。遺言みたいなことは言うなよ! フラグっぽいんだよ!」 


 四人で手を取り合い、俺たちの最後のクエストが始まる。

 旅の終わりだ。

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