三部 8話 養殖
紅魔の里。
まずななっこが爆発魔法で何もかも吹き飛ばし、他のメンバーがゴーレムや召還魔法で呼び出した悪魔をうまく操って家を作り直している。
俺たちが必死で穴を掘っていたのが馬鹿みたいだ。最初からこうすればよかった。
さすがはチートクラスの魔力を持つ紅魔族。戦闘だけでなく建設業にも役立つのか。
未だ壊滅的な被害から立ち直っていないと聞くアクセルとはえらい違いだ。
「で、博士。それが例の『レールガン』か」
紅魔の里での戦いで、唯一毒の汚染から逃れた秘密の施設にて、無駄に長大しいライフルを見て呟く。
「原理はどうなっているんだ? 名前の通り電磁加速装置でも搭載してるのか?」
「え? そんなたいそうなモンじゃないし。別に魔力を圧縮して撃っただけだよ?」
鼻くそを穿りながら答える博士。だったらそんな『レールガン』みたいなややこしい名前付けるなよ。
まぁ、それはともかくあの威力は捨てがたい。
「本当に連射は出来ないのか? あれなら魔王城攻略に有効だと思うんだけどなあ 余裕で結界ごと貫通できそうだしな」
「は? 連射どころか数発撃ったらぶっ壊れそうだわ。さっきもいったじゃん。あり合わせの適当なパーツで作ったって! 少し凝っちゃったからやべえ威力になっちゃったんだけどね。このまま『魔術師殺し』とセットで封印するつもりだけど」
やっぱダメか。博士の発明品はいつもどこか抜けてるんだよなあ。
「兵器なんかに頼らなくても大丈夫です! マサキ様の野望の妨げになる障害は! 全て私が破壊します!」
「俺の一番の障害はお前なんだよ!」
れいれいの頭をぐりぐりして言う。
「またまたあ、マサキ様。照れ隠しですか?」
「んだとてめえ! 無駄に紅魔族にケンカを売りやがって! あいつらの対処作はすでにある! あるのに無駄に煽ってんじゃねえよ!」
いつものようにれいれいを叱り付けていると、それを見た博士が。
「相変わらず仲がいいね君達」
「んだとコラア! どこがだ!」
「やっぱりそう見えます? 私達は心が通じ合っているから当然ですね!」
「んだとこの! 離れろ!」
れいれいを引き剥がしながら考える。
もう魔王軍もノイズへ侵攻するのは懲りただろう。
なら今度はこちらのターン! 俺が軍隊を率い、魔王城へと攻撃を仕掛ける番だ!
だが課題はある。
攻め込むにはこっちの兵力が不足しているのだ。
ノイズの主力は紅魔族、そしてそれを補助するブラックネス・スクワッド。
しかし紅魔族は9人プラス1、あとスキルを覚えてないのが1人。ブラックネス・スクワッドはあくまで特殊部隊で主力ではない。さらにマリンによって洗脳されたモンスター兵を含めてもまだまだ足りない。
これじゃあ魔王を倒すのは、いやたどり着くだけでもきつい。
「次の紅魔族はどうなったんだ? 博士。今度は暴発しないようになってるんだろ?」
「そのことか。安心しなって。『レールガン』の開発で一時凍結していたが、無事終わったよ。今度は魔法使いレベルを最大の少し前で止めといたわ。代わりに身体能力を上げておいた。これでもうオーバーヒートはないだろ。ほらおいで」
また赤い眼をした奴らがぞろぞろとやってきた。
――紅魔族第二世代。通称バランス型。
紅魔族の熱暴走の原因でもあった急激すぎる魔力回復を抑え、その代わりに身体能力を強化させた新たなタイプの改造人間。
おかげで余分な魔力を排出してくれる紅魔族ローブは必要なくなった。
魔法使いとしての能力は第一世代より劣るが、体力に優れているためスキルポイントの振り分け次第では前衛職のような真似も出来る。
アークウィザードとしての職業に縛られない様々な運用が想定できる。
紅魔族であることを示すバーコードは顔ではなく手の甲に付けられている。機体ナンバーは10~25の15人。
「……と仕様書には耳障りのいいことは書いてあるんだが、本当に使えるのか?」
書類を読みながら、出てきた新たな紅魔族をじろじろ値踏みするように見て、博士に尋ねる。
「いっとくけどノイズに残ってたスキルアップポーションはほぼ第一世代がもっていったから、彼らのレベルは1から地道にあげてくれ。今の戦闘力は素人同然だわ」
ダメじゃん。
魔王を攻める前に、まずこいつらのレベル上げを手伝う必要があるのか。めんどくさいな。
「あんただな? サトー隊長ってのは! あと隣にいるのがプロトタイプか」
「何か文句あるんですか? あなた達もマサキ様に歯向かうつもりですか?」
れいれいが睨んで聞き返すと。
「文句? 違いますよ。俺達は第一世代の紅魔族、ファーストナンバーズと違って圧倒的に経験値が足りないんだ」
「楽してレベルアップの方法はないのか? スキルアップポーションが余ってたらくれよ!」
「頼みますよ隊長。早く先輩たちみたいにドッカンドッカン魔法を撃ちまくりたいのよ!」
なんという他力本願。つまり手っ取り早い経験値稼ぎを教えろと言う事か。
でもなあ。
ノイズの周辺のモンスターはすでに狩りつくしたからなあ。
魔王軍は追い返したし、一気に経験値を稼げそうなイベントは当分ないだろうしなあ。
「紅魔族の世話はいっくんに任せてるし、あいつに頼めよ。俺はブラックネス・スクワットだけで大変なんだよ」
めんどくさそうに告げると。
「サトー隊長と言えば、勝つためならどんな非道な手段も問わない、泣く子も黙る悪逆非道だと聞いてますよ?」
「そうだわ。私達が早くレベルアップできれば、その分サトー隊長の方の利益が一致するんじゃない?」
「なにかあるでしょ? 楽して強くなる卑怯な裏技が! 私達は知能も高いからお見通しよ!」
「チッ。酷い言われようだな」
だが考えてみよう。最初の紅魔族たちとは色々あって仲がいい状態とはいえない。同じノイズ軍に属しているんだから、友好な関係を保つ方がいいに決まってる。
少なくとも見かけ上は。
「あなたたち黒いのは人数が増えてもレベルは揃ってるよね? どうやってるの?」
「しょうがねえなあ。確かにいくら潜在能力が強くてもレベルが低ければ役立たずだしな。企業秘密だったんだが特別に教えてやろう」
今度は人間関係で失敗しないようにしよう。恩を売っておくのも悪くない。
「お前たちの言うとおり、俺達は効率的なレベル上げをしているんだ。“養殖”と呼んでいる」
「養殖? それはどういうものなんです?」
「文字通りの意味だ。モンスターを養殖するんだ。それを殺すことでレベルを上げる、ただそれだけだ」
いまいちピンと来ない様子の紅魔族たちに。
「なんなら参加させてやるよ。付いて来い」
養殖場と書かれた建物に案内しながら話す。
「最初はカモネギの養殖を試したんだが……うまくいかなくてな。それにカモネギは高級食材だ。コストがかかりすぎて断念した。集めるだけでも金がかかりすぎる。それで代わりのものを用意したんだ」
中では俺の直属の部下、ブラックネス・スクワッドが槍を手に持ち、大きな袋の前で整列する殺伐とした風景が広がっている。
ちょうど養殖をしている真っ最中だ。マスクをして袋を槍で突き刺している。
「これは大隊長。なにかありましたか?」
俺の姿を見て敬礼し、尋ねる隊員に。
「紹介しよう。こいつらは新しい紅魔族たちだ。だが経験値が足りないようでな、まだ戦力にはならん。そこで黒流のやり方で一気に一人前の兵士に鍛えてやろうと思ってな」
「そういうことでしたか。ではこちらへ」
紅魔族を案内する黒の部隊たち。
「あそこにある袋に攻撃しろ。そうすればレベルがぐーんとあがる。おっと、マスクを忘れるなよ」
レベルアップ場にてそう教えた。
「どうして袋を被せているんです?」
「俺の部下が、目が合うと殺し辛いといわれたからだ。いいからやってみろ」
恐る恐る紅魔族が袋を突き刺すと。
「きゅっ」
「本当だ! 凄いレベルが上がった!」
袋の中のモンスターが小さく断末魔をあげる。自らの冒険者カードを見て、嬉しそうに喜んでいる。
「お前らもやってみろよ!」
「うん!」
「えい!」
次々と設置された袋を突き刺していく紅魔族第二世代。この調子でいけばすぐに前線で使えるようになるだろう。
「で、この袋の中には、どんなモンスターがいるんだろ?」
「あの有名なカモネギの亜種でもいるのか? この経験値の上がりようは並みのモンスターじゃないぞ」
「ドラゴンとか? グリフィンとか? そんな感じかしら? にしては小さいけど」
疑問に思い、袋を取ろうとする紅魔族。
「やめろ! 袋を取るな!」
慌てて止めようととするも。
「ンググ」
袋の中にいるのは年端もいかない少女。口を封じられ、ブルブル震えている。
「あーあ。ビジュアル的にアレだから、見せたくなかったのに」
「ひ……ひい」
悲鳴をあげて後ずさる紅魔族たち。その姿に驚き、ハッとして自分の持っていた槍をドスッと取り落とす。
「お、お前たち! なんてことをしているんだ! 俺は子供を殺して経験値を稼いでいたのか? この犯罪者! サイコパスめ!」
俺に恐怖と軽蔑の視線を浴びせながら叫ぶが。
「よく見ろよ。そいつはモンスターだ。冷静に考えてみろよ。普通のガキを殺してそんなにレベルがあがるわけないだろ?」
やれやれ、と言った風に彼らに説明する。
そう、彼女たちは人間の少女ではない。擬態したモンスター、安楽少女だ。
カモネギの養殖はイマイチうまくいかず、高級食材なため需要が多すぎる。数をそろえるだけでも大金がかかってしまうので代用品を探していて、目をつけたのが『安楽少女』だった。
このモンスターは危険だが、対処法さえ知っていれば倒すのは容易だ。花粉を吸わないようにマスクをすれば庇護欲をわき立てられる事もない。動けないのもいい。
大量に肥料をやることで栽培に成功し、今や経験値の糧として有効活用されている。
成長した後は喋れないように口を猿轡で縛り、上から袋を被せることで完成だ。安楽少女の生産は今や兵の強化には欠かせない存在になっている。
元々は直接殺すよう言ったが、黒の部隊の隊員から、このまま殺すのはあまりに忍びない、可愛そう過ぎてやりづらいとクレームを受けたため、袋で覆うようにしたのだが。
「可愛い顔をした奴が一番危険だったり、そういうのはよくあることだからな。戦場で敵に情けをかけないよう訓練もかねているんだけど。いいだろ?」
もう取り繕うのをやめて開き直って説明する。全員が高レベルでさえあれば、不意に対処できないレベルのモンスターに出くわし、全滅するなんてことはない。安心かつ合理的なレベルアップ方法だ。
「噂にたがわぬ……いやそれ以上の鬼畜っぷりだ……」
「頭おかしいんじゃないの? なんていうか、本当にロクでもないな!」
「流石についていけないわ」
「悪党すぎる……」
「人の心はないの?」
まぁどれだけとりつくろっても、ぱっと見は少女達を縛って袋につめた上に殺しているシリアルキラーにしか見えない。
そんな俺のやり方にドン引きした第二世代の紅魔族たちは、散々悪態を付いた後に出て行った。
「せっかく人が親切でしてやったのに」
去っていく紅魔族を見てため息を吐く。
「やはり紅魔族なんて信用できませんね。でも大丈夫! マサキ様には私が付いてる! いや、私さえいれば誰も要らない! そうでしょう! ね!」
「はぁ、そーですね。クソが!」
れいれいがニヤニヤ笑っているのを適当に返す。
……どいつもこいつも! どうして俺の合理的プランを見るとドン引きするんだよ。
せっかくうまくいくと思ったのに。第二世代を味方につける狙いは失敗だ。
結局、第二世代の紅魔族は第一世代の強い紅魔族にフォローしてもらい、止めを刺させてもらうという風にしてレベルを上げることにしたようだ。
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