一部 22話 ゾンビメーカー撲滅計画

「最近草原ばっかりで飽きたな。今度はちょっと変わったクエストを受けてみようぜ」


 なんとかしてレイを言いくるめた俺は、ようやくギルドにたどり着き、クエストを見ながらぼやいた。今までの俺のやり方は、その辺に出てくる強いのも弱いのもまとめて引き受け、アルタリアを餌に誘き寄せたところをレイの炸裂魔法で一網打尽にする方法だ。これは草原に現れる野良モンスターにはかなり有効な手だが、特殊なモンスターはほったらかしになってしまう。

 それに加え、倒しやすいモンスターをまとめて討伐してしまうため、仕事がなくなった他の冒険者から恨まれるという面倒な副産物を生んでしまった。

 そこでそろそろ他のクエストにも手を広げてみようというわけだ。掲示板に貼られたクエストを眺めていると、ふと一つのモンスターに目が行った。


「ゾンビメーカー退治か。夜のモンスターは今まで受けてこなかったな。どうしようか」


 ゾンビメーカー、それはゾンビを操る悪霊の一種で、自らは質のいい死体に乗り移り、手下代わりに数体のゾンビを操るらしい。

 だがそのゾンビを操る悪霊は、駆け出しの冒険者パーティでも倒せる程度の実力しかないようだ。非常に簡単な仕事だろう。おそらくマリン一人でも余裕で完遂できる。

 しかしそれだけでは満足しないのが俺だった。もっと合理的なプランがあるはずだ……。


「ふむ、ゾンビメーカー自信は大したことがないようだが、何度も墓を荒らされるのはきりがないな。もっと根本的な解決法がある。そう、そもそも死体があるからゾンビが生まれる。死体がなければ何も出来ない。全て掘り起こして燃やし尽くせばいい」


 俺はゾンビメーカーのクエストを持ち、そう提案した。


「マサキ! なんて事を考えるんです! この街の冒険者として散っていった人達に対する冒涜ですよ! 燃やすなんて酷すぎます!」

「悪いがマリン、俺の国の埋葬方式は火葬だ。別に悪意はない。それにだ、聞けばゾンビメーカーが沸くのは身寄りのない人間が行き着く共同墓地という話じゃないか。そいつらの死体を燃やした所で誰が文句をいうんだ?」


 マリンは俺を非難するが、真顔で言い返した。


「質のいい死体が……いや死体自体がなければゾンビメーカーは何も出来ん。わざわざ夜に退治に行かなくとも、昼間に全部掘り起こして火葬すれば全て解決じゃないか? 幸いこの街はまだ出来たばかりで死体も少ない。数日がかりでやれば全部片がつく。くたばった冒険者もゾンビにされるよりは灰になった方がいいだろ。死んでまで街に迷惑を掛けたくないはずだよ。これでほぼ永久的にゾンビメーカー問題を解決できる!」



 俺は自信満々に言い張ったが。

「「「「「うわあ……」」」」」


 マリンだけでなく、他の冒険者やギルド職員が一斉に引いた。



「なんだよ! 俺の考えはそんなにおかしいのかよ! ゾンビメーカーにはみんな悩まされてんだろ? でもプリーストの数が足りない! だったらこれがベストだろ!?」


 俺はキレてその場のみんなにわめき散らした。



「……なんという悪魔的所業……! さすがは悪の中の悪、マサキ様。でも……死体が無いと困りますよ。色々と」

「さすがの私もそれはないと思うぜ?」


 あのレイもアルタリアも俺の発言にはドン引きしている。


「そんな真似をして許されると思っているのですか! アクア様のばちが……いえ暗黒神エリス様も、全ての神々から怒られますよ!」

 その上マリンに説教を食らわされた。他の冒険者も彼女に同意し、最低の外道を見る目で俺を睨んでくる。クソッ、宗教の違いのせいでこんな理不尽な目に合うなんて。心が傷つくじゃないか。


「わかった! わかったよ! 燃やすのは無し! 無しでいいよ! じゃあ代わりにこんなのはどうだ! 死体の脚を斬りおとす……いや落とさなくてもロープでがんじがらめにしとけばいいな。それでゾンビメーカーが来て見ろ! あいつら身動きが取れなくていい的になるぞ! どうだ!」


「「「「「うわあ……」」」」」


 俺の第二プランもドン引きされたようだ。 


「マサキさんはこれ以降! ゾンビメーカーの討伐クエスト受注禁止です!」


 ギルド職員から一方的に宣言され、俺のゾンビメーカー撲滅作戦は企画段階で失敗に終わった。





「チッ。中世の未開の奴らめ。仕方ない。他のクエストを受けるとするか」


 皆から白い目で見られた俺は毒つきながら掲示板の紙を探していると、とあるクエストは目に入った。


『――マンティコアとグリフォンとアルタリアの討伐――マンティコアとグリフォンが縄張り争いをしている場所に、アルタリアが介入し三すくみの膠着状態になっています。このままでは決着が付きません。大変危険ですのでまずアルタリアを止めてください』



「お前なにやってんだよ!」


 俺は依頼書を見てアルタリアを叱った。


「お前なに討伐対象になってんだよ! アホか! マンティコアとかグリフォンとか! どう考えてもヤバい奴だろ! なんでそいつらと一緒になって暴れまわってるんだよ!」 

「ああ? ああそれかー。ある時よ、ボロボロのマンティコアがグリフォンにやられそうになってるのを見つけたんだ。そこで私はマンティコアに加勢してな。グリフォンを追い払ってやったんだ!」


 自慢げに武勇伝を語るアルタリア。自分が周囲に迷惑をかけているということは全く気付いてないようだ。


「なにやってんだ! いや待てよ、お前の話が本当なら、そのままグリフォンは倒せたんじゃないのか?」


 怒鳴る中でふと冷静になり、もう一度アルタリアに質問すると。


「ああ、それでマンティコアの奴が調子乗りやがってよ。今度はグリフォンを倒そうとしたから私が止めといたぜ」

「はあ?」


 なにがしたいんだ? バランサー気取りか? アルタリアの行動はたまに常軌を逸することがある。


「いやあ、グリフォンはまだ小さいし、マンティコアは失敗作っぽいけどよ。それでも一応つえーモンスターだからな。一撃でも食らったら間違いなくあの世行きだろうな。そんなギリギリのスリルがたまらないんだぜ?」


 くっ。この女。自分の楽しみのために二体の上位モンスターを倒されないよう維持してるのか。なんてはた迷惑な奴なんだ。


「アルタリア! もう二度と行くなよ! お前のせいでみんな迷惑してるんだ!」 

「ええー。休日のせっかくの楽しみを奪う気かよ!」


 まだ反論するバトルバカ女に


「ええーじゃねえ! このまま賞金首になりたくなければその下らない遊びは終了だ! お前賞金首になったらアレだからな! 容赦なくギルドに突き出すからな! わかったな!!」

「強いモンスターと遊ぶのって、そんなやばい事なのか?」

「当たり前だろバカ! お前は楽しいかもしれんが他の奴らにとってはただの脅威だから! いいな!」


 未だ自分がやらかしたことを気付いてないアルタリアに説教する。


「じゃ、じゃあさ、勝ち残った方を持って帰っていいか?」

「いいわけないだろ! お前はモンスター使いじゃなくてクルセイダーだろうが! 飼えるわけねーだろ! アクセルの街を滅ぼしたいのか?」


 アクセルにマンティコアやグリフォンを持ち込むなんて。街は阿鼻叫喚の嵐になるに違いない。この女少しは考えて発言して欲しい。


「ああああーーー。せっかく楽しかったのになあ。まーくんもグリくんも。まーくんが『オマエは味方ジャなかったのカ?』 とかいって怒ってるのを見るのが面白かったのに」


 なに危険モンスターにあだ名つけてんだよ。しかもやってることは単なる動物虐待でしかない。なんでこんなにナチュラルサイコパスなんだ。


「わかったよ。でもよ、止めは私にさせてくれよ? 可愛いあいつらの最後は私が見届けたいんだ」

「それは好きにしろよ。だが行っていいのは決着が付いた後だからな! またこう着状態になったら無意味だからな。それはわかるよな?」


 こうして俺はアルタリアの説得に成功。無駄にマンティコアとグリフォンの縄張り争いを長引かせる原因を排除できた。これでクエストも一時解決。だが報酬は無かった。だってその原因が俺の仲間だったからだ。





「クソッ! ゾンビメーカーは駄目! グリフォンとマンティコアはうちの脳筋バカのせいだし! 他によさそうなクエストは無いのかよ! もっといつもと違う感じのさあ!」


 未だいいクエストが見つからない俺は、愚痴りながら掲示板の張り紙を眺めていると……。


『――伝説のリッチー、キールのダンジョン。かって貴族の令嬢を攫った悪い魔法使いが作ったダンジョンです。キールは今でもこのダンジョンに潜んでいると思われます。ダンジョンの位置がアクセルの開発計画にとって非常に邪魔です。早めに討伐してくれると助かります――』


「面白そうだな」


 そういえばこの世界に着てからダンジョン攻略とかやってないな。次のクエストはこれに決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る