一部 6話 ゴブリン退治クエスト!
ゴブリン。
それはこの世界でも知らない者はいないメジャーモンスターで、ゲームに出てくる様な雑魚モンスターではなく、実は民間人には意外と危険視されている相手らしい。
ゲームに出てくるゴブリンといえば……仲間を組んで、武器を持って襲ってくる。
ゲーム内では単なる雑魚扱いだが、現実に置き換えてみよう。
武器を持った猿が集団で襲い掛かってくる。
日本でも猿に食べ物を奪われたりする事件がある。それが群れをなし、武器を持って襲い掛かってくる。それがゴブリンだ。
考えてみればちょっとした脅威だ。マシンガンでも無いと追い払えないんじゃないか?
俺達はそんな危険生物が住む森へと向かっている。
「ゴブリンなら私だけでも倒せるのに……。こんな危ない人が一緒じゃなくても」
「それは私もですよレイさん。でも今回のクエストはマサキのレベル上げがメインですから。それに万一の事があります」
レイとマリンが会話している。
あまりに痛い子たちなのでつい忘れそうになるが、そういえば彼女たちは上級職だった。マリンもあのカエルにさえ気をつければ並みの相手なら問題無いだろう。
ちなみに今俺が使えるスキルは『片手剣』のみ。どこで教わったかというと、ギルドでレイの元パーティに出会った時に、金と一緒に返品を頼んだが断られ、じゃあせめてスキルだけでも教えろといってなんとか取得したスキルだ。
あと絶対必要になるから、という理由で『バインド』も教わった。今はポイントが無くて覚えられなかったがレベルが上がり次第手にするつもりだ。
何に対して使うのかは言うまでもないが。
「ゴブリンか! まあ雑魚だよな! 私に任せろよ! 楽勝楽勝! はっははは!」
大剣を振り回しながらウキウキで森へ入っていく新たな仲間、アルタリア。
緊張感ないなあ。まぁ彼女に任せとけば問題ないのかもしれない。上級職のクルセイダーらしいし。
「いましたよ」
山道をコソコソと歩いていくと、ゴブリンの群れが移動しているのが見えた。こちらには気付いていないようだ。死んだ冒険者からでも奪ったのだろうか、様々な錆付いた武器を持って警戒しながら山を降りている。
なぜ俺たちが先に見つけられたのかというと、ゴブリンの群れの数が多すぎて遠くからでも視認出来たからだ。
「思ったより多いですね。私の近接格闘スキルでもあの数が相手となると……結構時間がかかりますよ?」
「ファイヤーボールで蹴散らしてやってもいいんですが……問題はマサキ様を守りきれるかです。そうだ! 私達で数を減らしますから、最後に残ったのをマサキ様が倒すってのはどうですか?」
……ああ。
どうやら完全に俺が足を引っ張っているらしい。
彼女たちは性格はともかく腕は一流のはずだ。一方俺はパーティのお荷物、地雷だ。
上級職におんぶに抱っことは。ちょっと恥ずかしくも申し訳なくもなる。女に隠れて戦うなんて。
だが俺は思い出した。新しい仲間がいたことを。
「いや大丈夫だ。このまま行こう。だって今は頼れるクルセイダー、アルタリアさんがいるじゃないか。彼女が前衛で戦ってくれれば俺も少しは活躍できる。頼みますよ先生――っていねええ!!」
クルセイダーは≪デコイ≫という囮スキルで敵の注目を集めることが出来るらしい。それを期待して振り返ったら、こつぜんとアルタリアの姿が消えていた。
「おいあいつどこ行った! さっきまで楽勝とか言ってたよな! 逃げたのか!?」
「だから言ったじゃないですか! あの女に関わらないほうがいいって! あの人と組んだ人はみんなうんざりして帰って来るんですよ!」
めずらしくレイが正論を言った。こいつは運命の人とか恋愛が絡まなければまともらしい。
「いなくなったものは仕方ありません! ここは私達三人で何とかしましょう。マサキ、安全な場所で下がっててください。私が壁になります」
マリンも手を白く光らせていった。ゴブリンの群れもじきに俺達に気付くだろう。素早く状況を判断している。なんて頼りになる仲間なんだ。昨日カエルに特攻して無様にやられた姿とは偉い違いだ。
「お前達にだけいいかっこさせるかよ! と言いたいところなんだが、レベルも低いし大人しく隠れています……」
俺は素直にマリンの言葉に従い、レンタルソードを構えながら女二人の後ろでしゃがむ。なんて情けない姿なんだ。だがそれでいい。用心が一番。かっこつけて死ぬ方がよっぽど無様だ。
とりあえずレベルが上がるまでは彼女たちに守ってもらおう。それが正しい初心者プレイというものだ。しかももうゴブリンに気付かれた。子鬼が来る! 怖い助けて二人とも!
「ギギャッ! キー、キーッ!」
『ファイヤーボール』
ゴブリンの鳴き声だ。さあ戦いが始まった。レイがファイヤーボールを打ち込んでいる。炎を食らい飛び散るゴブリンたち。だが数が多すぎる。レイの魔法をかいくぐって接近するゴブリンたち。それを。
『セイクリッドブロー』
マリンがパンチを食らわせてダウンさせている。武器を持った相手に素手で勝ってるってどうなんだ? っていうか絶対プリーストの仕事じゃないよなこれ。完全に武道家かなんかだろ。
でもさすがは上級職たち。今まで散々馬鹿にしてごめんなさい。
ちなみに俺は情けなく茂みの中に隠れている。一匹なら倒せそう。うん一匹ずつなら。でもこの数は無理。絶対袋叩きにされて死ぬ。
「私の愛しい人に手出しはさせません!」
おおレイ。なんてけなげな人なんだ。これからは隣で変な笑い声を出してしがみ付かれても、一分くらいは我慢してやろう。
「これがアクア様の力です! モンスターよ! 覚悟しなさい!」
それにマリン。お前の姿は美しくかっこいいぞ! 少しはよくわからない教えについて耳を傾けてやるか。
俺は感心しつつ心で礼を言いながら隠れ続けている。っていうか何もしてない。プライドなんか知るか! 命あっての物種だろ? 主人公らしくないだって? 常識など捨ててしまえ。これが正しい初心者の戦い方だ。
二人の戦いぶりに感謝しながら、もう全部終わった後に死にかけがいたら剣で叩いて倒そう。そう決めていると、いきなり前の茂みが大きく揺れて、黒い塊が飛び出してきた!
「ハルルルルル!」
「ま、まさか!」
巨大な虎かライオンのような姿をした、サーベルタイガーのような牙をした黒い猛獣が姿を現す。その姿をみてレイが青ざめた顔をする。
「初心者殺しですか! なるほど、これだけの数のゴブリンがいるわけですわ。レイさん! 初心者殺しは初心者と魔法使いの天敵ともいえる存在です。私の後ろに隠れてください!」
目の前の黒い猛獣は初心者殺しというらしい。あのレイが恐れるとは……。っていうか初心者殺しって言う名前がもう。
ここに超初心者がいるんですけど? 冒険者初めて二日目の! なんだよもう。これってまさにカモがネギしょってやってきたようなもんじゃね?
プリーストのわりには無駄に頑丈なマリンだが、二人を守りながら戦うのはさすがに……。俺ももう駄目かも知れない。
ああ俺はなんでこんな下らない眼鏡なんか貰っちゃったのだろう。もっと強いチートアイテムで。いやそもそも馬鹿正直に冒険者なんかやらず、普通に商人としての道を歩んだり内政を目指せばよかったかもしれない。
後悔しながらおそるおそる剣を構え立ち上がる。その時だった。
「ヒャッハーーーー!!」
一瞬だった。
唐突に女騎士が現れ、初心者殺しを一閃。文字通り真っ二つにしたのだった。
なんて鮮やかな、それに綺麗な剣筋だろう。辺りに黒い獣の血が飛び散った。
「やっぱりいたか! いると思ったぜ! ははは! 初心者殺しの血は格別だ!」
そんな悪役のような台詞を言いながら、返り血を浴びたアルタリアがニタリと笑顔で舌なめずりいた。
「やあお前ら、急にいなくなって悪かったな。いやこのゴブリンの数を見ると絶対に初心者殺しが近くにいると思ってな。ちょっと木の上で待機してたんだ。いやあわりいわりい」
あっけにとられる俺たち三人に向かって、満足げに初心者殺しの死体を見つめるアルタリア。
「あっこいつまだ息がある! ちゃんと殺しとかないとな! はははは!」
真っ二つになりながらもぜいぜい言っている初心者殺しの頭に、躊躇無く剣を振り下ろすアルタリア。その姿はクルセイダーじゃない。どうみても狂戦士だ。それか魔王幹部かなにか。だが。
「助かりました! あと疑ってすみません! 後もう少しでやられてしまったかも知れませんでした」
レイはアルタリアへお礼を言った。彼女がいなければゴブリンと初心者殺し、双方を同時に相手にするのは難しかっただろう。
「鮮やかな一撃でした。お見事です。初心者殺しの可能性を考えないのは迂闊でした」
アルタリアを褒めつつ、反省するマリン。
「アルタリアさん? 君がいてくれて助かったよ。じゃないと俺はその初心者殺しに文字通り初心者狩りされてたよ」
俺も目の前のヒーローに頭を下げた。
「呼び捨てでいいって。それに私も勝手に隠れてたからお互い様さ! さあ後は雑魚のゴブリンだけだ。みんなでやっちまおうぜ!」
なんてカッコいい奴なんだ。この女騎士は。絶体絶命のピンチを救ってくれたどころか、それを鼻にかけたりもしない。言動は確かにちょっと物騒だけど凄腕の戦士だ。なんで彼女のような人がギルドでレイのようにのけ者にされているのかわからない。
こんなに強くて謙虚なら、性格に難があろうがドアを破壊するくらいいいじゃないか。
「私の一番の楽しみは! モンスター共が断末魔を上げているときさ! それを一方的に蹴散らすのが大好きなんだ! それ以外はどうでもいい! さあ死にさらせえ! ゴブリンちゃんよ!」
ゴブリンの群れに突っ込むアルタリア。初心者殺しを一撃で倒したその姿に怯えているのか、パニックになって逃げ惑うゴブリンたち。
「さあさあ! 死ね! 死ね! 殺してやる!! ははは!」
相変わらず物騒だが、次々とゴブリンを屠っていくその姿はまさに鬼神の如くだ。
「私達も! アルタリアさんに続きますよ!」
彼女の姿に勢いづけられたマリンもゴブリンを次々と殴っていく。調子を取り戻したレイも呪文を唱えている。この状況でなら、俺でもなんとかなる! ゴブリンたちは浮き足立っている。最後くらいちゃんと活躍しようじゃないか!
俺もレンタルソードでゴブリンへと向かうことに決めた。
「うっ!」
飛び出そうとしたその時、アルタリアの背後から一匹のゴブリンがやけくそ気味に斧を振り下ろした。するとアルタリアが小さなうめき声をあげる。
「えっ!?」
俺は驚いて足を止めた。斧といってもゴブリンの身長は子供くらいしかない。持てるサイズは限られている。そんなちいさな一撃だというのに。
「おい! なんかアルタリアさん……が倒れたんだけど?」
何が起きたのか全くわからない俺はマリンに聞いた。
「きっと足を滑らしたのでしょう。初心者殺しを一撃で葬り去る女騎士さんですわ。あの程度でやられるわけがありませんわ」
「そうですよ。また何かの作戦かもしれませんよ」
「だよなあ。ははは」
俺達は笑いながら倒れたアルタリアを眺めていた。
うんそうだ。
彼女は初心者殺しとかいう一目で危険モンスターだとわかるヤバイ奴を瞬殺したのだ。
そんな彼女がゴブリンごときに後れを取るわけが無い。うんそうだな。
ははは……。
「おい! アルタリアさんゴブリンに囲まれてボコボコにされてるんだが!」
いつになっても動かないアルタリアを見て俺は叫んだ。
「えっ? どうしたんでしょう? まさか改心の一撃でも食らったとか?」
「わかりました。この私が魔法で――」
「駄目だ。それだと彼女にも当たってしまう。なあマリン、体を強化する魔法とか無いのか?」
「ありますけど? どうするんです?」
慌てるマリンに俺は言った。
「俺を強化してくれ。マリンはゴブリンを押しのけて強引に道を開けて欲しい。その間に俺があの女騎士を引っ張り出す。追いかけてくるゴブリンはレイの魔法で何とかしてくれ!」
全員に指示を出してアルタリアの救出に向かう。今日初めて冒険者らしいことをした気がする。
「準備はいいか、マリン?」
「行きましょう! マサキ!」
マリンがゴブリンを拳で殴りつけて吹っ飛ばす。彼女に注意が向いた隙に、俺はなんとかアルタリアの元までたどり着いた。
「筋肉が強化されているとはいえ、この鎧を運ぶのは大変そうだ。って軽っ! なにこれ軽っ! これほんとに金属なの? 思ってたより滅茶苦茶軽っ!」
重装備の女騎士を運び出すのは一苦労だと思っていたが全然そんなことは無かった。何この人軽すぎる! 鎧の騎士を運んでいるとは思えない。その辺の洋服を着た町娘のようだ。マリンによって強化された筋肉で軽々と運び出した。
「こっちは上手くいった! マリンは避難しろ! あとはレイ! 残党をぶっ飛ばしてくれ!」
「わかりました!『ライトニング!』」
レイが残ったゴブリンに電撃を浴びせている。これでこの場のゴブリンは一掃できただろう。
「やったか!?」
と思った瞬間、一匹のゴブリンが目の前に飛び出してくる。
「ああもう! フラグを立てちゃったか! 最後に少しくらい! 戦ってやるよ!」
俺は強化された筋肉を使い、レンタルソードでゴブリンの頭をかち割った。
クエスト終了!
無事ゴブリンの群れを退治し、加えて危険な初心者殺しまで倒した。これは快挙だろう。
だけど素直に喜べない。そう、新たな仲間、女騎士アルタリアのことでだ。
「あのう? アルタリアさん? さっきはどうしたんです? なんでゴブリンなんかにやられたんですか?」
俺は少し皮肉っぽく、ぜえぜえ言ってる女騎士に尋ねた。
「はあ、はあ、はっははは! いやあ助かったぜ。私はなあ、攻撃に関しては誰にも負けない! 絶対にな! だけど防御はね、ぶっちゃけどうでもいいっていうかさあ。命がけのギリギリの戦いがしたいんだよ。一つのミスも許されないそんな状況がいいよな。でも群れで来られると流石に死角が出来るよな。つい興奮してゴブリンの群れに突っ込んじゃったけどさあ。いけると思ったんだけどなあ。まあ勝ったしんだしいいじゃねえか?」
「そういえばやけに鎧が軽かったのは?」
「そりゃ私はスピードにも気をかけてるからな。出来る限り軽量化を目指してるんだ。凄いだろ? これ金属っぽいけどメッキで塗っただけなんだぜ? おかげで体が軽いぜ!」
「張りぼてかよ! 軽いはずだわ!」
ていうかなんなのこの人?
あのおっかない初心者殺しは一撃で倒せるのにゴブリンに負けるって、どんだけ偏ったステータスしてんの?
そりゃ誰も組みたがらないわけだ。
そもそもこいつ前衛職の役割わかってんのか?
いくら強くてもゴブリンの一撃でやられるクルセイダーなんていらねえよ。
アルタリア>初心者殺し>ゴブリン>アルタリア という悲しい三竦みがここに誕生した。
「はぁ、俺の仲間はこんな変な女ばかりかよ……。何が上級職だ! こんなの詐欺だよ……」
ため息をつきながらギルドへ帰路へとついた。
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