【パラレル設定】この素晴らしい世界にデストロイヤーを!【このすば】
無色透銘
プロローグ
プロローグ
遠い昔、この素晴らしい世界で....
どうも、俺は死んだらしい。
「ようこそ死後の世界へ。私は、あなたに新たな道を案内する女神。
目が覚めると、そこは事務室みたいな部屋の中だった。
そこに、唐突に俺は突っ立っている。
そして、目の前には事務椅子に座った一人の女神。
なぜ女神だと、相手の言う事をすんなり信じたのかと言えば、無駄にキラキラと後光の様なものが射していたのと、現実にはありえない位の美女だったから、ああ、本物の女神様なんだなと思ってしまった。
その女神の言葉を聞き、なぜ自分が死んだのかわからなかった。
死んだと言われて落ち着いているのは、死んだ実感が全くわかなかったからだ。
……俺は、なんとか今日の出来事を思い出す。
――あなたのアカウントは凍結されております。
「チッ」
通算1421回目の運営による垢バンを受け、プレイしていたネトゲから追い出された俺はパソコンの前で舌打ちした。一体何がいけなかったのだろうか、いや何故バレたのだろうか、そもそもどれがバレたのだろうか。見当も付かない。無能だと侮っていた運営も意外とやるじゃないか。
まあいいか。このゲームのアカウントはコレだけじゃない。またいつものように予備で何事もなかったように復活するだけさ。とりあえず素人のふりをして上級者から装備を貰った後に売りさばくか。
「このやり方も飽きてきたな。たまには外に出るか」
俺は携帯ゲームを片手に近所の小学校の前に行き、バグ技で大量増殖した幻のモンスターを一個百円と言う格安の値段で配布した。それで得た小金でゲームセンターに向かうという、人生においてとても充実した一日を送る予定だった。
「予定通りガキ共から小遣いを巻き上げた……いやアレは商売だ! 正規ルートのモノではないとはいえ、幻のモンスターを渡したんだから100円くらい貰ってもいいはずだ! バグとはいえアレ出すの結構手間かかりますし、増殖するのも間違えれば最初からやり直しになりますし。俺も子供達も喜ぶウィンウィンの関係。そうですよね女神様!?」
「ないわ」
青き瞳を持ち、青き髪の色をした美しい女神は、俺の事をゴミを見るような軽蔑するような目で言った。
「ですよねー」
俺は申し訳なさそうに目をそらして頷いた。
「で、どうして俺は死んだんだ? 記憶ではゲーセンに向かうところで途切れてるんですが?」
とりあえず自分の悪事からは目を反らす事にして、最初の疑問に話を戻した。
「ええ死因ね。結構凄かったわよ。駐車してあったトラクターに大型トラックが突っ込んで、あなたはその衝撃で跳ね上がったトラクターの下敷きになったの。そりゃもうちょっと女神の口からは言えない様な……アレな姿で。身元を確認するのも大変だと思うわ。そこは素直にご愁傷様と言っておくわね」
なんてことだ……この女神の言うことが本当なら……俺の人生はこんなもらい事故で終わってしまったのか。
「マジかよ! あの……あまりに酷すぎませんか? 確かに俺はネトゲの世界では有名な悪質プレイヤーとして毎日匿名掲示板では晒され袋叩きに合って引退を余儀なくされ。でもまた不死鳥のように舞い戻ってはまたバグや抜け穴を見つけては好き放題。自分でもあくどいことをやらかしたと自覚してますけど……。その死に方はあんまりじゃないですか?」
俺は自分の短い人生が終わってしまったことにまだ納得できない。俺よりもっと悪い奴らなんて日本にもゴロゴロいるのに! なんで俺だけがこんな目に! なんて悪人特有の考えが脳をかすめる。でも口にしなかっただけマシだと自分に言い聞かせることにしよう。
「死んだものは仕方ないわ。ところであなた……。ゲームは好きでしょ?」
女神アクアは、唐突にそんなことを言い出した。ゲームが好きかどうか? とても難しい質問だ。俺は生活時間を殆どゲームに当てている。傍から見れば普通のゲーム好きに見えるだろう。だが俺のプレイスタイルは真っ当とは決して言えないものだ。チートツールなどを駆使してゲームバランスや人間関係をことごとく破壊していく。自分で言うのもなんだが最低のプレイヤーだ。これは純粋にゲームを好きと言い切っていいのだろうか?
……少し考えた後。
「俺は様々な面でゲーマーとしてはクソだと思いますが、本当は好きだからこそ執着するのだと思います! ツンデレの一種みたいなものです!」
俺は自分の熱い思いを女神へ宣言した。女神は俺の答えに満足したのか、にっこりと微笑んで語り始めた。
「実はね? 今、ある世界でちょっとマズイ事になってるのよね――
(中略)
女神曰く、ある世界では俗に言う魔王軍というのがいて、その世界の人類が随分数を減らしてピンチらしい。それなら他の星で若くして死んだ人なんかを、肉体と記憶はそのままで送ってあげようって事になっているようだ。それも、送ってすぐ死んでしまっては意味が無いから、何か一つだけ、強力なチート能力を持っていける権利がついてくるらしいのだった。
悪くない。これは魅力的な提案だ。普段なら大っぴらにチートを使ってしまうと、すぐに運営に通報されて垢バンは避けられない。しかしこれは女神様公認、つまり公式でチートOKということだ。本当に自慢することではないがチートを使ったプレイには自信がある。実際に運営からアカウント停止のお知らせだけでなくマジギレの警告メールが来たこともあるくらいだ。良い子はぜったい真似しないように。
「選びなさい。たった一つだけ。あなたに、何者にも負けない力を授けて上げましょう。たとえばそれは、強力な特殊能力。それは、伝説級の武器。さあ、どんなものでも一つだけ。異世界へ持っていく権利をあげましょう」
アクアの言葉に、俺はそのカタログを受け取ると、それをパラパラとめくってみる。
……そこには、≪鉄壁≫≪爆裂魔法≫≪不死の手≫≪魔剣グラム≫……その他諸々、色々な名前が記されていた。
どれもこれも魅力的なものばかりだ。だがチーターとしての勘が告げる。これらは確かに反則級だ。だが俺以外にも同じような装備を持っていった者が多数いるはずだ。ならば俺はその先輩達とは一味違う、もっとシステムの裏をかくような、そんな権利を貰いたい。
「ねー、早くしてー? どうせ何選んでも一緒よ。今までも色々送ってみたけど、結果はみんな似たようなもんだったわよ? どうでもいいから、はやくしてーはやくしてー」
今までの重々しい口調は崩壊し、若干地が出て来始める女神。どこから取り出したのかわからないが、ポテチをポリポリ食べ始めた。
女神の態度は置いておくとして、やはり思っていたとおりだ。若干のチートを得たとしても、それだけでやっていけるほどその世界は甘くないようだ。もしそうならとっくに魔王なんて倒されているはずだ。なにかないのか?なにかいい力は。俺はせかされるまま素早くカタログをめくり使えそうなものを探していく。
「……ん?」
俺がカタログをめくっていると、隙間に挟まっていたのか、一枚の紙がヒラリと落ちた。
なんだコレ?
俺は紙を見る。そこには≪見通す悪魔の目≫と書いてあった。
「これはなんです?」
「……ああそれはね。なんだっけ? ああ思い出した。確かなんて言ってったっけ? 名前は忘れたんだけど、なんとかっていう悪魔の力を再現した眼鏡だった気がするわ。神器って言うより悪魔が作った魔道具なの。後輩が危険ってことで回収したんだけど、天界に置いてたら臭いのよ。悪魔臭がするの。だから誰かが持ってってくれるのを期待して挟んで置いたの」
女神はそう説明した。俺は紙に書いてある文章に目を通した。全てを見通す
「試着いい?」
「え、もしかして引き取ってくれるの? どうぞどうぞ」
女神に尋ねると、彼女は喜んでその魔道具を持ってきてくれた。一見普通の眼鏡にしか見えない。しかしこれ本当に使えるのだろうか。とりあえず装着してみる。カタログによると横の小さなスイッチを押したとき、相手の真実が見えるとあった。他に相手はいないので、申し訳ないが目の前の女神様で試させてもらおう。
――駄女神――
眼鏡のレンズに、驚きの単語が浮き上がった。
「やっぱ壊れてるのか? もう一度押してみよう」
――無能――
「質問いいですか? 女神様」
「いいわよ?」
何度か試したあと、俺は女神に質問した。
「さっきからこの眼鏡であなたを見るとですね、ネガティブな単語ばかり浮かぶんですが。アホの子とか、トラブルメーカーとか。それは真実なんですか?」
俺の純粋な疑問だった。この眼鏡の言うとおり目の前の女神がポンコツなのか、それともアイテムが壊れてるのかわからない。
「ははーん! それはね! その魔道具が悪魔によって作られたものだからよ! この私偉大なる女神アクア様の威光に恐れをなして、そうやって小さな嫌がらせをすることしかできないの。本当に哀れな寄生虫ね! 悪魔って。プークスクス」
口元に手を当ててクスクス笑う女の子。もとい女神様。その威厳の無くなった言動を見ていると、俺はなんとなくこの眼鏡の言葉が真実のように思えてきた。ただの勘なんだが。
「で、その悪魔の道具にするの?」
「はい、じゃあこれでいいです」
俺は頷いた。きっと魔王退治というのは力押しのチート能力では限界があるのだろう。だったらその世界はとっくに平和になってるはずだ。ならばこの眼鏡のような、非戦闘向けの道具の方が役に立つだろうと結論を出したのだ。
「本当にその臭いゴミを引き取ってくれるの! これで天界の倉庫もすっきりするわ。感謝の意を込めて、あなたに取って置きの芸を披露するわ。私が地上に降りたら使おうと思ってた宴会芸よ。まぁ地上に降りるなんてめんどくさいことこの私がするわけがないけどね」
俺が選んだ魔道具が無くなるのがそんなに嬉しいのか、女神様は俺の目の前で芸を披露してくれるようだ。コップを頭に載せ、扇子を両手に持っている。
「さあ刮目なさい! この水の女神に相応しい、最高の芸を見せてあげるわ! いよっ!」
扇子からぴゅーっと水が飛び出し、頭に載せたコップからにょきにょきと植物のツルが伸びていき大きな花を咲かせる。
「おお凄い! お見事」
俺は素直に感心し、パチパチと拍手を贈っていた。
「ふふん、女神であるこの私の芸なんて、普通の人間が見れるものじゃないんだから感謝なさい」
芸を終えて、彼女はそう満足げな顔でドヤ顔をする。なかなかフレンドリーな女神様のようだ。
「そういえば、最近アクセルって言う名前の街が出来たらしいわ。まだまだ出来たばかりの駆け出しの街だけど、魔王の本拠地からは一番遠いしこの世界でもかなり安全な場所だと聞いてるわ。そこに送ってあげるわね。それじゃあ魔方陣の中央から出ないように」
「そりゃどうも。女神様」
俺は心遣いに感謝する。
「佐藤正樹さん。あなたをこれから、異世界へと送ります。願わくばあまたの勇者候補の中から、あなたが魔王を打ち倒すことを願っています。さすれば神々からの贈り物として、どんな願いでもかなえて差し上げましょう。ま、こんなところね。さあ旅立ちなさい」
どんな願いでもかなうか。その言葉、後悔するなよ。これから俺は、この全てを見通す眼鏡、別名≪バニルアイ≫を使って他の勇者候補を出し抜いてやる。魔王退治もだ。他の勇者たちが後一歩のところまで追い詰めたところを、こっそりと忍び寄り、止めを刺して報酬と素材を手に入れてやる。それが俺のいつもの手だ。何も問題ない。
俺はそんな邪なことを考えながら明るい光に包まれた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます