着せ替え人形

yuki

第1章 懐かしのメモリア

ーPlat’ye plat’yeー懐かしのメモリア

ーーーーゴロゴロ、ゴローーーー

朝から降り出した雨は午後に入ってから、雷雨となって激しく降り出す。


「ねぇ彩奈、勝手に入ったらさすがにまずいよ。」


「大丈夫だって、あの先生の事だから怒ったりするわけないじゃない。だいたい鍵をかけてない方が悪いのよ」


「だけど……。」


ーーゴロゴロ、ゴローー

ーゴローー


ピカっと眩しい光りが真っ暗な室内を照らした


ーードーンーー、……轟音が室内に鳴り響く


「 きゃー、」


「もう、愛美ったらそういうところだけは、女の子らしいんだから」


「そういうところだけって…。いつも女の子だし。ひどいよ彩奈」


「あら、そうだったの。ごめんね、愛美ちゃん。」


「うー、」


「彩奈、愛美を苛めるのもそのへんにしてあげたら」


「あ、いたんだ。結衣」


「いたんだ…じゃないわよ、さっきからずっとあんた達の後ろにいるから私と久留美も。そうよね久留美」


「うん。」


「久留美もいたのね……。それにしても、この部屋のスイッチどこにあるの。 …愛美ちゃん…早く電気つけてよ」


「もう…子供扱いするのやめてよー、スイッチも探してるからまってよ……」

「…あ、あったよ。」


暗かった部屋が明るくなり、4人の彼女達はホッとした表情を浮かべる


「やっぱり、そういうところだけは手が早いのね。愛美」

「なんでよ、電気つけただけなのにー、…もう彩奈なんて知らない」


彩奈が明るくなった室内を見回すが、難しそうな書物がならんだ本棚と教員用の机。

机の上にパソコンが置いてあるだけの殺風景な部屋だった。


「なんだ、何にもないじゃない…つまらない。」


彩奈が残念がっていると…愛美が本棚の隙間から何かを引っ張りだし彩奈に見せてきた。


「彩奈、これなんだろう…。」


透明なプラスチックでできたケース、中に真っ白い円盤状のソフトが入っている。


「さあ、私に聞かれても分からないわ。」


「なにかの曲、それとも動画が入ってるのかなぁ」

愛美の目が輝いている。ーーオモチャを与えられた子供のようにーー


「まったく愛美は子供ね、どうせ教材用のテキストよ」

彩奈が興味なさそうにケースを愛美から奪い隣にいた結衣に渡した。


「ね、結衣もそう思うでしょ」


そう言って手渡されたケースを結衣は久留美と一緒に見ていた。


「そうね、彩奈のいう通りかもね。ただの教材用テキストだよ」

何気なく手に持ったケースの裏側を見る結衣


「あ、なんか文字かかれてるよ」


ケースの裏側にマジックで字が書いてある


ーーーーPlat’ye plat’yeーーーー


「なんだろう……プラティプラティ?あってるのかな読み方…久留美、これなんて読むか分かる?」

結衣が隣にいた久留美に聞いてみる。…久留美は無言で首を横に振る。

結衣は、彩奈や愛美を見たが2人とも久留美と同じ反応だった……。


「どうする、実は私達の盗撮シーンが入ってたりして……。」

……彩奈が突然変なことを言いだす。


「え、…そうなの?」

久留美が真っ赤な顔をして彩奈に聞き返した


「久留美…、今まで静かだったのに急に喋り始めて…もしかして興味あるの?」

不思議に思った彩奈が久留美に問いかける


「…な、ないよ、そんな事ない。絶対に、うん」


「そう、凄く焦ってるように見えるけど…。」


「気のせい…だから」


「それならいいけど…。まさか久留美がムッツリだったとは。先生と同じね」

彩奈が久留美から少し離れる


「……彩奈、私そんなエッチな子じゃ……。」


ーーーーガチャーーーー


久留美と彩奈が話しをしていると扉が開く音が部屋に響いた…彼女達が一斉にそちらをみる。


「こら!お前ら、人の部屋に入って何やってるんだ」


「あ、ムッツリ先生。…今度の学園歓迎祭で何をすればいいかと思って、たまたま鍵が開いていた先生の部屋で資料探しをさせてもらってます」


彩奈が慌てて状況を説明すると、凄く優しそうな感じの教師は彩奈をみる


「ああ、そうかそれならしょうがないな。……それでムッツリってどういう事かな……立花?」


「私、ムッツリなんて言いましたか?」


「言ってたぞ。…俺にははっきりと立花が喋ったのが聞こえたが?」

優しそうな教師は少し表情を険しくさせて彩奈に問いただす。


「それは……。先生、これはなんですか?」

険しい表情の教師を目の前に焦った彩奈は結衣から渡されたケースを見せた。


「そ、それは。…立花、それをどこで見つけた。」

ーかなり動揺をしている教師


「そこの本棚です。そうだよね愛美?」


「うん。」

愛美が頷くが、彩奈は正直驚いていた。


ーー先生があそこまで動揺するなんて…やっぱり盗撮?

ーーでも、それだったら正直残念だ。先生って案外、私のお気に入りなのに色々。


「先生かなり動揺してますけど、これはやっぱり動画ですか?」

彩奈はそうであってほしくないと願いつつ教師に聞いた。愛美達3人は黙って私と先生のやり取りを見ている。


ー少しの間、静かな時間がながれる


「そうだよ」

先生が重苦しそうに口を開いた


「…やっぱり、でもどうしてそんな事!」

彩奈が口を荒げて教師に問いかける


「どうしてって…必要だったから。」


「必要って。そんなに我慢出来なかったんですか!」


「……我慢?なんの我慢だ。だいたい立花、なんで声が荒いんだ。」


「え、それを生徒に言わせる気ですか?先生」


「…………?」


立花が言っている事と自分が言っている事の食い違いに気づいた教師は彩奈に確認してみる


「…立花、お前これをなんの動画だと思ってる?」

先生から真顔で聞かれた彩奈は少し戸惑いながら答えた


「……私達の盗撮動画ですよね」

彩奈が言うとまた少し静寂が訪れた。


「……立花、お前授業中いつもそんな事ばかり考えてるのか…俺は悲しいぞ」

教師はうなだれる。ー赤面する彩奈


「…違います考えてませんそんな事。だったら、この裏に書かれた文字は何ですか?」

また少し考え込んだ教師は…諦めたのかその場の4人に語り始めた。


「思春期真っ盛りの立花の話しは無視して、お前ら歓迎祭のネタ探しに困ってたんだろ?」


「そうだよ先生。残り1カ月しかないのに何も決まってないから私達。」

教師に勘違いされふてくされている彩奈に代わり結衣が応える。


「この動画を参考にしたらどうだ。この動画は自分達の先輩が作った作品だぞ」


「その動画の内容ってなんですか?」


「1時間ほどの劇になってるな。劇と言ってもミュージカルだけどな。…ただ、出来が良すぎて参考になるかどうかは難しいとこだが」


「是非見て観たいです。お願いします」


「ちょうどここにパソコンもある事だ、しょうがないから今日だけ特別この部屋を使っていいぞ。他の生徒には話すなよ絶対」

教師はそう話すと椅子を4つ用意してパソコンを立ち上げ準備を始めた。


しばらくふてくされていた彩奈だったが一つ聞きたい事があった。……それはケース裏に書かれた文字の意味…。


「先生」

「どうした立花?」

「結局。その文字の意味ってなんですか?」

「あ、悪いな忘れてた。……なんだったかな?」

「まさか、…先生も分からないとか?」

彩奈に冷ややかな目で見られ、教師は言い訳を考えていた。


「…立花、これロシア語なんだよ出演者の生徒にロシア人ハーフの子がいたから……それと、この作品の出演者に立花の1番上のお姉さんも出てるからな」


1番上の姉と聞いた彩奈が急に静かになった…その異変に気付いた教師


ーーしまったな、やっぱり言わない方が良かったか…。

ーーでも、ソフトを見られ言い訳も出来なかったしいつかはこの子にも見てほしかったから…うーん、どうしたものか。


しばらく、目の前の彩奈の様子を見ていた教師


「立花、大丈夫か?」


「……大丈夫です、早く観ませんか。先輩達の作った作品」


ーー少し、ぼーっとしている様にも見えるが大丈夫そうだな


「わかったよ。あと、この文字の意味思い出したぞ、立花」


「どんな意味ですか。先生」



………………「着せ替え人形」………………


教師は彩奈にそう説明すると部屋のカーテンを閉め始めた。

カーテンを閉めながら外を眺める教師は過去の懐かしい記憶を思い出す…。

さっきまでの雷雨がまるで嘘だったかの様に窓の外は眩しい夕陽に包まれていた。






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