プロローグ
「もしもし、パパ。今日の夜空いてる?」
「……いや忙しいのだったら別に今日じゃなくてもいいけどさ。久々にパパと会いたいなぁと思って……だってパパ仕事忙しそうでなかなか会えないから」
「電話じゃダメなの、ゴハンだって一緒にたべたいから」
電話から聞こえてくる相手の応えに彩花は徐々に不機嫌になっていく。
と、そこへ玄関のインターホンが鳴る。
「ゴメンパパ。お客さんが来たからまた後でかけ直すね。」
彩花は、電話を切るとスマホの時計を確認して呟いた。「待ち合わせた時間よりも30分早いけど…」彩花は少し困惑したがスマホをベッドに置き足早に玄関へ向かった。
「さ、入って」
鍵を開けると、彩花は玄関の外に立っている男を促した。男は初めて女性の部屋に案内されたのか、そろそろと入ってくると、部屋の中を珍しそうに見回した。
「あなたが、紹介で来た人?」
男は恥ずかしそうに頷いた。
鍵をかけて、彩花はダイニングキッチンへ上り込んだ。
「今、お茶出しますのでそこに座って待ってもらえますか。色々準備しないといけないので、」
男は頷いままずっと立っている。緊張しているのだろうか、キッチンの扉の前で。
そんなところにいられたら邪魔だ。
「ねぇ、そんなところにたってないでそこに座って」
彩花はついつい言葉に出してしまった。
ーー可哀想に、きっと女性の部屋に入るのが初めてで、緊張しているのだろう。これは後からいっぱいいじめてあげようかしら?少し笑みがこぼれる。
「あ、でもね怖そうな感じの人でなくてよかったです。電話の声だともっと年輩の叔父さんって感じがしたから」
「飲み物、紅茶でいいですか?」
そう言いながら、彩花が冷蔵庫から紅茶を取り出し、後ろを振り向くと、男が背後に立っていた。ジーパンのポケットに手を突っ込んだまま、無表情、そう、なんの感情もないマネキン人形のように立っていた。
「どうかしました?」
「何ですか……」
彩花は、その後の言葉を出そうとしたが、
男のポケットから出された銀色に輝く物に目を奪われ声が出せなかった……。
「どうしたのかしら、彩花」
スマホの通話ボタンを眺めながら風香は眉をひそめる。彩花ったら友達との約束忘れて何やってるのかしら。腕時計を見ると、もう18時30分を過ぎていた。
「私の家に18時集合って言ったのに…」
表から、彩花の部屋に明かりがついてないのを見上げて、あれ、彩花いないのかな。もしかしたらすれ違ちゃったかな。でもそれはないか、私の家から彩花のマンションまで歩いて10分ほどの距離。使う道なんて限られてるし。もしかしたら寝てるのかも、全くいい加減なんだから!
階段を上り、部屋の前まで来て、インターホンを押す。……返事がない。あーしまった、やっぱどこかですれ違ったのかなぁと、慌てて帰ろうとして、念の為ドアノブに手をかけてみた。あれ、開いている。呆れた!
鍵をかけてないなんて。
「彩花、いるー」
ーー耳を澄ましたが、返事どころか、物音すら聞こえない。風香は少しためらったが、
「彩花ー、お邪魔するよー」
風香は断わってから部屋に侵入した。
「うーん、何処にもいない。」
ダイニングキッチン、ベッドルーム。と探したが彩花はいなかった。
夜も、19時を過ぎたのであたりは真っ暗、風香も部屋の電気は全てつけて色々探したのだが彩花がいない。そもそもこのマンション部屋は広いが部屋数が少ないので捜す場所も限られてくる。残すはバスルームのみとなった。
風香はバスルームのドアを開け、脱衣スペースから中の様子を伺ってみた。中から水の流れる音が聞こえる…嫌な予感しかしないが風香は電気をつけ扉を開けた。
「……綺麗。」
数秒だろうか数分だろうか風香はその光景に見惚れてしまった。
友人が浴槽で死んでいるにもかかわらず…
バスルームの中は一面、 白の薔薇の花でおおいつくされ赤く色づけされた水と妙にマッチングし、彩花がとても綺麗にみえた。
あまりも美しすぎて悲鳴を上げるどころではなかった。
ただその後、風香は手で口を押さえとてつもない吐き気に襲われ、外に出て言った。
……何度も吐いてから
「私もう、お肉食べられないかも」
と残念そうな表情をして、スマホに手をかけ 電話をしていた。
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