Int.54:Fの鼓動/稼働テスト02・兵装試験③

『ふっ――――』

 瀬那機の藍色をしたタイプF改・試作二号機の左腕が火を噴き、装甲のカヴァーが外され露出した砲身から、130mm口径のグレネイド弾頭が緩やかな弧を描き飛翔する。

 撃ち放ったグレネイド弾の弾種はAPFSDS。途中で邪魔なサボットを分離し飛んでいくダーツの矢めいた形状のグレネイド弾頭は、瀬那の狙い通りにQJS-1Aの脚部へと命中。背を向けていたソイツの左膝関節を派手に吹き飛ばせば、左脚が千切れたことでバランスを崩し、QJS-1Aが前のめりになって無様に倒れ伏す。

『む、あまり使い勝手の良いものでもなさそうであるな』

 重い左腕の感触に瀬那は小さく顔をしかめつつ、倒れ伏した格好でもがくQJS-1Aの元へと、右腕のアーム・ブレードを展開しながらゆっくり歩み寄る。

『許すがよい、斯様かような末路を辿らせることを』

 そんなQJS-1Aの上にマウントを取るみたく跨がり、腰を膝で押さえ付けつつ固定すれば、瀬那はそう言って右腕のアーム・ブレードを背中に深々と突き刺した。空っぽのコクピットを貫かれたQJS-1Aがだらりと力を失い、沈黙する。

「っと、そっちは片付いちまったか」

 直後、地響きが起こり土煙が上がると共に、上空から飛び降りてきた一真の白いタイプF改が、瀬那機のすぐ背後へと着地した。

『うむ』と、瀬那が頷き返す。『たった今、終わらせた所だ』

「どうだ、瀬那の方は順調か?」

『概ねは。……とはいえ、左腕の物は些か使いづらいようにも思える』

「マジでか?」

『マジで、だ。図体の割に威力もそこそこで、何よりも左腕が重くて仕方ない。其方の場合は、それが特に顕著に出ると私は思うぞ』

「ううむ、俺はまだ試してないからなあ」

『まして、一真の場合はその盾までがある。これは明確な改善すべき点として、クリスに報告すべきやもしれぬな』

 一真はそんな瀬那の言葉に「かもな」と返しつつ、膝立ち状態から機体を立ち上がらせ、くるりと踵を返し瀬那機と背中合わせになる。そうすれば瀬那の方もQJS-1Aの残骸に跨がった格好から立ち上がり、右腕のブレードを格納しながら、やはり背中合わせで一真機とは真逆の方向を向く。

「で、残りはどんなもんだ?」

『フィールド内の反応を見る限り、最後の二機といったところか。其方の方に一機、こちらに一機』

「一機はこっちでも捉えてる。……二人で半分こ、って感じだな」

『心得た。ちゃんと左腕の物も試すのだぞ?』

「分かってるよ、皆まで言わなくても」

 瀬那はふぅ、と呆れっぽく息をつき、一真の方は大袈裟すぎるジェスチャーで肩を竦め。そうしながら二人は示し合わせたワケでもないのに、互いにほぼ同時に地を蹴って走り出した。真逆の、それぞれの向かうべき方向へと向けて。

「まずは――――コイツを試す!!」

『使いにくいなりに、何事にもやりようはあるものよ』

 一真と瀬那、それぞれの機体が左腕を突き出し、カヴァーを解除し130mm口径の砲身を突き出させる。そうすれば瀬那の方はそのまま、一真の方はシールドとの隙間を潜り抜け、左腕の試製18式130mmアーム・グレネイドから弾頭が射出された。

 放たれた弾頭も、同じように眼前のQJS-1Aの右肩で炸裂する。突き抜けた130mmのAPFSDSグレネイド弾頭が肩の関節機構を破壊し、肩部装甲を半ばから千切りつつ右腕を吹き飛ばした。

「確かに使いにくいな、瀬那の言う通りだ!」

 一人ぼやきながら、一真はアーム・グレネイドのカヴァーを閉じ、そして右手をシールドの上部へと這わせる。裏側に格納された柄を握り締め抜き放つのは、試製17式対艦刀だ。

 シールドと擦れ、火花を上げながら派手に抜刀された刃が鈍く光る。片手で扱う、脇差しのような短い刀身の刀だ。形状こそ対艦刀をそのままスケールダウンした感じだが、扱いとしては西洋のサーベル刀剣に近い。

「良い感じだ……。後は、使い勝手を試すッ!!」

 一真機はターボ・スラスタを吹かしたままで眼前のQJS-1Aへと肉薄し、すれ違いざまに右手の17式対艦刀を振るった。確かな手応えを感じながら着地し、地面を削りながら静止すれば。純白の背中の向こう側で、太腿の半ばを両断され、右脚を失ったQJS-1Aが仰向けに倒れ伏す。

「へえ、コイツは中々に優秀じゃないのさ」

 この試製17式対艦刀の使い勝手の良さは、一閃振るっただけでも理解出来た。普段使い慣れた73式対艦刀よりも軽く、扱いやすく。それでいて切れ味は抜群だ。片腕で73式対艦刀を振るった時よりも無理がなく、また短く軽い為に二撃目へと移りやすい。アーム・ブレードやシールドと上手く組み合わせることで、特に集団相手の格闘戦で役に立つだろうと一真は判断した。

「さてと、後はトドメだ」

 満足げに頷きながら、一真は仰向けに倒れたQJS-1Aへと近づき。手の中でくるりと逆手に持ち替えた17式対艦刀の切っ先をそのままQJS-1Aの胸部へと突き立てた。複合装甲を容易く突き破った強化炭素複合繊維の刃はそのままコクピットを破壊し、倒れた無人機をそのまま封殺してしまう。

『こちらも終わった。やはり左腕の代物は使い勝手が悪く思うぞ』

 とすれば、瀬那の方も終わったようで。そんな具合のデータリンク通信が飛んでくる。一真は「俺も同じ感想さ」と苦笑いしながら対艦刀を引き抜くと、付着したオイルを飛ばす為に軽く空を切らせた後、その刃を元通りにシールドの裏側へと収めた。

『はぁい、二人ともお疲れ様ぁ♪ とりあえず、これで評価試験は無事に終了よぉ♪』

 次に聞こえてくるのは、試験終了を告げるクリスの声だ。それを聞いた途端、一真も瀬那も同様に胸を撫で下ろす。小さく息が漏れてしまうのは、きっと何事も無く終わったことへの安堵からだろう。

『でもねぇ、まーだ最後に一つだけ、お楽しみが残ってるのよぉ?』

「お楽しみ?」

『どういうことなのだ、クリスよ』

 んふふ、と奇妙に笑いながら何処か含みを込めたことを言うクリスに、一真と瀬那が二人同時に訊き返す。

『んーと、それはねぇ』

「勿体ぶってないで、早く教えてくれよ。一体全体、何があるってんだ?」

『多分、瀬那ちゃんの方のセンサーは捉えてるんじゃないかしらぁ?』

 クリスが、そんな奇妙なことを言い放った瞬間だった。瀬那の『む? これは……!?』という驚きの声とともに、一真の試作一号機の方のセンサーも新たな動体反応、そしてデータリンクへの接続を確認したのは。

「この反応……EFA-22Exだって!?」

 瞬間、一真と白い≪閃電≫・タイプF改のすぐ傍に大きな機影が飛び降りてくる。立ち上る土煙の中、風に吹かれ段々と晴れていく中から姿を現したのは、一真にとってはあまりに見慣れた機体のシルエット。この複雑な市街地迷彩を、このエッジの効いた流れるように流麗な装甲の描くラインを、まさか一真が見逃すはずもない。

『ちょっとしたサプライズって奴かな、これは。……二人の次のお相手、今度は僕がさせて貰うよ』

 ――――EFA-22Ex≪シュペール・ミラージュ≫。

 欧州連合・フランス空軍のエース・カスタマイズ機。西の彼方、遠く欧州より遙々やって来た、その存在こそが選ばれしエース・パイロットたらしめる証明に他ならない。

『さあ、久し振りのお立ち会いだ。お互い存分に楽しもうじゃないか。……ねぇ、カズマ?』

 そして、それを駆る少女――――エマ・アジャーニはそう、一真の視る網膜投影されたウィンドウの中で、彼に向けて不敵に微笑んでみせた。

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