Int.52:Fの鼓動/稼働テスト02・兵装試験①

 それから暫くして運用実験が終わると、今度は無人のTAMSを標的とした兵装試験へと移る。場所は同じく演習場の市街地フィールドだが、一真と瀬那の二機はクリスの指示に従い、敢えて高いビルの屋上に陣取っていた。丁度、一ヶ月ほど前の期末戦技演習で白井の≪新月≫が狙撃の為に陣取っていた、あの市街地フィールドでも一際高いビルの屋上だ。

『カズマちゃん、瀬那ちゃん。今から標的用の無人機をフィールドに出すわ。戦術モードはテストモードのまま、詳細状況をドローン・コンバットに設定して頂戴』

「ヴァイパー02、了解だぜ。……HTDLC、戦術モード・テストモード。詳細状況をドローン・コンバットに設定」

『03、承知した。こちらも設定する』

 一真が正面コントロール・パネルの液晶モニタに触れ、HTDLC(高度戦術データリンク制御システム)の戦術モード、その詳細状況をドローン・コンバットに設定している間に、瀬那の了承する声もデータリンク通信越しに聞こえてくる。ドローン・コンバットはその名の通り、無人機を標的にした試験の為に設定する状況だ。

『マスターアーム・オン。標的機の総数は六機よ。それぞれ三機ずつ撃墜して頂戴。機首はQJS-1A、肩とかにオレンジのマーカー塗ってあるから、分かりやすいと思うわ』

 クリスの指示に、二人とも復唱しながら火器安全装置であるマスターアーム・スウィッチを安全位置のSAFEから、解除状態のARMへとトグル式スウィッチを指先で弾く。これで全兵装が発砲可能だ。

「標的機か……」

『無人といえ、まだ動くTAMSをみすみす壊してしまうというのは、どうにも気が引けるものよ。そうは思わぬか、一真?』

 瀬那の問いかけに、一真は「全くだ」と肩を竦めながら答える。すると『気にしないで良いのよ』とクリスの声が割って入ってきた。

『どうせ、耐用限界とっくに通り越して退役した機体ですもの。A型は≪神武≫でも初期型の初期型だし、スクラップ前の鉄屑も同然。L型やZ型の部品取りにもならない大昔のデッドストックだから、気にせず撃墜オトしちゃいなさいな』

 QJS-1、国産の名機JS-1≪神武≫を無人化し、標的機とした機体だ。要は廃品利用みたいなもので、特に今回出てくるA型はその名の通りに大戦初期――1970年代に使われていた、最初期型をそのまま無人機に改造したものだ。まさか今更になってA型の標的機とは面食らうが、大方この演習場で埃を被っていた奴だろう。推測通りなら、標的機の使用許可が出たのも頷ける。

 仕組みとしては中々に単純で、コクピット・ブロックに小改造を施し多少の機器を取り付け、無人機化しただけ。予めプログラムした通りの動きか、或いは無線による遠隔操縦も出来る。特に今回の場合は演習場ということで地形データもインストールされているはずだから、恐らくはプログラム動作だろうと一真は推測した。

『フィールド内で適当に歩き回ったり、スラスタ吹かして軽く飛んだりする程度よ。非武装化してあるし、反撃してくることは無いから安心して頂戴♪』

「試験すべきは、概ね三つってワケか」

 そう言うと一真は機体の右腕を軽く動かし、その腕甲部からガシャンとブレードを試すように突き出し展開させた。

 試製18式アーム・ブレードだ。仕組みとしては00式近接格闘短刀をそのまま小型化して内蔵したようなもので、違いといえば刃がダガー・ナイフのような諸刃になっていることぐらい。超音波振動による切断を行うという点でも近接格闘短刀と同じで、対艦刀のように易々と刃こぼれを起こしたり刃が鈍ったりすることはないだろう。

 加えて、左腕甲の試製18式130mmアーム・グレネイドも試す必要がある。これに関しては、93式にアンダー・マウントで取り付ける130mmグレネイド・ランチャーをそのまま短砲身化し組み込んだものだ。故に弾倉も、93式のグレネイド・ランチャーと同じ物を使用する。また頭部の7.62mm口径の機銃も射撃テストはするにはするが、まず間違いなく威力不足で、TAMSを撃墜するまでには至らない。

『じゃあカズマちゃん、瀬那ちゃん。気張って頂戴よっ♪』

「ヴァイパー02、了解。何、いざとなりゃイジェクトするさ」

『ヴァイパー03、こちらも心得た。一真の方が試さねばならぬ物が多かろう。一機は其方に譲る』

「遠慮……と言いたいトコだけど、今回は素直に受け取っておくぜ。悪いな瀬那」

『気にするでない』

 視界の端へ網膜投影される小さなウィンドウの中で、フッと瀬那が微かに笑みを浮かべる。シールドの裏にマウントされた試製17式対艦刀も試さなきゃならない関係で、彼女の申し出は素直にありがたかった。

 一真の白いタイプF改・試作一号機は右手に握る突撃散弾砲を、そして瀬那の藍色をした試作二号機は両手で握る93式20mm突撃機関砲を、それぞれ背部のマウントへと収めた。今は手持ち兵装を試す必要はない。

『それじゃあ二人とも、状況開始。相手は単なるでくの坊よ、くれぐれも壊さないでよねぇ?』

 そんなクリスの言葉とともに、白と藍色の二つの機影は背中のメイン・スラスタを吹かせば、ビルの屋上を蹴って飛び上がる。それぞれの標的へと向かい、差すような日差しが燦々と降り注ぐ背に、空中から襲い掛かっていった。

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