Int.84:ブルー・オン・ブルー/慟哭、深紅はただ終焉を見守ることしか出来ず

「白井……」

 未だに火柱を上げ続ける≪叢雲≫の残骸と、そしてその近くに横たわるボロボロの≪新月≫。その傍に着地した真っ赤なFSA-15Eストライク・ヴァンガードのカメラ・アイ越しにステラが見たのは、≪叢雲≫の残骸近くで膝を突き、打ちひしがれたように頭を地に伏せる、そんな白井の姿だった。

『護れなかった……! 俺が、俺がもっとしっかりしてれば……!』

 音響センサーで拾うまでも無く、白井の嘆きはデータリンク通信からステラの耳にまで聞こえてきてしまう。そんな彼にステラはなんて声を掛けたら良いか分からず、ただその傍に機体を立ち尽くさせるだけしか出来ない。

 やがて、ステラは白井の傍にFSA-15Eストライク・ヴァンガードを膝立ちの格好でしゃがみ込ませ。そうして、白井の方へと機体の掌をそっと伸ばしてみた。

「乗りなさい、白井……。アンタの機体、もう動けないから」

 とりあえず呼びかけてみるが、しかし白井はそれが聞こえていないのか否か、どちらにせよ全くそこから動こうとしなかった。

『俺の、俺のせいで……!』

「…………」

 嘆く白井を、これ以上ステラは見ていられず。しかし眼を逸らすことも出来ないまま、ただそれを見下ろしていた。相棒のカメラ・アイ越しに、炎のように真っ赤なFSA-15Eストライク・ヴァンガードと共に、ただ黙って彼を見守っていた。

『――――無事かい!? ステラ、アキラ!』

『済まぬ、待たせた!』

 そうしていれば、エマの≪シュペール・ミラージュ≫と瀬那の≪閃電≫・タイプFも合流してきて。しかしステラ機の傍に近寄り、今の状況を見れば二人はそれぞれに絶句した顔を浮かべ。エマは唇の端を噛み締めながら悔しげに眼を逸らし、瀬那はただ、至極哀しげに俯いてしまう。

『……ステラ。まどかは』

「…………」

『そっ、か……。そう、なんだね……」

 ステラの沈黙を、即ちそういう意味だと暗黙の内に悟ったエマは、瞼を軽く閉じながらまた軽く顔を逸らした。無意識の内にその手を胸元へ寄せて、パイロット・スーツの中で首から提げる、小さな金のロザリオに触れさせながら。

『…………くっ!』

 すると、瀬那は耐えきれなくなったのか。軽い声を漏らしながら顔を逸らすとともに、また藍色の≪閃電≫・タイプFにも、白井に背を向けてしまう。この現実とこの光景は、瀬那にはあまりにも重すぎる光景だったのだ。

 直視できないという気持ちは、ステラにも、そしてエマにもよく分かる。分かるからこそ、二人ともそんな瀬那の行動を責めはしなかった。寧ろそういうことが出来るだけ、まだ理性を保てていると思ったぐらいだ。

『……もうすぐ、戦いは終わる。救援が、もう到着する手筈だから……』

「……救援?」

 妙なことを言い出すエマにステラが訊き返すと、エマは『うん』と頷いて、

『此処に来る前、教官が言ってたんだ。援軍を要請したから、もうすぐ来るって……』

「そう、なのね……」

 どんよりと重く沈んだ空気の中、しかしそんな言葉を交わしていれば、ステラたちは迫る重い飛翔音に気が付いた。

「あれは……」

 センサーに反応があり、そしてデータリンク・システムにも接続してきたその機影は、国防空軍の大型輸送機だった。

 遙か上空を飛び往くソレは、C-5JM"スーパー・ギャラクシー"大型輸送機。世界トップクラスの大きさとキャビン容量で、完全武装したTAMS四機を分解無しで一気に空輸出来る能力を持つ機体だ。

「まさか、アレが救援……?」

 それを仰ぎながら、ステラが呟けば。するとエマが『かもね』と頷いてくる。

 やがて、空を飛ぶC-5JMの後部ハッチが開き。そうすれば四つの黒い機影が飛び出し、やがて空中に小さなパラシュートの華を咲かせた。

「……何よ、あの黒いTAMS」

 そんな光景を仰ぐステラたちが見たのは――――まるで見覚えの無い、真っ黒な機影のTAMSたちだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る