Int.24:期末戦技演習/六刀、交えし剣は各々が誇りと共に①

 そして――――遂に、期末戦技演習のその日が訪れた。

 嵐山演習場・整備区画。雲一つ無い晴天の下、そこにズラリと並べられた大量の73式TAMS前線輸送トレーラーの中に、横たわる純白の機影が一つ。荷台ハンガーに横たわるそのJS-17F≪閃電≫・タイプFの乗降ハッチから飛び込むと、一真は国防軍85式パイロット・スーツに包まれたその身体をコクピット・シートに滑り込ませた。

「さて、と……」

 シートとパイロット・スーツの非接触式コネクタとが同期し、ヘッド・ギアから各種情報が視界の中へ正常に網膜投影されるのを確認すると、一真は小さく息をついて機体の起動作業を手早く進めていく。

 正面のコントロール・パネルや各種計器類に光が灯り、続いて周囲を囲む半天周型シームレス・モニタが息を吹き返す。"SENDEN-TYPE F"の文字がメーカーロゴと共に一瞬だけ浮かび上がれば、真っ白だったシームレス・モニタに映るのは≪閃電≫の外部カメラが捉えた外界の映像だ。

 横たわる機体の頭部カメラ・アイが映し出す頭上の蒼穹を一瞥してから、一真はコントロール・パネルの液晶モニタやサイド・パネルのトグル・スウィッチを弾きつつ、起動動作を継続させていく。

 HTDLC(高度戦術データリンク制御システム)は通常通り訓練用の戦術モード・プラクティスで外部とのデータリンクを開始させた。同時に機体コンディションの自己診断も実施させ、各部に異常が無いかを簡易的にだが確認する。

「起動手順、フェイズ60まで全て完了。セルフ・チェックも問題なし。コンディション・オールグリーン、いつでもいける」

『了解だ、デッキ起こすぜ』

 整備クルーの声が通信越しに聞こえてくれば、機体を寝かせ固定するトレーラーの荷台デッキが油圧仕掛けで起き上がる。八十度近い角度まで起き上がれば、感覚的には直立しているのと変わらない。

『こっ、こちらはCPコマンド・ポストですっ。一真さん、聞こえますかぁ?』

「その声、まさか美弥か?」

 すると、唐突にデータリンク通信に聞こえてきたのは、聞き慣れた甲高い少女の声だった。『はいっ!』と元気よくそのオペレータ――――美弥が返事をすれば、一真の視界の端にも彼女の顔が網膜投影される。いつもの制服を着た美弥は、チラリと見える背景から察するにどうやら演習場の管制センターに詰めているようだ。

『今回の期末戦技演習、一真さんたちは私がCPを担当することになりましたっ』

「美弥の試験も兼ねて、ってワケか」

『そういうことですね。――――っと、余計な話をしている場合ではありませんね。今から一真さんのコールサインは"ストーム01"、及び"ストーム・リーダー"となります。要は、分隊の指揮官役ですね』

「分隊長? 俺がか?」

『はいっ』視界の端で、頷く美弥。『西條教官の割り振りで、こんな感じになりました』

「へえ……? ちなみに、後の二人は?」

『えーと、"ストーム02"がエマさん、"ストーム03"が霧香さんですね』

「エマと、それに霧香か……」

 ――――ん? 待てよ、エマだって?

「ちょっと待て、美弥」

 そこに何故、C組であるはずのエマの名があるのか。怪訝に思った一真が「なんで、エマが俺たちのトコに居る?」と美弥に問えば、彼女は『はいっ』とまた頷いて、

『なんでも、冠島でのサヴァイヴァル訓練の関係らしいですね。既にC組は出発してしまっているので、訓練をエマさんがこちらで参加する都合上、戦技演習もA組の中で行ってしまおうということらしいです』

「なるほどね、そういうことか」

 美弥の説明で一応の納得を得た一真は、コクピットの中で腕を組みながらうんうんと頷く。確かにそういうことなら、エマがA組の戦技演習に参加していても不自然はない。

『えーと、ストーム分隊は各機兵装を受領後、市街地フィールドに向かってくださいっ。兵装選択は自由で、一応試射は行いますが、ペイント弾であることを確認してください』

「分かった、ストーム01了解だ。ハンガーの固定アームを解除する。CP、許可を」

『了解ですっ。ストーム01、固定具の解放を許可しますっ。解除タイミングはストーム01に委譲ですっ!』

 その言葉が聞こえた途端、一真は≪閃電≫を縛っていた荷台の固定アームを解除させた。

 白き鋼の巨人が、その脚で大地に降り立つ。嵐山演習場の母なる大地をその鋼鉄の足で踏みしめながら、≪閃電≫は今一度この地に立った。

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