第二夜

ダイヤル、回す

 子どもというのはいたずら好きだ。

 分別が付いていないことを免罪符にするつもりはないが、幼少期の私は、いま以上に愚かだった。

 おおよそ娯楽と呼べるものを与えられなかった私にとって、目につくものはなんでも玩具になりえた。

 とくに機械的なものを目にすると、居ても立っても居られない性質が私にはあった。

 電話は、そんな私の知的好奇心を富に付け刺激したものだ。

 当時の電話というのは黒電話と呼ばれるものだった。

 ダイヤルを回すだけで見えもしない誰かと会話できるというその機械は、私にとって奇跡の産物のように思えたし、摩訶不思議な魅力を有していた。

 あるとき、私は一人、家でお留守番をすることになった。

 こらえ性のない子どもであった私は、すぐに暇を持て余してしまい、なにか遊びはないかと思案に暮れた。

 そんなとき目についたのが、黒電話だった。

 ふと、こんなこと思った。

 好きな番号を回したのなら、いったい誰の声が聴けるのだろうかと。

 悪ガキの発想だ。

 でも、思いついてしまったら、もう歯止めはきかなかった。

 私はめちゃくちゃな番号を、次々にダイヤルし、至る処へと電話を掛けた。

 多くの場合はこの番号は使われていませんか、あるいは呼び出し音が鳴り続けるだけだ。

 時には〝当たり〟を引き当てて、みしらぬ大人につながることもあった。

 そんなときは、即座に切ってしまう。

 どれぐらい遊んだだろうか、日が傾くまで電話をかけ続けた私は、すっかり満足していた。

 これで最後にしようと、また適当にダイヤルを回すべく、受話器に手をかけたときである。


 ジリリリリリリン!


 ──電話のベルが、とつぜん鳴った。

 飛び上がらんばかりに私は驚いたが、両親から、電話がかかってきたらきっちり応対するようにと仰せつかっていたため、おっかなびっくりながら、受話器を取った。

 無音。

 なにも聞こえてこない。

 ああ、そうか、自分から言わないといけないんだと思いだして


「もしもし……?」


 と、私はつぶやいた。


『────?』


 ガチャンと、私はたたきつけるようにして、受話器を置いていた。

 冷や汗が噴出し、体は恐怖に震えた。

 なぜなら、受話器の向こうの人物は、私に向かってこう言ったのである。

 次は、



『次は──わたしのところに、かけてきてね……?』



 以上が、ちょっとした実話怪談の、ひとつである。

 いたずらもほどほどにという、そんな教訓譚──


 第二夜 ダイヤル、回す

 今宵はここまで──

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