第24話 ただいま!

 十日から二週間程度の旅を想定していたが、3日目の昼過ぎまでにボスキャラ3体を味方にして帰路につくことになった。帰りはもちろん、フェイスの転移で一瞬だ。


 第6層の淀みのそばに現れたコイルたちを、負傷して待機中の魔獣たちが出迎える。

 留守中は大きな事件もなかったようで、ケガをしながらも表情は明るかった。


「お、マスター、早かったじゃないか」


 腕と足に切り傷を作ったマイが陽気に手を振っている。ドローバックではなく、対戦にはしっかり勝って帰ってきたらしい。第4層の闘技場が再開されてからまだ数日だが、休んでいた間に冒険者ギルドと岡山村領主の間で話し合いがもたれ、現在のダンジョンの形を維持することが望ましいという結論を得た。

 その結果を反映して、第4層を突破しようという冒険者は減り、氷狼を中心としたダンジョン防衛チームは戦える場面を求めて、闘技場に交代で現れるようになった。

 そのためダンジョンの魔獣の数自体は減ったが、試合数は増えることになって、今日も盛り上がったようだ。


 第6層である鍾乳洞から、第5層に出ると、花園の奥で前まではダンジョンの境界で遮られていた岩だらけの崖を、10体の氷狼が駆けまわっていた。崖の上には仁王立ちしたエリカが怒鳴り声をあげている。


「おらおらおら。さっさと上がって来いやー。この(ピーーーーー)」


 手に持ったマイクからハウリングが起きたようだ。

 エリカの声に鞭打たれるように、飛ぶほどの勢いで崖を駆け上がる氷狼達。コイルが20分かけて登った崖を、ほんの1、2分で登りきる。エリカに鍛えられて、スピードも動きの切れも、このほんの3日で上昇したようだ。「鍛える」という考えが今まで一部の魔獣たち以外にあまり無かったからかもしれない。


「(ピーーーーーーー)(ピーーーーー)」


 ハウリングが酷い。


「エーーーリーーーカーーー!帰ってきたよーーー!」


 リーファンの叫び声に、エリカがこちらを向いた。そして、今までの鬼の形相を一変してにっこり笑うと、ひょいひょいと崖をなんともない風に気軽に下って、コイルたちの元に来た。フェンリルたちも隊列を組んで走ってきて、エリカが来るより先に一列に並んでいる。


「早かったな、リーファン、コイル。そちらが?」


「えっへん。俺様が龍王だ。お前が人間のくせにマスターの友達だとは聞いている。よろしくな」


 胸をグイっとそらせて言った後、ところで、なかなかいい崖じゃないかーとフラフラと飛んで行った龍王は、崖の上で龍の姿に戻ると地面にガンと長い尾を打ちつけた。すると、魔法なのか他の力なのか、地面にできた割れ目から水があふれだし、滝となって崖の斜面を流れ落ちた。見る見るうちに崖の下のくぼみに水が溜まり、滝壺となった。滝壺から溢れ出す水が花園の方へ行くのではないかとドキドキしながら見ていたが、幸い斜面に沿って鍾乳洞と反対の方に流れて行った。


「第4層の端を通り、第3層の湿地に流れ込みました。石の多いところを通っていますので、元々ダンジョンが出来る以前には川だったルートだと思われます。」


 フェイスがダンジョン内を確認して教えてくれた。

 心配して水の行き先を追っていた面々を気にもせず、滝壺の中で、龍王がのんびり水浴びをしている。もしかしたら、自由奔放さにおいてコイルを超えたかもしれない。


 マツとウラも、それぞれに気に入った場所を探しに、ダンジョン内を歩き始めた。

 夜になれば冒険者の数も減る平和なダンジョンの中で、新しく入った魔獣たちの歓迎会が開かれるのだろうか。第6層に、ずいぶん沢山の酒や食料が備蓄されているのを見て、そういえば、近いうちに青狸がどう変化しているのか、見せてもらわなければなあと思う。

 それはまた、いずれ近いうちに。

 今日のところは旅を共にした秋瞑、天花、残雪と別れ、コイルたちはデルフ村の家に転送してもらった。




 転送ポイントはコイルの部屋だが、狭すぎてポックルとラオウは外に送られた。微妙に転送先を調整できるのは、コイルたちと一緒に、フェイスがついて来たからだ。


「自由に動ける身体も出来ましたので、これから秘書として、マスター・コイルの側に居ようと思います」


「それは助かる」と頷くミノルとコイル、対して少し不満げに唸るルフ。安定の無表情でまっすぐ立つフェイス。にこにこ笑いながら肩を組んでくるリーファンと、そんなリーファンを見つめるエリカ。

 ドアを開けて階段を駆け下りれば、リビングで夕食中の棟梁とケンジとレイガンが目を丸くして出迎えてくれる。キッチンには棟梁のおかみさんが立って、コイルたちに夕食を出そうと、鍋を温め始めた。


 話したいことがいっぱいある。旅で出会った変わり者の魔獣たち。美しい森、歩きにくい山道。天変地異を起こしながらジャンケンで戦う少年の事とか超話したい。そうそう、フェイスの紹介もしなければ。

 けれども、まずは、なにはさておき。

 コイルは大声で叫んだ。


「ただいま!」

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