第8話 ようやく野営も終わり
完成予想図が仕上がって、棟梁とケンジとレイガンは作業を始めた。
家は基礎部分(根っこ)が出来ていて、柱も立ち上がっている状態なので、そこからの作業は結構早いらしい。
コイルは食事と、休憩のお茶の準備の他は、倉庫から魔動耕うん機を持ち出して畑を耕したり、ポックルに乗って乗馬の練習をしたりして過ごしている。畑は順調に大きくなりつつあるので、次回の買い出しで種を買うのが楽しみだ。
畑の一部は果樹園にしようと思っている。と言っても、デルフの木の性質で、背の高い木は育たないので、選択肢は限られるが。森のあちらこちらで茂っているキイチゴの仲間はちょうど収穫の季節で、色とりどりの実をつけている。丈夫なので、枝を切って挿し木してみよう。泉の傍のキイチゴは、もしかしたら魔木ベリーかもしれない。元々あった淀みが無くなっているので、そのうち魔木ベリーの特性が無くなって普通のキイチゴになってしまうかもしれないが、コイルが魔力を与えて育てたらもしかして……。
そんなことを考えるのも楽しい。
ポックルとの乗馬は、順調だ。というか、背の低いロバで、しかも温厚で暴れないポックルは、コイルが乗ってもいつもと変わらず、のんびり歩いているだけだ。たいして揺れないし、落ちようがない。
乗馬の練習になっているかどうかは不明である。
作業を始めて2日も経てば、家の1階部分の床と壁が出来上がった。
7角形の部屋は、大きな窓もいくつも開いていて、ガラス窓は後日持ち込むらしく、今は外からの光と風が気持ちいい。
広々としたリビングの真ん中には、腰丈の壁で囲まれた4畳半ほどのスペースがある。一か所穴が開いていて、そこから地面に向かって階段が伸びている。このツリーハウスの正面玄関だ。普段は開けっ放しだが、床をスライドさせて閉めることも出来る。
天井はデルフの木の一番上まで吹き抜けだ。ベッドルームになる予定の二階はまだ何も作業が始まっていないので、太くて丈夫な枝ぶりと、その間から天井が見えるのも今だけで、また面白い。
「わあ!……すご」
「やったね。これでやっと、テント生活から脱却だ」
「どうだ?まだ作りかけだが」
「凄いです。ありがとう!あっという間に、ここまでできるって!さすが!」
「まだまだ、これからだ」
「コイルが喜んでくれて、嬉しいよ」
「だねー。俺もうれしい。今日からベッドで寝れるー」
そう。広いリビングには5台のベッドが置いてある。
レイガンは家具などの細かい作業が得意らしく、棟梁とケンジが床をガンガン打ち付けていた時に、コツコツ箱型のベッドを作っていたのだ。
木材と一緒に運んできたマットレスもセットされている。
「本当は森の木の家と言えば干し草のベッドじゃないかって思ったんだけど、それはほら、コイルがこれから試してみたらいいよね。俺は程よい硬さのマットレスが好きー」
「おいおい、勝手に俺たちがベッドを使ったら……」
「あ、良いよ。自分の以外は元々来客用のベッドだし、床で寝てとか言わないよ」
「さっすがコイル、太っ腹ー。今日の晩飯は何?」
「……ケンジは少し遠慮してください」
「ふふっ。今日は、カレーです!塩漬け肉を早く食べ終わらないといけないからね。肉たっぷりカレーとご飯にするよ」
「よっし!」
ガッツポーズで喜ぶケンジ。に拳骨を落とすレイガン。
「子どもじゃないんですから」
ギッギッギッ
出来立ての階段を誰かが上ってくる音がした。
階段からひょっこり顔を出す。
「あっ!ミノルさん!」
「ただいま、コイル。おお、これは凄いな!」
両手にお土産を山ほど抱えて、ミノルが帰ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます