第10話 山田村
コイルの旅は順調に、ゆっくりペースで進み、カンサーイを出発してから10日目に、山田村に到着した。
山田村は岡山村と並んで、建国当初からある、村と名乗れどもかなり大きな町だ。そばにダンジョンを持っているので、経済的に有利だし、山田村のダンジョンは洞窟型で、鉱山の一部でもあり、魔鉱石が取れることでも有名だ。
魔鉱石は天然の鉄や金銀銅などの鉱物が地中深くの淀みの中で圧力をかけられて魔力を帯びたもので、地殻変動などで地表近くに持ち上がったものがこの山田村近くの「魔鉄の洞窟」だ。
山田村の商店街には、この魔鉄を使った武器や道具がたくさんあり、それを目当ての冒険者も多く訪れる。
せっかくなので、コイルも何軒か店を覗いてみて、渋い色の魔鉄を車輪の形に加工し、中心に赤い魔石をはめ込んだペンダントを買った。
裏のボタンを押すと、1日に一時間だけだが、空気中の魔力を集め、魔法を増強してくれると、説明された。どのくらい増強してくれるかは、「んー、その時の運しだいですよね。空気中に魔力、どれくらいあるかにもよりますし」という店員の言葉からして、さほどの効果は期待できないだろう。
「これの優れた点は、魔力を集める機能に限定した道具なので、中心の魔石も周りの魔鉄もずっと使えるんですよ。お買い得ですよ」
お買い得という言葉に、この旅の間何度踊らされてきただろう。だがコイルは心のままに、お買い得商品を買ってしまうのだった。
山田村は大きいので、冒険者ギルドの支部がある。
道中、いくつかの魔物を倒して拾った魔石をギルドで売り、無駄遣いで軽くなった財布を少し補填しようと、依頼掲示板を見ていると、声をかけられた。
「よう、にいちゃん、冒険者かい?」
お前がニイチャンだろうと言いたくなるような、チャラチャラした格好の30前くらいの男だった。
普通だったら、何しに来たんだと怪しむところだが、コイルの場合、ギフトの効果であからさまな悪意があると側によるほど具合が悪くなるということがあるので、チャラいニイチャンに悪意はないらしい。
「そうですけど?」
「よかったー。ねえねえ、俺と一緒に、冒険しない?」
「……ぼく、男ですけど」
「分かってるってー。にいちゃんって呼んだだろう?」
「いや、そっちの……」
「違うって。いやいや、冒険者だろ?依頼探してんじゃねえの?きっとソロだよね?そんな感じだもん。俺もソロなの!」
「はあ」
とにかく、悪意はなさそうなのでギルドの茶屋に行って山田村名物の山田饅頭を食べながら話すことにした。
「俺のギフトがさあ、あ、これ内緒ね。「引きが強い」ってのなんだけど、にいちゃん見たとたんに、ピリピリってきたのよ。ここだー!みたいな?」
どうやら、前世でギャンブルにはまって、良い結果が残せなかったらしい。
今世はギフトのおかげで、A店とB店、どっちが安いかな?うーん、B店だ!と思って店に入ったら、A店の武器より同じものが1000円安かったとか、このリンゴとこのリンゴ、どっちが甘いかな?うーん、こっちだ!
と選んだリンゴを、取りあえず両方買って味見して、やっぱり選んだほうが甘かった!と確認してはささやかな幸せを得ているのだとか。
うん。お兄さん、馬鹿だね。
でも幸せそうに笑いながら話すので、それもアリかなと思うコイルだった。
美味しい山田饅頭も食べたことだし、お兄さんは良い奴らしいので、一つくらい一緒に冒険するかと、もう一度ギルド掲示板に戻った。
「僕、コイル。よろしく」
「あ、俺はリーファン。B級だよ」
ちょっと驚いた。B級といえば、この規模の町でもあまりいない一流冒険者だ。
「えっと、僕まだE級なんですけど」
「いいっていいって。ははは。おやじギャグじゃないよー」
一人で笑ってるリーファンに、こいつに敬語はいらないねと思うコイルであった。
「俺のギフトって、人に反応すること少ないんだよ。今日みたいにピリピリ引きつるような感じがあるときは、絶対組むと良いことがあるの。級とかかんけーねーって」
「あんまり難しい依頼選ばないでくださいね。リーファン」
「おうよ。任せとけって、コイル」
その時だった!冒険者ギルドの屋上から、カンカンカンとけたたましい鐘の音が響いてきた。
突然の出来事に呆然とするコイルを、リーファンが素早く壁際の人が少ない場所に引き寄せる。
窓口できれいなお姉さんがキッと眉を寄せて、マイクに向かって叫んでいる。
「緊急事態発生、緊急事態発生。ダンジョンが崩壊しました。ダンジョン、魔鉄の洞窟が崩壊し、中の魔物が街道にあふれました。魔物の半数以上は、この町に向かっています。冒険者の皆さんは至急正門前にて迎え撃つ準備をしてください。繰り返します。魔物はこの町に向かっています。町の外に逃げ場はありません。迎え撃つ準備をしてください」
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