第105話 認める訳にはいかない
あれからオレたちの行動は早かった。
体勢を整え、十分な戦備えをし、殴り込む。
その為に必要な行動を最短ルートで辿っていた。
皆思うところがあるのか、動きに一切の迷いがない。
「アルフ、買ってきたぞ。武器と魔道具だ。買える範囲内ではこれくらいだ」
「すまん。ロングソードに、魔力ブーストのブレスレット2点、アンクレットか。足のヤツはお前にやる、着けておけ」
「助かる。では私も準備してくる」
エレナは自室へと戻っていった。
とっておきのフル装備をする気だろう。
針ネズミのようなごっつい剣士姿が見られるかもしれない。
「アシュリー、やつらの居所はわかったか?」
「クヒ、もう目星はついてるだよ、やっこさんらはゴルディナの北の森に住んでるハズだべ」
「お、おう。仕事が早くて助かる」
「クヒ、あいつら許さねぇだ。こんな事もあるど思っでこさえた薬で、ギッタンギッタンにしてやんべ。クヒヒ」
コイツ本気でキレると口調が怪しくなんだな。
つうかその液体は大丈夫なヤツか?
洗ってない水槽と同じ色してんぞ。
それ本当に有事の備えに作ったんだよな?
「おとさん、またおしごと?」
「……そうだ。ちょっとやり残しがあったみたいでな」
「あぶなくない? たいへんじゃない?」
「あぁ、ほんとにオマケみたいな仕事だ。すぐに帰ってくるよ」
「やくそくなの。ぜったいなの」
「もちろん、約束だ。お守りもあるし大丈夫さ」
オレはシルヴィアたちから貰ったプレゼントを見せつつ、誓った。
果たす自信のない約束を。
それでも父親たるもの、一度交わしたのであれば反古(ほご)にはできない。
「アルフ、待たせた。いつでも行けるぞ」
「エレナは完了っと。もっと重装備かと思ったが、割といつも通りだな」
「扱いなれていないモノを見せびらかしても仕方あるまい。手に馴染んだ一本があればいい」
エレナが腰に刺さった愛剣をポンと叩いた。
すると相棒の求めに応えるかのように、カチャリと鳴った。
アシュリーはというと石のはまった手甲をつけ、腰には皮袋を下げている。
目は座っていて、口許だけを歪ませながら。
怖い。
それにしても、あれだけ絶望的な戦力差を見せつけられて、怖じ気づかないんだな。
そこでふと、昨晩の記憶が甦った。
ーーおめでとう。キミは【騎士の誓い】を手に入れたよ。仲間が苦境に陥ると、力と連帯意識が大幅に強化されるよ。
どうやら転びそうになったエレナを助けたから、らしい。
何きっかけで加護が手に入るかわからねぇよな。
この二人の行動も加護のおかげなのか、元々の仲間意識なのかわからない。
それでも、勝てる保証の無い戦い参戦してくれる事は、素直に嬉しかった。
「ワン公、出てこい!」
外に出たオレたちは、出立前に最後の命令を下した。
いつも通りにグレートウルフ・ロードは直ぐに呼び出しに応じた。
「我が主、なんなりとご命令を」
「これから大狐の住処へと向かう、狼どもはこの家の守備をさせろ。お前はオレに付いてこい」
「おぉ、とうとうあの狐どもを征伐なさるお積もりで?」
「目的はさらわれたリタの救出だ。それ以上の事は考えていない。現地ではオレの指示に従え!」
「御意、主の命に従います」
「よし、では行くぞ!」
思い返してみればアシュリーの時もそうだった。
誰一人欠けることなく、ずっと一緒に。
リタは全てを理解して身を捧げたんだろうが、それは許されない。
お前だけが例外だなんて、絶対に認めないからな!
オレたちは一切の迷いを捨てて、大狐の森へと向かった。
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