第61話 拳と友情
花の神との会合の翌日、オレ達は森の中にある神秘の湖という場所に向かった。
街を結ぶ街道から外れて小道を歩き、森にはいる。
小道を道なりに行くと、広大な湖に着いた。
一言で言うと、それは眩い湖。
水底の小石がキラキラと輝き、水面の照り返しと相まって、湖全体が輝いているように見える。
水質も相当良いようで、水中には多くの種類の魚が繁殖し、森の動物も頻繁に水を飲みにやって来る。
森の楽園というやつなのかもしれない。
湖に着くと、二人の男が出迎えてくれた。
「よーぅこそ、我らが美しき森と神秘の湖へ!賓客としてだぁい歓迎するぜぃ!」
「・・・・・・ようこそ。」
異様に暑苦しいムッキムキの男と、長髪で顔すら見えない異常に無口な男だ。
思わず回れ右したくなるが、この綺麗な湖には興味あるんだよな。
「なぁ、子供達を湖で遊ばせてもいいか?」
「おぅ!ジャァンジャン遊んでってくれぃ!」
「その語尾はちょっと・・・いえ、何でもないわ。」
珍しくリタが拒否反応を示している。
何回も聞いてるとキツイものがあるよな。
そんなやりとりはあったものの、子供達の順応は早いもんで。
水中の小石を拾ってみたり、魚に触ろうとしてみたり、水飲みに来たウサギと遊ぼうとして逃げられたり。
何もないこの場所でもキチンと遊んでるな。
ふと、エレナが何かに気づいて声を上げた。
「珍しいな、こんなところでスカッチェスを見かけるとは。」
「おぅ、ネーチャン見つけるねぇ!こっちの国じゃショーギっていう呼び名の、オレっちの趣味だぜぃ?」
「ショーギとやらは知らんが、似たようなものでスカッチェスというものがあってな。私も昔はよく遊んだものだ。」
「ネーチャン勝負しないかぃ?お互いのプライドをかけた大勝負をよ!」
「!・・・いいのか?」
なぜそこでオレに聞く。
勝手にやれば良いだろ。
そのショーギといわれる平たい木盤にオレは目をやった。
盤上に細かい線が交差していて、丁度良いサイズの木製の駒のようなものがたくさん並んでいる。
駒はよく見ると造形に微妙な違いがあり、役目やらが色々違うのだとか。
二人は駒を弄りながらルールのすり合わせをし始めた。
国が違えば中身も違うんだとか。
「よし、馴染みのないルールはあるが概ね問題ない。すぐにでもできるが?」
「オレっちもいつでもいいぜぃ?やるかっ?」
ドカッと腰を降ろした湖の神。
対照的に長剣を外して脇に置き、静かに座るエレナ。
ショーギ盤を前に無言のぶつかり合いが続く。
差し合いの前に既に勝負は始まっているのかもしれない。
「なぁアンちゃん!悪ぃが開始の合図だけくんねぇかぃ?」
「オレかよ。」
勝手に始めりゃ良いのに。
まぁ断るのも面倒か。
「はぃ、じゃあ勝負始め。」
「ファストストレイトー!」
「ホワイトスラァッシュ!!!」
バキィッ!
ドガッ!
バタリ。
はぁ?
一体なにやってんだ、こいつら?
「解説のグレン、これをどう見る?」
「どう見るって。突然二人が殴りあってお互いに倒れた、としか。」
「リタ、とりあえず回復してやれ。」
「はいはい、全くなにやってんのかしら。」
呆れ顔で回復魔法をかけるリタ。
意識を取り戻した二人は大きな声で笑った。
「HA HA HA!こんな強ぇネーチャンは初めて見たぜぇ!」
「いやいや、湖の神も強かったぞ。これは私の敗けだろうな。」
「へっ、よせやぃ。オレっちも自分が敗けたって思ってんだよ。」
「では、引き分けということで・・・」
「決着はまた今度だぜぃ!」
熱く握手を結ぶ漢二人。
いや漢と漢女か?
まぁどうでもいい。
「お前ら、さっきまでやたらと駒使って話合ってたろう。それは使わねぇのかよ?」
「いや使うぞ。今回は使わなかったが。」
「素人さんにはわかんねぇだろうが、これも歴としたルール内の取り組みだぜぃ?」
基本的には駒で勝敗をつけるが、勝負中に一度だけ相手に直接物理攻撃ができるらしい。
なんだそのアホルール!
「・・・・・・湖の神は、下手なくせによくやる。」
ボソリと森の神が囁く。
お前いたのかよ。
「お前はやりあったことあるのか?」
「・・・・・・ある、無敗。」
「ってことはやっぱり駒使って勝ったのか?」
「?・・・・・・いや、拳で。」
そ、そうか。
人と神は見かけによらんな。
こんなワケわからん事やってうちに、時間は過ぎていった。
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