第45話  その日が来るまでは

2日目

 目が覚めてから、昨夜の出来事を現実だと実感する。

 希望のない心境がこんなにも息苦しいとは思わなかった。

 当然のように朝食はない。

 草を引っこ抜いて、その根をかじって凌いだ。

 事あるごとに目障りな水晶を向けてくる。

 その理由を知ってからは尚更気に食わない。


 昨日と同じように戦闘をさせられた。

 さすがに昨日と同じ目には合わなかったが、やはり怪我はする。

 結局今日も4回治療を受けて、食事にはありつけない。

 なんとか木の実を少しだけ見つて、それを食べる。

 腹が減って眠れない。

 小川の水を何度も飲みに行く。



3日目

 身体の節々が痛む。

 栄養があまりにも足りないせいか、頭が全く回らなかった。

 話しかけられても音のようにしか感じられず、脳に言葉が入ってこない。

 無視をするなと騎士に蹴られる。

 痛みとか屈辱はもうどうでもいい。

 ただ空腹をなんとかしたい。


 当然のように戦闘をさせられた。

 手傷を負いながらもなんとか倒す。

 相変わらず治療で金が消える。

 治療回数が4回になると、その日は戦闘が切り上げられる。

 オレに早く死なれても困るらしい。

 せっかく旅で貰える公費も、オレが居ないともらえないかららしい。

 どこまでもクソのような奴らだ。


 夜に、オレは運良く果実の実った木を見つけた。

 野生の物なので味はイマイチだったが、天の恵みだと思った。

 取り憑かれたように6つを完食。

 あいつらにばれないよう、砕いた果実を服の中に隠しいれた。

 これがバレたら何をされるかわかったもんじゃない。


4日目

 空腹感が多少和らいだ。

 おかげで少し頭がまわるようになった。

 今は次の街へ移動中で、明日の暮れには着くらしい。

 騎士のヤツはもう本性を隠す気がないのか、気に食わない事がある度に殴ってくる。

 魔術師はその間、例の水晶を向けてくる。

 こんなものを見て喜ぶなんて、本当にどうかしてる。


 戦闘はさすがに慣れてきた。

 相手が狙ってくるポイントがなんとなくわかる。

 ダメージを負わなくなってくると、戦闘中に騎士が邪魔をするようになった。

 敵の攻撃を避けようものなら、騎士の野郎が蹴ったりつまづかせたりしてそれを妨害する。

 避けられる攻撃を食らってしまって、また痛手を負う。

 油断しているヤツが悪いんだ、常に一対一だと考えるな、と騎士は言う。

 治療費の名目で、オレから有り金を巻き上げるつもりらしい。


 回復魔法の効きが悪くなってきた。

 栄養失調で身体がアンバランスな状態のせいだと言っていた。

 まだ死なれちゃ困るんですよねー、と頭を掻きながら魔術師は言う。

 金が貰えなくなると困るの間違いだろう。


 夜。

 今度も果実を見つけたが、真っ赤な皮をした見た事のない果実だ。

 食べてみると甘い汁が溢れ出て随分とうまかった。

 例によって細かく砕いて服の中にしまう。




そして、5日目の朝が来た。 




その頃のオレはというと、すっかり弱り切り、顔は青白く、病人のようになっていた。

川に反射した自分の顔をみて悲鳴をあげそうになった。

追い詰められたオレはとうとう心が折れてしまい、すっかり奴らの言いなりに・・・





なるわけねーだろ!クソが!



むかつくむかつくあーーーーーームカつく!

何度殺してやろうと思ったか、何度細切れ肉にしてやろうと思ったか、数えるのもバカバカしいくらいだ!

せめてオレに戦う力があれば、真っ向勝負もできるがさすがに無理だ。

騎士にも魔術師にもきっと勝てずに返り討ちにあうはずだ。



だが、オレは諦めない。

絶対に、絶対に二人とも復讐してやる。

そしてこんなふざけきった旅を押し付けた国に対してもだ。



そのためには生き残らなくてはいけない。

少しでも良いチャンス、成功の可能性の高い復讐をするには、できるだけ長く生存しなくてはいけない。

勢いに任せて行動してもダメだ、うまく行く計算が立たないうちは。


罵られるたびに。

殴られるたびに。

嫌がらせをされるたびに。

それらをあのクソッタレ水晶に記録されるたびに。


オレは心の刃を研ぎ続けた。

それはそれは、大事に大事に研ぎ続けた。

チャンスは一度しかない。

確実に果たせるように、時を待つ。



だがその日は思いの外早く来る事になる。

自分でも驚くくらい、まるで舞台を用意されたかのような絶好のチャンスが・・・。



予告通り暮れの頃に街に着いた。

門で見張りとやり取りした後街に入った。

中央通りを抜けて宿を取ろうとしたのだが、妙に騒がしい。

広場には大きな鉄の檻が置いてあり、中に少女がいた。

いや、あれは獣人の少女か。

運悪く見つかってしまったのだろう。

獣人や亜人は基本的に捕まったら、処刑がお決まりだった。

悪さしようがしまいが関係ない。

人族ではないという理由だけで殺される、それがグランニアという国だった。



だからこれはある意味当然の事なんだろう。

街の人間はあらん限りの悪言を吐いて少女を罵っている。

脅威から程遠いその幼子のことを。

それを見ているうちにオレは感じてしまった。



この獣人の子は、オレと同じだ。



なんの落ち度もないはずが自由を奪われ、

所縁のない奴ら相手の娯楽として処刑される。

周りに味方はなく、ただ自分の不運を嘆くしかない。

あまりにも力は弱く、目の前の理不尽に太刀打ちできない。

きっと今考えていることも一緒なんだろう。



早くここから逃げ出したい、と。



ここまで思い至って、オレはある計画を閃いた。

例のクズ二人宿を取ったらすぐにでも酒を飲みに行くようだ。

本来オレが貰うはずだった金を片手に。

すでにそれは受け取り済みのようだ、意地汚いのはお前らこそだろう?


道すがら、今日の予定について話し合っている。

もしオレの予想通り事が進むのなら、ようやく始めることができる。



可能な限りの地獄を 二人に見せることを。

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