第21話  たまには こうして

「9998、・・・9999・・・、10000!」

「はいアルフ、お疲れ様。休憩にしましょう。」

「うがぁー、やっとひと段落かよー!」



オレはグッタリと崩れ落ちてしまった。

何をしているのかと言うと、暫定通貨というか紙幣の作成だ。

長い期間の流通は考えていない、復興中限定で使用できるものだ。

長方形の手のひらサイズに、小さく切り分けた羊皮紙に魔力をつぎ込んでいく。

この紙幣は所有者、購入品、未使用か否かなどの、いくつかの情報を記録させることができる。

なので強盗しても無意味だし、商取引でごまかしも効かないなど、かなり万能な紙幣だ。



この暫定紙幣を、復興下での労働の対価にしたい。

配る際に所有者登録をしてしまえば、本人にとっては財産だが、他人にとっては紙くずと変わらない。

つまり、中抜きや不正が起こしにくい。

あと、強盗や空き巣の防止にもなる。

今はまともな姿の家の方が少ないくらいだから、セキュリティ問題は深刻だった。

こんな街の状態で金貨など配ろうものなら、途端に混乱が起きてしまうだろうから。



問題があるとしたら、数が数なので莫大な魔力を要するという点だ。

こんな作業に対してピンポイントな魔法があるはずもなく、オレが強引に魔力で解決している。

オレの場合、術式や呪文、魔方陣や魔力媒体など、あらゆる面倒をキャンセルして魔法を使うことができる。

まぁ、万能に聞こえるかもしれないが、そんな手段で唱えた魔法の燃費は恐ろしく悪い。

オレだけが特別にできるというよりは、オレくらいの魔力があればできてしまうというだけの話。

オレに限って言えば、戦闘魔法はそこまででもないが、生活魔法や便利魔法系のものはかなり相性が悪かった。



今住んでいる家もオレの建築魔法で建てたものだが、一階部分を作っただけで凄まじい倦怠感に襲われた。

変換効率が恐ろしく悪かったらしい。

1階部分が完成した時点でグッタリしてしまい、2階部分が随分適当に作られてしまった。

2階部分ができた時には魔力枯渇寸前で、もうヘロヘロだった。

二日酔いのような吐き気と頭痛に長時間苛まれたものだ。



そして今も同じように枯渇寸前の状態だ。

一気に片付けようとして無理しすぎた、頭痛い・・・。



「アルフ、気分転換に紅茶でも飲む?」

「いや、今はいい・・・。とりあえず横になりたい。」

「そう、よっぽど堪えてるのね。じゃあどうぞ。」

「え、何が?」

「膝枕。床に直接寝転ぶよりはいいでしょう?それともベッドの方が良い?」



リタがカーペットの上に座った。

いつもの柔らかな笑みを浮かべたまま。

窓からは光が差し込んで、リタの背中を照らして輝いている。

少し吸い寄せられるような気分になり、善意を受け入れた。



「移動はいいや、ここでいい・・・。ちょっと借りるぞ。」

「ちょっとでもずっとでもお好きなようにー。」



カラカラと笑いながら膝を差し出すリタ。

程よい柔らかさと体温が、随分心地よく感じる。

寝転がると少しづつながら魔力が戻るのを感じるが、今回は症状が重い。

今回吐き気は薄いが、その代わり頭痛が酷かった。

しばらくは動くことすら難しいだろう。



「あーー!ちょっと何してるんですか!卑猥ですよ、HI・WA・I! 昼下がりの窓辺で卑猥マドモアゼル事件ですよ!」

「いや意味わかんないし、あと大声だすな。」

「アルフー、そんな膝よりもこっちの膝の方がずっといいですよ?ほらミニスカートにハイソックス、こんな姿で膝枕しちゃったら生足フィーバーですよホラホラ!」



なんかペチンペチン叩いてる。

ボンヤリした頭で、冬寒そうとか考えてた。

キンキン響く声にしかめ面をしていると、リタがそっと手で耳を塞いでくれた。

こういう気遣いはほんとうまいんだよなぁ・・・。



それからもアシュリーはあれこれ騒いでいたみたいだが、全部無視した。

もう頭痛でそれどころじゃないんだよ。

雑な対応をされ続け、根負けしたアシュリーは向こうの森へ飛んで行った。

あと、運よくエレナは街の見回りに出て、ミレイアはシルヴィと外で遊んでいる。

問題児がこれ以上増える心配はなくてホッとした。



それからというもの、部屋の中は静かなものだった。

遠くでシルヴィ達が遊んでいる声が聞こえる。

リタはオレの肩をゆっくりトントンと、心地の良いリズムで叩いていた。

彼女は良い嫁さんになるんだろうがなぁ、オレをワールドワイドにしようとする所とかがなけりゃなぁ。



まぁ今はどうでもいいか。

今日は頑張ったから、ちょっと休憩させてもらおう。

このまま寝たら、やっぱ足疲れるか?

そう聞こうと思って顔を見ると、いつもよりも優しく微笑む顔がジッとオレを見ていた。

じゃあ、もう別に聞かなくてもいいかな・・・。



このまま少し寝るぞ、おやすみ。



目が覚めると隣にシルヴィアが眠っていた。

もちろんオレはというとリタの膝の上。

シルヴィアも同じく膝の上。

リタは慈愛に満ちた顔でオレたちを見ていた。



「あ、すまん。さすがに疲れたろう。」

「大丈夫よ、平気だから。・・・たまにはこういうのもいいわねぇ。」



なんか奥さんみたいで、とポソリ。

たしかにはた目から見たら若夫婦とその子供にしか見えないだろう。

こういうところから実績を作るつもりか、さっきの膝枕は布石だったのか?



おそるべき慧眼。

お前の方がよっぽど賢人じゃないか。

外堀が埋まっていく音が聞こえるようだった。

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