第16話  大狐族 リタ


リタです。


大狐族という稀少種の女です。

自分の同族がどれだけいるのかは知らないけれど、ニンゲンが言うにはとても珍しいんですって。

皆は私の事を狐人族などといいますが、正確には大狐族です。

何かと便利だからニンゲンの姿に化けているというだけで、別にニンゲンに近い存在ではありません。

大狐族も狐人族も同じ種族であり、普段の有り様から呼び方が違うだけなのです。



ちなみに私たちの種族は 大狐 と 妖狐 の二種族に分かれています。

大狐は胸に野望や目標を秘めて邁進するもの。

妖狐は自分の快楽や愉しみのみに力を振るうもの、といった感じです。

そして大いなる目標があってアルフの側に侍る私は、当然大狐に分類されます。



その目標とは当然ですが、アルフの偉大さを世界に知らしめる事です。

彼の魔力の素晴らしさをご存知?

私は初めて見たときに感動で打ち震えました。

あの混じり気のない、純粋で完全に調和された、あらゆるものを超越した力。

あれを見て感動を覚えない魔のモノなどいるのでしょうか。



そこで私は考えました、どうすれば効率良くアルフのことを世界が知るか。

それは私がアルフの子をたくさん産み、世界中で活躍させる事です。

彼自体は出不精で、なかなか色んな場所に出向こうとしませんからね。

本人に世界の至るところで力を振るわせるのは中々に難しい。



ならば私の魔力制御の性質と、アルフの純粋な魔力を引き継いだ子に頑張ってもらえば、私の願いも叶うというもの。

偉大なる我が子を知り、産み落とした私を知り、超然としてあらゆるものを凌駕するアルフを知る。

ああ、1日も早く世界中の生とし生けるものたちに知ってもらいたい。



究極の美をもつあの魔力を。



そんな訳で私も何度となく迫ってみたのですが、芳しくありませんね。

傍には撃沈しているアシュリーや、拒絶されているエレナもいるので、私だけ拒まれている訳ではないみたい。

アルフも魔王とはいえ、生身の青年なのだから、人並みに性欲はあると思うんだけど・・・。

それとなく観察してみると、一つわかったことがあります。




彼は想像以上にロマンチストなのだと。




最初は私たち三人を拒んで娘にかまけている姿を見て、ロリコ・・・ウッホン・・・かとも思いましたが、真相は違うようです。

彼は愛のない交わりを嫌っているのです。

あの二人が子供を欲しがっているのも純粋な愛からではありません。


アシュリーは自分が楽をしたいから。


エレナは自分の夢を子供に託したいから。


その事がよほどネックになっているのでしょう、あの手この手で迫ってもガンとして受け入れようとしてません。



では私はなぜダメなんでしょう?

理由がよく見えてきませんね。


毎日料理を作って胃袋を掴んでいるし、


居住空間は整頓させて心地よくし、


雑用があればすすんで片付けて、


アルフが入浴をすれば背中を流し、


それとなく着替えも全て用意をし、


我ながら絶妙のタイミングでお茶を用意し、


寝床の準備も完璧。



そろそろ私に依存して、なしくずしに契りも交わせると思うのですが・・・。

なかなかうまくいきません。

何か警戒心のようなものが働いて、私を受け入れてもらえないようです。

日常の依存度を深めていって、身体の関係を待つのもアリでしょうが、いかんせん時間がかかりすぎますね。

それにできることなら、自分の魅力で落としたい。

正攻法で私の虜にしたい。



エレナやアシュリーよりもずっと女として上位にいること。

それを証明したい気持ちもありますね。

少なくとも鼻水塗れになりながら失神したり、

殿方の部屋の前で性癖について喚くような、

そんな二人の下にいたくはありませんから。



さて、早速向かいましょう。

アルフはまだ・・・起きてますね。

適度に整えた髪、体のラインを出しつつも露出の大人しい服、両手はほんのり甘いにおい。

うん、オッケーですね。



「誰だ?」

「リタだけどいいかしら?」

「・・・入れ。」



あらー、これは・・・。

だいぶ警戒しちゃってるわね。

ここ最近あの二人が張り切っちゃったせいでしょう。

表情も態度もずっと固くなってますね。



全くあの二人もわかってない。

ひけらかすようしてに体で釣るのも、性癖を悪用して引きずり込むのもダメなんですよ。

彼は純情派なんだから、ちゃんと正攻法でいかないと。



「アルフ、私はずっと考えてきたことがあるの。」

「お、おう。」

「私ね、アルフと一緒に生きた証が欲しい。あなたの側にいたというその証を。」

「・・・。」


「愛してくれとまでは言いません。でもほんのひとときでも、気持ちが通じた実感が欲しい。」

「・・・。」

「お願いアルフ。私に子を授けてちょうだい。母親にしてちょうだい。」



どうでしょう、これ。

「普段から甲斐甲斐しく世話する女の健気アタック」なんですが。

おや、アルフがこっちに来ますね、いつもより優しい顔ですが、成功でしょうか?



「リタ、ひとつだけいいか?」

「ええ、なんでも。」

「子が生まれたら何をさせたい?」

「えぇ、そりゃあもちろん魔術の英才教育を施すわ。私とあなたの子なら適正バッチリですからね。そしてその子達を世界中に派遣して数々の困難や横暴を・・・」

「うん、そうか。帰れ。」



追い出されてしまいました。

一体何が悪かったのでしょう、ニンゲンの色恋とは複雑怪奇ですね。

でもこんなもんじゃ諦めません。



絶対に振り向かせてみせますからね。 

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