雑記

二階堂くらげ

7月30日 夢でしか会えない人

 美しい話


 七月三十日日曜日、午前八時三十なん分か、僕は目覚めた。今日は祖母の四回目の命日で、親戚一同で会食をする予定があった。行きたくない、まだ十分に覚醒しきらない僕のすかすかの頭にそういう気持ちが滲んで染みていった。体調が悪いとか、言い訳して休んでしまおうか、うだうだとずっとそんなことを考えながらしばらく微睡んでいた。

良くて悪い寝起きだった。前日はなかなか眠ることができず、少しだけ長い夜をベッドの上でしくしくと過ごした。SNSにやりきれない気持ちをぶつけ、顔も知らない他人に自分の乱雑な気持ちを吐きつけるだけ吐きつけて、落ち着きを保った。ひどく眠れないときはベッドで横になっているだけで疲れてしまい何をしてもダメなような気持ちになる。昨日はそこまでではなかったものの、そんな夜になってしまうのではないかという焦りとイライラはじくじくと心の隅をつついて破こうとしていた。結局眠りにつけたのは午前三時を少し回ったくらいの頃だと思われる。起きたのが九時前くらいだから、大体五時間くらい寝たことになる。その割に僕の身体は特に悲鳴を上げることなく、割とすんなりと起床することができた。そもそも朝に起きられたということが、僕にとっては幸運なことだった。それが、悪かったことと良かったことのひとつだ。

付け加えて、変な夢を見ていた。僕は少なくとも自分の記憶には無い、少し新たしめな感じをさせる教室で授業を受けていた。数学だった。内容は憶えていない。横に長い黒板を線で仕切り、生徒が割り当てられた問題の解を書きつける。そして先生がそれを添削する。僕が高校のときの数学の授業の定番スタイルだった。更には近くの席で話している友達の中に、僕が中学生の時に好きだった女の子が居た。上品で物腰柔らかで、優しい声をしている女の子だった。成績も良く、僕はその透き通るように真っ白で、事実すぐに赤くなってしまうふっくらとした顔も好きだった。僕は教室の一番右前の席に居て、その女の子は僕の後ろの席に座っていた。そして授業の合間の休憩時間に、僕はその女の子にLINEのIDを交換しようと申し出たのを覚えている。その時に進学先が分かれて残念に思っていたということを、ストーカー的な気持ち悪さが混じらないようやんわりと交えて伝えた、ような気がする。その際ここは高校だとはっきり言っていたような気がするので、きっとそこは高校だったのだ。もちろん僕とその子は中学まで一緒だったわけだから、即座に矛盾してしまうのだけれど。もとより近くの席に居る人は皆僕の中学生のときの同期と小学生のときの同期がごちゃまぜに入り交じっていて、規則も理論もなかった。僕の夢はいつでも支離滅裂で、中では今回は極めて理路整然としているし、起床したあとだというのにこんなにはっきりと思い出せるのも非常に珍しい。究極的には、他人が今朝見た夢の話ほどどうでも良い話はなくて、だからどうでも良く聞き流してほしい。とにもかくにも僕はその夢を心地よく感じていた。楽しかった。また中学生の頃好きだった女の子と会えて喜んでいたのだ。でも起きてしまった。現実的には、もう僕がその子と会うことも話すこともない。SNSとかLINEとか友達のつてとかを辿っていけば物理的にテキストでできたメッセージを送付して認識してもらうくらいのことは物理的にはというか現実的には可能ではあるけれど、そういうことで世間は回っていない。実質不可能。たとえ僕が中学を卒業して八年も経った今もなんとなくその人のことを好ましく思っていたとして、そんなことは何の意味も持ってはくれない。僕は二度とその人と話すことはできない。もちろんそんな相手は誰の思い出の中にだって居て、思い出の中に居る以上は夢に出ることだってあって、どうせ起きてルーティーンを終わらせ今日の用事に取り掛かるころには忘れている。いくら理不尽だろうと誰の身にだって起こる。それに文句を言う人なんて居ない。例えるなら、人はいつか死ぬ、自分だって、という現実に文句を言う人は居ないみたいなものだと思う。それでもこんなに長々綴ってしまうのは、それでもやり切れない寂しさがあるからなんだろうか。良い夢を見て、目覚めは悲しくて、それが二つ目の良いところと悪いところである。


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