コーヒーライターブルース
ナイロンロープの首吊り男
英雄マキャベリスト
暗い夜道。仕事帰りの女が一人、トボトボと家路についていた。
寒さが厳しい冬の夜。コートの前をしっかりと合わせ、マフラーに顔を埋めて歩いていた。
駅から家までは歩いて20分。駅を背にして歩き出してまだ5分も経っていない。それなのに…
女の目の前には冬の寒さに立ち向かうかのような格好をした男がポーズを取って立っていた。所謂ジョジョ立ちというやつだ。
シミーズ。そうシミーズのみを纏った男であった。正確にはマスクで顔を覆ってはいたが。
彼の男性自身は天に歯向かうバベルの塔の如くそびえ立っていた。
変態である。紛うこと無く変態である。
逃げたい。逃げなければ。しかし、男の肉体は一流アスリートとも思える鋼の肉体。
恐怖と混乱から体が動かない。脳が働かない。
「・・・ださい」
声が聞こえた。目の前の男から声が聞こえた。まだ混乱する頭には声は聞こえるが意味が読み取れない。
「・・・いてください」
してください?何を?何なの?そもそも誰?というか逃げなきゃ…
まだ混乱しているが、ようやく事態を把握してこの場を離れなければという考えは出た。
一歩後退ろうとしたその耳に今度はハッキリと聞こえた。
「ワタシの万華鏡を覗いてください」
まんげきょう?体が固まった。思考も固まった。あまりに現実味がない台詞が聞こえたからだ。
万華鏡なんて持ってないじゃ
彼の股間からそびえ立つ男性自身。それがこちらを向いた。
万華鏡であった。万華鏡の筒であった。意味が分からない。また思考が止まった。脳が死にそうである。
『待ちなさい!ちょっと待ちなさい!』
急に声が聞こえた。中年の男の声である。目の前の男とは違う声。高い位置から聞こえる。
目の前の変態も狼狽えた様子を見せている。
ふと視線を上げると、そこにはだらしなく腹が出た白髪交じりのメガネのおじさんがいた。
白いランニング。白い股引。でも股引は何か模様が入っている。股間の部分を中心に。
「だ、誰ですか?」
変態が声をあげた。やや上ずった声。動揺している。
しかし、おじさんは男の問いを無視して女に声をかけた。
『お嬢さん。早くお家に帰りなさい。ドラマ始まっちゃうよ?』
女はドラマなんて見ていない。このおじさんなんなんだろう?そう思ったが、確かに逃げるなら今だ。
女は逃げようとした。
「誰なんですかアナタ!失礼でしょうアナタ!」
いや、失礼なのはオマエだろ。女は変態の台詞に心の中で反論した。
『私はキミのような変態から市民を守る者だ。』
そんな人いたんだ。おじさんも変態にだいぶ近いけどなーと思いながら、女はそろそろと後退していた。
「ワタシが変態?それならアナタだって似たようなモノでしょアナタ!」
変態が激昂した。獣の臭いが漂い出した。この場はこれより死地に入る。そんな臭いがした。
『私はキミとは違うよ。私はヒーローさ。』
「ヒーロー?アナタただのオジサンでしょ!」
『私はヒーローさ。私は変態にキツい一発をお見舞いする者。【踏ん張ったら肛門から血ぃ出るマン】だ!』
あー、あの模様って血か…
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