辻橋女子高等学校23 ― 姉としての責務

 ん?


 私にできること?


 なんだ私にできることって。

 今の言い方だと、その私にできることとやらをプレイしていたということだよな。


 沙紀は崩れ落ちた。


 俺が床に顎をつけて伸びている状況で向かい合う形で崩れ落ちた。

 本来であれば、正面に太腿と股で逆Vの字が視界に入るのであろうが、水色のパンツがそれを遮り、上から見ればAの字になっていることであろう。


 正直、さっきからひざ上くらいに存在しているこの水色パンツが、本来穿いていたはずのパンツなのか、それとも二枚目なのか―――その謎が、今俺の視界を遮っているものをめくればわかるのだが、手がしびれて動かない。

 それは置いておくとして……



 さきの頭を思い出す。

 さきの両手を思い出す。

 さきの胸元を思い出す。

 さきの太腿を思い出す。


 全てに共通してあったものは、沙紀の色とりどりのパンツであった。


 


「犯罪者になる前に……姉としてできる事を……姉として……私のパンツならいくらでもあげるから……履いていいから……」



 …………そっか。

 そういうことか。

 パンツを穿き替えさせたかったのか。

 自分のパンツに…………。

 だからあんな自らパンツ掛け器になって俺にアピールしてたのか。自分のパンツを。


 そんなの……言ってくれればよかったのに。履き替えるよ。普通に。言ってくれれば。

 別にクマウサパンツを履きたくて履いているわけじゃないんだ。

 履き替えるに決まってるのに……こんなの。


 なんかシュンとしてしまったな。姉の不器用過ぎるアプローチ……いつもの自分のカラーにはない行動をしてまで俺を心配してくれたんだな……と。


 俺は気づかなかった。気づいてあげられなかった。姉の気持ち。俺のことを大切に思ってくれるその優しさに気づけなかった。変なことをしているなとは思っていた。でも、昨夜のこともあったからその影響もあるのかもしれないし、そういうことをしたい年頃なのかもしれないし、いろいろ考えてしまって一番大切なところを気づけなかった。沙紀なりの不器用極まるその行動の真意を、俺は察することができなかった。


 体が少しは言うことを聞くようになり、上体を起こして後ろにのけぞる形であぐらをかいた。


 あの冷徹な次女、沙紀が今にも涙を流さんとばかりに目の中で涙をためていた。

 我慢しているようにも見えなくはない。

 涙に慣れていないように見えなくもない。

 なんせ、沙紀がないたところなど、軽く記憶を思い返してみてもそんな過去は出てこない。




「……俺の話を信じてほしい。パンツは……履き替えるから……」


 作り話を信じてほしいなんていうのは、この状況なだけに本当につらかったが、それはしょうがないことだと割り切った。

 俺は沙紀の心を落ち着かせるように、優しく言った。


「…………」


「…………」

 

「生パンツが良ければやるぞ。暖かくしておいたから」


「いやいいです。死パンツでいいです。冷たいキンキンに冷えてやがるパンツでいいです」


「……なんだ。そうか。ちぇっ」


 そう言って少し拗ねた顔を見せると、ずっと膝辺りに架かっていた水色パンツを脱いで、辺りにほん投げた。

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