辻橋女子高等学校⑳ ― 水色の架け橋
えっと、今日、履いてたパンツって水色だよね? うちの次女。
さっき、ちらっとパンツが不本意にも視界に入ってしまったとき、水色だったよね?
さっき、別に見たいと思って見たわけじゃなくて、ただそこで息をしていたら目の前に現れただけであって、むしろ向こうから見せてきたくらいに俺は思っているが、とりあえず言えることは、今沙紀の両脚に架かっているパンツの色はその時見た色と全く同じだ。
一体、俺の目の前で何が起きているんだ。そしていつになったらこいつは学校に行くんだ。
「ふぅ……」
何に疲れたのか分からないが、顔につたった汗を拭うようなジェスチャーを始めた。この人は汗なんてほとんどかかない人なんだけどな。まぁでも多分それがメインなのではないのだろうなということはすぐわかった。汗を拭ってなどいないのだろうなということは察しがついた。なぜかと言えば、その汗を拭っているであろうものは、左手に持っていた黄色のパンツだからだ。
疲れたのはこちらですよ、お姉様。
あなたは俺にどうしてほしいんですか。
どういう反応をしてほしいんですか。
もしかしてこれまで私のパンツを買ってくれてありがとう。これからは自分で買いますみたいな、歴代のパンツを並べながら総出で俺に感謝の意を表すと共に旅立ちの意を表しているのでしょうか。
はぁ……。
もうわかんね。
わけわかめだよ。ほんと。
少なくともわかめのレベルは越えてるな。わけこんぶだわ。わけこんぶ。
時計を見ればもうあれから三十分過ぎてる。沙紀の登校にかかる時間は、ドアトゥードアで1時間くらい見ておけば大丈夫だと思うが……。
「おい。もう出たほうがいいだろ、さすがに。はよ準備してくれよ。昼飯はどうするんだ? 食べるなら食べるで軽く作るし、向こうで学食でもいいし」
学校へ向かう身支度を促しながら、俺は部屋の空間を彩るパンツ装飾を手に取り片付け始めた。
…………。
部屋の中で聞こえる音は俺由来の音ばかり。
沙紀が動いている気配を何も感じない。
そっと沙紀の方を見てみると、ただじっと俺のことを見つめてた。
さっきまで指でクルクルと振り回していたパンツと汗を拭くジェスチャー用パンツはその手の中で静止していた。
ただ茫然と俺の動きを見ていた。
「おい、何ぼーっとしてるんだよ。本当に間に合わなくなるぞ。生徒会長なんだからちゃんとしないと。この下着は俺がなんとかしておくから、姉御は自分の準備をしっかりしてくれよ」
視線を沙紀から手に持つパンツたちに戻しながら言う最中、その視界の隅で今の今まで沙紀が手に持っていた2枚のパンツが床に落ちるのが見えた。
ようやく準備する気になったか。
俺はそんなふうに思っていた。
ダダダダダダッ!
今の俺にとってこれほど嫌な音はない。
俺はすぐさま部屋のドアの方を向いた。
その瞬間、やばい!という感覚が全身を駆け抜ける。
沙紀は部屋の出口のドアの取っ手に手をかけていた。
「だあああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」
俺は全身全霊で沙紀に向かってタックルをかました。
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