妃乃里と買い物⑦
「ねえ、見せてくれない? そのトウモロコシ」
妃乃里が店員の左肩に大きな乳袋を乗せて、右腕で首をロックしながら左手を股間に伸ばす。
店員がなぜ股間にトウモロコシを隠しているのかはわからないが、妃乃里も妃乃里で普通に並べてあるものを見ればいいのにわざわざ店員の股間にあるトウモロコシを狙うのはなんでなんだろうか。
「あ……あ、ちょっと何するんですか!どこさわって……あ……あっっ……!!」
妃乃里が「えいっ」と取り上げる。その手に持っていたのは、もぎたて直送とも言えるトウモロコシのありのままの姿だった。先端からはふさふさした白い毛が大量に出ている。
店員はというと、床に倒れて丸くなっていた。頬がほころび顔がほくほくしている。客に渡してはいけないものではないだろうに、なぜ素直に渡さなかったのか、そしてなぜ執拗に股間あたりで保持しつづけたのかは謎である。そんな大切な商品に変な臭いをこびりつかせそうな行動していいのか、店員。
「ねえ奏ちゃん……ここからさ、……なんか出てる」
妃乃里は俺の顔を見てにんまりと口角を上げながら言った。何がそんなにうれしいんだ。トウモロコシの先端から毛が出ているだけじゃねえか。
「それはトウモロコシのめしべだ」
「え……ええっ?! めしべですって?! せい……おしべじゃないの?」
せい?
ほら、と言ってトウモロコシを床と水平に保ち、先端から出ている毛を人差し指に巻きつけるようにくるくると指を回して絡めている。太くて長い棒の先端から無数の糸にも似たものが飛び出しているようにも見える。
「おしべはトウモロコシの茎の先から出るススキの穂みたいなやつだ。それは、黄色い食べる部分を含めて、茎から生えるめしべの集団の一つでしかねーよ」
「めしべの集団……ということは、トウモロコシは一人の男にたくさんの女が群がっているということなのね」
「すげー解釈だな。そんなこと思う人、ひの姉だけだぞ、きっと」
「やだ~~、そんなに褒めないでよ。照れるじゃない///」
褒めてねえよ!
まあ機嫌が良さそうだからいいわ。
妃乃里が今度は垂直にトウモロコシを持って、ふさふさを上に向けて持つと、トウモロコシの皮を一枚一枚、上から下にゆっくりと剥いていく。
すると、次第に表情が緩んでいき、目がどんどん潤んでいく。黄色い粒が全て見えるようになると、それを上下にさすりながら、羨望のまなざしを向けていた。
「ねえねえ奏ちゃん、このカチカチなんだけどカチカチすぎない感じ、そしていい感じの太さ……結構いいかもしれないかもぉ~」
腰のくねくねが加速する。動きが激しいからおっぱいもぷるんぷるん動く。十プルンなんてものの数秒だ。
腰の動きが止まり、今度は何をやっているかと思えば、トウモロコシの付け根を両手で持ち、まるで竹とんぼを回すように回転させていた。しばらく真剣な顔して回転させていたが、次第に妃乃里の鼻の下が伸びていく。
「何が結構いいのかさっぱりわからん。それもより、それまだ買ってないのに皮なんて剥いていいのか?」
「……ん? え、なんか言った?」
どんだけ竹とんぼごっこに夢中になってんだよ。
「さっき太さがどうのって言ってたけど、これなんかどう?」
俺は近くにあった大根を渡してみる。
「こっちの方が太いぞ」
近くに並べてあった大根を取って見せたが、それを見た妃乃里は少し引いたような顔つきになった。ゆっくりと手にとり、しばらく見つめ、「これは……こんな太いの……大丈夫かしら……」と大根を見ながら独り言を言っていたが、しばらくするとまた鼻下を伸ばしていた。
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