えっちな(はーとまーく)おと
僕はその日薄暗い部室で一人袋を叩いていた。
BPMは40と指定されており、わざわざメトロノームアプリまでダウンロードしたのだ。
『ぱんっ……ぱんっ』
「ちぃ〜す」
ヒロくんが何の前触れもなく引き戸を開けて中に入ってきた。
「ぱんっ! ちょっとっ! 音立てるんじゃねぇよ!」
「いや、お前もだろ! 暗がりに一人水枕叩いてよ、新興宗教か何かですか?」
「これには理由があるんだ!」
僕は彼にどうしてこんなことを説明することにした。
「アルバイト?」
「そうだ。君、文化サークルにゲーム研究部ってあるの知ってるだろ? あそこの部長から頼まれたんだ」
「水枕の埃払いか?」
「いいや、えっちな音の録音をね。二回生チームが処女作として制作しているエロゲに僕の作ったこの音が採用される運びとなったのさ。まさに水枕というアイデアに至った僕の脳みそCPUを全人類に分けて上げたいね」
「じゃんぱらで8円ぐらいじゃね?」
「……まぁいい、僕と同様の変態指数を持つ君なら当てられるはずだ。これが何の音なのか!」
『ぱーん……ぱーん……ぱーん、ぱーん……ぱーん……ぱーん』
「BPM40ぐらいの三連符か、しかも水枕のせいで独特の弾力感のある音だ」
「導き出される体位は……?」
「甘く見られたもんだ。これは引っ掛けだろ? おそらく挿入していませんねぇ……、あれであれを弾く音ですねぇ。しかも奇妙なリズムで」
「さすがはヒロ君!」
僕は感動した。さすが僕の心の友!
というより、ゲーム部は処女作のくせにプレイ層を限定しすぎなのでは?
「これが、エロシーン中に流れるのか?」
「そういうことになるね」
「がん萎え」
ヒロ君はゴミを見るような目で水枕と僕を交互に見た。
「俺、音のあるエロシーン苦手なんだよね。感情移入しやすいって奴もいるかもしれないけどさ……ふとした時に思うのよ。あれ、この後ろから突いている時に主人公の腰とヒロインの尻が衝突して鳴り響くパンパン音はどこから来たんだ、ってね」
「ほう?」
「スタジオで声優が自分の尻叩いて出してる音じゃないよね? 別撮りなわけじゃん」
まぁ、そうなるだろう。仮にヒロ君のいう通りならそれはそれで見て見たいものだが。
「どこかで顔もわからないおっさんが謎の道具を使ってこの音を発生させてさぁ、録音してさぁ、その音をオカズにしてんだぁ……って思うと冷めるというか、謎の恐怖感に苛まれる気がするんだよ」
ヒロ君の額にはいつしか青筋が浮きだっていた。
彼が僕の座っている目の前の机を思い切り叩いた。
木と手のひらが激しくぶつかり「ばちぃん」と衝撃が走る。僕は思わず体を強張らせた。
「怒ってるのかい?」
「お前みたいな奴が暗い部室で水枕叩いてる音で抜くことになるオスどもの気持ちを考えやがれぇっ!」
「じゃあ、どうしろっていうんだよっ!」
そうだ、僕はこのエロゲをプレイする人々に自分が立てた水枕の音で抜かせることに、遠回しなセクシャルハラスメントの興奮を得ていたわけではない。
僕は命令に従っただけだ。
「お疲れ様でーす!」
その時部室のドアが開かれた。
オタサーの姫、いや女神の降臨であった。
「祐希ちゃん……」
「どうしたんですか、二人ともピリピリしてますよ? そんな時には、一緒にアップルパイを食べるにつきます!」
何も知らない彼女はお茶を入れるべくやかんを取りに行こうと僕らの前を横切った。
その時だった。
「おい、祐希」
「はい? どうしましたかヒロ先輩?」
「今日専門の科目で習ったんだが……水の入った袋をだな」
まさか、ヒロ君?
君は!
「BPM40の大きな三連符で叩くと、増幅されたエネルギーにより水分子が毎秒20億回振動してお湯が沸くらしい」
「え? そうなんですか!」
「あぁ、ネイチャー誌にも4大学が共同でやった実験の論文が載ったそうだ」
「すごいです! やって見ていいですか?」
「もちろんだ。さぁ椅子に座って、この水枕を一定のテンポで二分間叩いて見てくれ」
僕はその光景に唖然としていた。
でも、きっとこれでみんな救われるよね!
キモデブが立てた音より、美少女が立てた音で興奮したいよね!
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