零れ夢

命萌ゆる誕生の季節の

先陣を切って開いた花は

芽吹く緑を覚えぬ侭

幼い土に抱き留められて

深く爛熟した眠りに就く


薫る風に残る梅の香

春麗を前に零れ落ちては

名残を惜しむ冬に寄り添いながら

先駆ける春を感じて身を引いた


移ろう場所へ落ちて往こう

風よ、私の手を取って

水辺へ優しく導いておくれ

遙か彼方の深山より

忍び流離う湧水ならば

私にとっては昔馴染みやもしれぬ


嗚呼、懐かしき

行方も知れぬ故郷よ

今宵、きみも春ですか

朧月夜の微笑みに

浮気な蝶が夢を渡る

肥やした蜜の膨らみは

誰の秘密を綴じた甘露か

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