山鼠

微睡みが連れて来る安らぎに

心ごと身体を預けるひと時は

冬の忘れ形見に寄り添うような

儚い幸せが身の内に芽生える


春一番が吹いた日から

幾つの暁を覚えただろう

この包み込む漫ろな優しさとも

今年はもうお別れらしい


根雪に佇む樹の洞に

抱かれた山鼠の心地とは

このように穏やかであるのだろうか

無防備に丸くなる姿は愛らしい

温もりと、呼吸と、鼓動とが

削ぎ落とされて死の半ば

それが冬の寒さに抗う術というから

如何にも堪らずいじらしい


小さなきみと同じような

安らぎの中で眠れたならば

夏を越えて

秋を尊び

冬を生き抜いて

また、この春へと帰って来られる

そんな気がしている

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