第7話 猛練習開始

 担任の西口から、島村まゆがある芸能プロダクションから歌手デビューすることになったこと。

 それで多少早退とか欠席とかはあるかもしれないが学校には残ること。

 SNSとかで写真や個人情報とかをあげることはやめて欲しいこと、みんなで協力・応援してあげようみたいなことが話された。


 まさかオレの一番好きなハイパフォーマンスが売りのハロプロからこんな素人丸出しのどんくさいまゆがデビューするとは信じられなかったけど、席を取り囲むみんなの中で、まるで悪いことをしたみたいにうつむいて小さくなっているまゆについに声をかけることは出来なかった。



 すぐに夏休みに入り、8月最終週の新人戦に向けて俺の指導は熱のこもったものになった。

 オレを入れても男子部員は13人しかいないから、西口は全員個人戦にエントリーしていた。

 ムリだと話したはずなのにオレの名前まであったから睨みつけてやったけど。

 

 夏休み中は毎日練習に参加して全員の課題と強みを理解して、アドバイスと猛練習を課した。


 一番オレに怒鳴られたのは部長の大平だった。

 上手いし体力もあるし、頭も良いからなんでもソツ無くこなすけど、何か迫力と言うか気迫?殺気?そんなのが感じられず、相手をぶっ潰す貪欲なプレーではない。

「バカヤロー、なんでそこであと数センチ手を伸ばして叩かないんだ!スイートスポットで打たないと威力が出ないんだよ」

「そこはボレーする所じゃ無いだろう!強打だ。振り抜け!」

「サービスはラケットの先の方を使って少しでも高い打点から打てよ!」

「なんでいつもラケットの真ん中を使おうとすんの?ボレーはもっとグリップ近くで、こうガッと止めてビシッと打つんだよ!」

「ラケット面をボールに向けるのが早すぎなんだよ!グリップエンドをボールに向けて走らせるイメージで最後の最後でラケットを返してぶっ叩くんだよ!!トロいことやってんじゃね~!!」

「ベースラインを通したらそんなへなちょこボールは楽勝で返されるだろうが!もっと厳しくサイドラインギリギリを狙うんだよ!」


 一部員が部長に放つ言葉じゃないけど、大平にはそれだけ期待させるものがあった。

 大平はこれで良いと逆に感謝してくれた。こいつもテニスが好きで強くなるために必死だった。


 あい変わらず痩せる気ゼロの須藤とノッポの熊井はプレースタイルに幅が出て面白いことになってきた。

 いつも二人でやりあっているから息も合っているし、こいつらを組ませてダブルスに出しても面白いかもなと思ったが、今回ダブルスのエントリーはしていないから、9月の団体戦で試してみたら良いかも。


 リンは想像以上に成長してきた。

 苦手なサービスも強打は捨てて、ファーストから丁寧にコーナーを突いて嫌らしい回転のスライスサーブを打たせた。

 ワイド側に滑るように逃げて行くから、相手がやっとのことで返球したボールを俊敏な足であっという間にボールの落下点に先回りして、抜群の両手打ちのタッチで見事に打ち返す。

 こいつは天才だぁ~。

 まゆのことも聞いてみたかったけど、それよりみんなを強くすることが面白くてしょうがない。

 あー、オレも早くラケットを握って打ち合いたいよ!


 8月の最終週、ついに新人戦当日になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る