第69話
「後悔しろ、己の浅慮を。我々には我々にしか分からぬ傷を共有している。貴様ら健常者が、一度も穢れたことが無く、嘲笑の的にしてきた我らは、貴様らと相いれることは決してない。決してな」
「グ、ググ、グルス・ナイトメアウォーカー、何を言ってるんですか。兼代君は冗談でやってるんです。冗談で貴方に付き合ってあげてるんです。きっと今だって隙を伺って貴方をグサリ、です」
「その震えを何とかしてから言ったらどうだ」
グルスが進めた歩みが、心を削る。涙腺に溜まった熱は焼けるように熱くて、磔刑にかけられ火責めにでもされているかのようだ。
「我らには貴様が邪魔だ。神器を持っている者は一人でも減らす。そうすることで我らへの脅威は存在しなくなり、計画の実行が出来るというもの」
グルスの拳が右斜め後ろへ。
「貴様に恨みは募るが、残念ながら殺しは出来ん。もう貴様はここで眠り、静かに我らの計画の成就を見ているといい」
負ける。
確実で完璧に負ける。それなのに、コキュウトスに手をかける気にすらならない。ああ、心が折れてるんだな――と、冷静な箇所が告げた。
グルスの腕はしなり、自らの顔面に迫って来る。
一瞬視界に入った兼代は――やはり助ける気配など、欠片も見せなかった。
「ん?」
応接室。
この度4度目のリハーサルを行っている百目鬼は、頭にピキ―ンと何かを感じ、リハーサルを止めた。
「どうした、優等生。ぎっくり腰にでもなったのかよ?」
「いや。そういうことじゃないんだけど……何か直感が働いてね」
「直感だあ?」
百目鬼はきょろきょろと周りを見回す。
「うん。何となく、悪いものが来ると、分かるんだよね。特に……『変な人』とか」
「不審者ってことか?」
「まあ、間違ってはいない。ま、勘だからなんとも言えないんだけど……どんな状況からでも登場する可能性があるっていう、タチの悪い生き物っているんだよ」
「なんだそいつァ。テメーのお母さんか?」
「お母さんが直々に来るようなら、そもそもみんなここにはいない。すでに解決してる」
「テメーんとこの家族はどうなってんだよ。じゃあ、」
赤間は何気なく、皮肉交じりに尋ねる。
「お前のおにーちゃんかおねーちゃんか?」
冷や汗が、百目鬼の足元を静かに濡らした。
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