第16話『謎の侍現る』
「危ない!」
マミが落ちてる!このままだと頭を地面にぶつけてしまう!首が折れて、昨日のようには治らなくなってしまうぞ。というか死ぬ!
マミが咄嗟に地面にクッションを一つ作り出す。
一つじゃあの高さからの衝撃を防ぐ事なんてできない!
「複製!」
そう言うと、一つのクッションがいくつもいくつも現れた。
クッションを作り出した。というより、そのクッションと同じものを周りに出したという感じだ。しかも地面いっぱいに。
あれもスキルなのだろうか。タレントと相性がバッチリすぎるし。
マミがクッションに落ち、クッションのドサッとした音がなった。
そして、一息ついたと思ったらこちらに走って向かって来た。
目の前で止まり、両手を膝にあて、肩で息をしながら
「そ、その虫眼鏡を・・・負けって認めるから、返して!」
と、赤面で言った。
涙ぐんでいるのか、透き通った水色の目がますます輝いて見える。
これはまずい。大勢の前で女性を泣かせてしまった。
正確には虫眼鏡がやったのだけど、まさかこんな展開になるとは思っていなかった。
「あ、ああ・・・」
掲げていた虫眼鏡を渡す。
すぐにマミは、虫眼鏡を地面に置き、踏んでレンズを粉々に砕いた。
割れたレンズからは何も見えなくなった。
「お兄ちゃん・・・」
なつめが憐みの表情で俺に話しかけて来た。
ああ、何回も言うがそんな表情で俺を見ないでくれ。
「最低だよ」
そんな事は知っている。
最低だとは分かっているが、勝つ方法がこれしかなかったんだ。
マミがポケットからストップウォッチを取り出し、上についているボタンを押した。
そして後ろで誰かが倒れる音がした。
さっきまで止まっていた時間が動き出し、バランスを崩していたメルが倒れた様だ。
何が起こったか分からない様子で辺りをキョロキョロ見回している。
マミはメルのもとへ行き「ごめんね」と言い、手を取り立ち上がらせた。
メルはまだ何が起きたか分からなそうにしている。
「え、もう終わったんですか?」
と首を傾げて聞く。
「終わりました。今回は私の負けです」
マミはため息をつき、応えた。
そういえば少し聞きたい事があったし、マミに聞きに行こう。
さっきの事があって少し話しづらいが。
「マミ、さっきは、そのー、申し訳なかった」
首を横に向かせ、髪を掻いた。マミの顔を見る事ができない。
「はあ・・・もういいです。で、なんか用ですか?」
深いため息をつき、ほんの少し頰を赤くした。
「聞きたい事があって」
そう言うと、マミは静かに頷く。
「なんで攻撃が当たらなかったんだ?」
するとバッグを手前に持って来て、一番大きい所から、一つの手鏡を取り出した。
「これを使って、私の体を実体無きものとして複製させ、動かしてました。」
なるほど、だから攻撃が当たらなかったのか。だとしたら石が蹴れなかった理由もつく。実体がないからものに触れる事はできなかったのか。
そして、俺のスキルも、実体がない、つまり心がない者には通じなかった。そういう事か。
というかいつの間にそんな事してたんだよ。
酒場から出た時は、自分の手で扉を開けていたし、それにコインだってストップウォッチだって触れていた。
「コインとか、酒場の扉とかは何で触れたんだ?」
「それは企業秘密です!」
お前は歩く企業か。
心の中で割と大きめにツッコミを入れる。
戦いを終えた後、酒場に戻った。その間、なつめはずっと憐みの目で俺を見てきて、マミは周りの目を気にしつつ、下を向きながら歩いている。メルは「どうやって勝ったの?」と何回も聞いてくるが、さすがにこれを言えるわけがない。言ったら確実に遠い目で見られるだろうし。
酒場に戻ると、ガイルさんがグラスを吹いていた。カウンターには四つ飲み物が置かれていた。全部リンゴジュースみたいだ。
掃除はちゃんとしてあり、やはり新品の様な綺麗さ。勇者だったのだし、掃除が得意みたいなタレント能力ではないとは思うが、隅々まで清掃したはずなのに戦いを見に来れるとは。どんなタレント能力なのだろうか。
でもガイルさんだけは俺のところを見て遠い目をしたり、憐みの目で見たりとはしないみたいだ。
「メル、なつめ。飲み物飲んだらこの金で仕事着買ってこい。カナタは昨日の依頼を今日中に達成させる事。マミにはちょっと手伝ってほしい事がある」
言われて思い出したが依頼があった。デンジャラスエッグだったっけか。茎が硬すぎて折ることが出来ず、切る事も容易ではない、ある意味最強の花だ。昨日のを見てからだと、確かに子供たちがコルク川周辺で遊ぶとなると、物凄く危ないって言う理由が分かる。しかしどうやって攻略するか。マミに茎を切れる刃物でも作ってもらおうかな。
「マミ、デンジャラスエッグの茎切れるくらいの刃物って創る事できるか?」
「何でも切れる包丁なら作れますけど」
口に指をあて答えた。
何でも切れる包丁とは、極端過ぎないか。
「じゃあそれを創っていただけないでしょうか」
マミは左手の親指を立て、グッドサインをつくる。
カウンターの方を向き、両手を合わせる。
そして、回復薬を出した時のように唱えた。
「商品ナンバー713『鋭利』をクリエイト」
そう言うと、目の前に小さな光が現れ、茶色い取っ手の鋭利な刃物が出てきた。そして静かにカウンターに落ちた。
確かに切れ味は良さそうだけど、こんな10cmくらいの刃物で何でも切れるのか?それに昨日の回復薬といい、そんな感じで出していたなんて。しかもその刃物商品なのかよ。という事は・・・
「代金10万ギフになりますけど。あとそれ10回使ったら壊れます」
やっぱりか。せめて出す前に言ってくれたらよかったのに。それに回数制限もあるとは。
「いや、そんなお金もってない」
「じゃあ貯まったらくださいね。当分この宿に泊めさせていただきます」
ここ宿じゃなくて酒場なんだけどな。
ガイルさんは苦笑いをしていたが、わかったと了承してくれていた。俺らも家が見つかるまでここに泊まるので、何も言えない。
その後、なつめとメルは服を買いに、マミはガイルさんの手伝いを、俺は刃物を装備して、セナとデンジャラスエッグを切りに行った。
というか、マミに手伝ってほしい事とは何だろう。酒場を出て、北の大通りを歩きながら一人で考えていた。歩いている途中、周りからチラチラと視線は感じていたが気にせず歩いた。
20分後、マミが倒れていた場所に着いた。
「なんだこれは!?」
そこには白くて丸く卵のような形をしており、自分の腰くらいまでの長細い茎がついた、花に見えない植物が川沿い何個も何個もあった。
一日も経っていないのにこんなに生えてしまったのか!どんな花だよ!
しかし、この刃で茎を切ったとしても、この数全ては切れそうにない。一体どうしようか。
「んなぁ、お腹空いたのだぁ」
川の反対側から女性の声が聞こえてきた。
顔はよく見えないが、フラフラと歩いているのは見える。そして、地面に倒れてしまった。助けを求めているのか、それともただ単に倒れてしまっただけなのかハッキリしてほしい。
しばらくすると、倒れていた人は立ち上がり、こちらを見てきた。
「お主!なぜ助けてくれぬのだー」
いきなり倒れて怒られても困るのである。
どうせなら助けを求めるポーズでもやってくれればよかったのに。
「頼む!何でもいいからくれ!」
そうか、何でもいいか。ならば。
俺はデンジャラスエッグの茎を刃で切り、実の部分を恐る恐る手に取った。
本当に爆発しない。でも色は白いままなんだな。これ食べれるのか分からないけど向こう側に投げてみようか。
そうして、デンジャラスエッグを向こう岸に投げた。その女性は喜んで、落ちたデンジャラスエッグを拾い、川の水で洗った。
「でんじゃらすえっぐではないか!大好物なのだ!」
え!?これ食えるの!?じゃあ一体いままでどんな原理で爆発してたんだよ!
「うまぁい」
その女性はデンジャラスエッグにかぶりつく。向こう岸にはデンジャラスエッグは生えていない様だ。もしやマミは、爆発する事を知らずに食べようとしたのではと思った。
「今そっちに行く!」
いやいや、何で来るんだよ。まさかまだ貰えると思ってるのか?
女性は少し後ろに下がり、川に向かって走り、高飛びをした。
この川の幅は広いし、普通の人間じゃ飛べるはずがないのである。が、
こっちに飛んでこれた!?こいつ人間じゃないぞ!
女性は地面に着地し、前転をし衝撃を和らげて綺麗に立ち上がり、こちらにダッシュで向かってきた。
侍の様な身形をして、髪はほんのりピンク色で模様の入った白いはちまきをしている。腰には刀もつけている。まるで新撰組みたいだ。
「かたじけない命の恩人!わっちはカグラと申す!で、何かお礼をしたいのだが、何がいいか?」
わ、わっち?それにいきなりお礼がしたいと言われてもな・・・そうだ、その刀でデンジャラスエッグの茎って切れるのだろうか。
「あ、ああ。俺はカナタだ。で、出来たらだけど、デンジャラスエッグの茎って切れるか?」
「もちろん!容易いぞ!」
え?できるの?
カグラは、デンジャラスエッグが無数に生えている部分の中心部に、花を華麗に避けながら行った。
そして立ち止まり、刀の柄を手に取り腰をすくめて神経を集中させている。
あたりの空気が変わったみたいだ。風が先ほどよりも繊細に感じとれる。それにこの緊張感は一体・・・
『狂うように舞い踊り風を斬れ____乱月!』
刀を抜く金属が擦れる様な音がしたかと思うと、カグラはその場から消えてしまった。
一体どこに行った・・・?
探していると、数秒後、もといた場所に立っていた。静かに刀を鞘に入れると、まわりにあった全てのデンジャラスエッグの茎が一斉に切れた。まるでアニメやゲームの世界を間近で見てるみたいである。
「さぁカナタ!これ全部町に持ち帰って腹がいっぱいになるまで食べようではないか!」
カグラは万歳をしながら笑顔で言った。
これ全部食べるのか!
でも、一度食べてみたい。
あの美味しそうにかぶりついていた姿を見た後だと妙に食欲が湧いて出てきた。
依頼も達成した事だし、実を全部ポーチに詰めて帰るとするか!
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