第14話 『不思議な1ページ』

風呂に入り、二階にある借りた部屋に入る。どうやら一人一人部屋があるらしい。

廊下は結構狭くて、奥から右、左と順々に部屋に入る扉が合計五つある。

俺が入ったところは奥から三番目の右にある扉の部屋。


メルは一番奥、その次になつめ、俺、マミ、という様に部屋が割り振られている。

部屋の中は大体五畳半ほどの大きさで、端の方にはベッド、その反対側には机が置いてあるだけの部屋だ。


 そこまで良い部屋は要求できないし、泊めさせてもらえるのに文句なんて言えやしない。

ポーチを机の上に置き、ブックを手に取りベッドに横たわる。

何か面白そうな機能はついていないのだろうか。アプリは地図と時計と魔物図鑑しかない。

魔物図鑑、そういや見てなかった。


 どれどれ・・・魔物図鑑のアイコンをタッチする。すると、目の前に魔物図鑑がステータスの様に現れた。

 どうやら手で画面を左右に動かしたりすると、ページの移動ができるらしい。

 えーっと・・・今まで会ってきた魔物一覧?

 開いてみると一番最初に出て来たのはゴブリン。

左のページに姿が、右のページには説明がだらだらと書いてある。

『ゴブリンは、肉食。しかし、人を食べる事などはせず、豚や牛を狩って食べている。人を襲う時は大体持ち物などを奪うためであると言われている。』

 そうだったのか。結構この図鑑面白いな。


 次のページは、おばキノか。

『おばさんキノコは通称おばキノと言われ、日々それぞれの森のバーゲンなどがあったら必ず行く。なので、森のバーゲンを見ると、おばキノがぞろぞろいて気持ちの悪い景色を作り出す。それにおばキノ同士の抗争も激しい。買い物をするときだけ。』


 森のバーゲンなんてあったのか。

フィレスの森にはそれらしいものはなかった様な気がするが、本当はあったのかな?


 そして次のページをめくると、そこには髪の長い見知らぬ女性が映っている。

これ・・・魔物名が【セナ】って書いてある!

という事は、今映っている女性がウサギのぬいぐるみの主って事か!

説明はどんな感じなのだろうか。


『元魔王の幹部。20年前の魔王討伐の勇者によって倒され、原因は謎だが、自主的に魔王の幹部を辞めた。

 攻撃が一切通らず、逆に攻撃をすると攻撃した側がダメージを受けるという【薔薇の要塞】というタレント能力を持っている。』


 おそらく自主的に辞めた原因は精神攻撃だろうとすぐに分かった。

それに、タレント名って薔薇の要塞なのか。初めて知ったが、カッコいい名前だ。


 俺もこんな感じのチート能力がよかった。主人公らしく。

またページをめくると、オーガ、フィレス・・・森の中で会った魔物がそれぞれ続いていた。


 そして最後のページ。

名前と姿がモヤモヤで隠れていて全く見えない。だが、説明は一応書いてあるようだ。


『最後の希望。』


  その一言だけだった。

最後の希望・・・一体何の事だろうか?それにそんなやつと今まで会った事があるか?

今まで会って来た魔物以外のみんな人間だから、そんな事があるはずがない。


 一体何の事なのやら。

  時計を見ると、もう24時。メルとなつめはまだ働いているみたいで、俺は明日に備えて寝ていいよと言われた。 下の階は、客達の声が聞こえてくるほどうるさい。この環境で寝れるかどうかはともかく、 明日はどうしよう。


 朝っぱらから戦うって言ってたけど、正直キツイぞ。でも人数制限無しって言ってたから、なつめは戦えないだろうし、メルと俺で戦うのが一番良いか・・・しかしマミの方は一人なのに、何で人数制限無しで良いと言ったのか。唯一の疑問だ。

考えているうちに、目が段々と閉じて来て、眠りについてしまった。


そして次の日の朝。


 な、何だか体が重い・・・誰か乗っているのか・・・?

いや違う。なんか細くて先端が丸いものが俺の腹に横向けで置いてある。そう、乗っていたのはメルの杖。そしてベッドの横にはメルがいた。


「カナタ!7時です!今日はマミさんと戦うんでしょ!」

そうだった。しかし、この杖をどかしてくれないと起き上がる事ができない。


 それにしてもこんな重い杖を、毎回毎回軽々しく振っているなんて、どんな筋肉の持ち主だ。

俺が起き上がれなさそうにしてもがいているのをやっと気づいた様で、杖を片手でとる。

 そして、部屋を出て行く際に、手招きをして、

「ご飯ももう、できてるよ!」

と言った。


 無料で朝食付きとは、神宿か?


 元の世界にいた時は、お母さんがパートの仕事とか色々やっていたので、なつめが朝昼晩の飯を作ってくれていた。昼食以外は、料理の乗ったお盆を俺の部屋に持って来ていたが、毎回毎回『完食しなかったら殺すよ』と笑顔で言ってきた。

 あの顔は狂気だったな。全くお母さんはとんでもない妹を産んだものだよ。


 そして、洗濯された良い匂いのする服を着た。というか、防具がないからずっとパジャマを着ている。

レベルも上がった事だし、そろそろちゃんとした防具が欲しいな。

机の上にあるポーチを腰にかけ、狭い廊下に出て、あくびをしながら階段を降りる。

店内には数人の女性とガイルさんがいる。


  昨日の夜が騒がしかったからか、違和感を感じてしまう。

「あ、カナタさん。早く朝食を食べて勝負を!」

マミが立ち上がり、やる気満々な様子で言った。

朝食はパンだ。


 その横にはオレンジみたいな色をしたジャムがある。

 席に座り、テーブルの上に乗っているジャムが入った袋を切り、ジャムを皿に乗っているパンにつける。

これは・・・ジャム袋から出したら、忽たちまちオレンジの甘い良い香りが辺りに広がる。

なつめもメルも香りを嗅いで幸せそうな顔をしている。そしてマミは得意げな顔をしている様に見える。まさかこのジャムもマミが作ったというのか。


 一体どういう能力だ。

そして、パンを口に入れる。

 さっきまで辺りに広がっていた香りの元を食べる。

入れた瞬間、口の中にもオレンジの甘い香りが口いっぱいに広がる。それに、美味しい。モチモチのパンに、甘い香りの美味しいオレンジジャム。最高の組み合わせである。

美味しすぎたので、いっぺんに口の中に入れた。


 普段はこんなもんじゃお腹いっぱいにならないのに、満腹になった。

「それでは、行きましょうか!町の中で戦うのはよくないので、北門の近くで戦いましょう!」

 マミがそう言い、みんなを立ち上がらせ、みんなで酒場を出て行く。

ガイルさんも興味があるらしく、後で行くと言って店内を掃除し始めた。

さて、どんな戦いになるか。

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